第十四・・階層に転移した俺は、その場に座り込み、端末を通して侵入者たちの様子を見ることにした。


「シオン様、ココで……第二〇階層で迎え撃つのであれば、一度カノンたんの待つ最深層に戻ってもよかったのでは?」


 サブロウがおずおずと俺に問いかける。


 侵入者を妨害する配下の配置や、罠の設置は先程の待機時間に完了させている。今、俺に出来ることは特になく、暇なのでサブロウで遊ぶのも悪くはないが……新たに発見した原石の性能を確かめるか。


「マオ、サブロウに今回の作戦の全貌を伝えよ」

「――! ハッ!」


 話を振られたマオは目を見開くが、すぐに姿勢を正して肯定の声をあげた。


「総帥、ココは恐らく第二〇階層ではありません」

「ハッハッハッ! 第十災厄ディザスターテンよ、これは異な事を。先程、シオン様は侵入者どもに第二〇階層で待つ! と言っておったではないか! んー? 敬愛すべき我らが王――シオン様のお言葉を聞き流すのは、第十災厄よ! お主は先程ほーーーんの少し褒められたからと有頂天になっておるのでないか?」


 無駄に話が長いな……思わず、途中で燃やしそうになったぞ。


「総帥、恐らくソレこそがシオン様の仕掛けられた罠かと」

「――!? な、な、なーーにーー!? っと……ふふふ、知っておった……知っておったわ! 我はお主を試したに過ぎぬよ! ち、ち、ちなみに……我が答え合わせをしてやろう! ココはどこなのか、その理由も述べてみよ!」

「フッ、我もその答えが合っているのか……チームJの参謀として確認してやろう!」


 何故か、無知のサブロウと共に面白スライムも威厳ある声で偉そうに立ち振る舞う。


 え? あのスライム……流暢に喋れるのかよ……。


「総帥、思い出して下さいませ。シオン様は最深層を発つ時、ヤタロウ様に何と言っていましたか?」

「ヤタロウ殿に……? ハッハッハッ! 第一参謀よ! 我輩の代わりに答えることを許そう!」

「――! な、ならば……第十災厄ディザスターテンよ! 我の代わりに答えることを許そう!」

「……ハァ。えっと、シオン様はヤタロウ様に『12時間ほど離れるが、大丈夫か?』とおっしゃいました」

「うむ……」


 サブロウがチラッと面白スライムを見ると、面白スライムはぷるんっと全身を震わす。


「……正解だ!」

「最深層を経ってからすでに8時間40分が経過しております。となると、約束の時間まで残り3時間20分。侵入者たちが1階層を攻略する平均的な時間が5時間。と、なると……シオン様がヤタロウ様との約束を守るとすれば……」

「――! ココは第十三階層……もしくは第十四階層か!」

「……と、私は考えました」

「正解だ」


 俺は拍手と共にマオに賛辞を告げる。


「ハーハッハッハッ! 正解! 正解だ! さすがはチームJで災厄の名を――」


 ――《ファイヤーランス》!


「ハァァアアン!?」

「で、マオ。作戦は以上か?」


 邪魔者を燃やしたところで、原石マオとの会話を楽しむ。


「ハッ! 後は先程シオン様がいい感じに毒を与えました。愚かなる人類は我々カオスを本能で拒絶しております。圧倒的な戦力差、そして命の危機でもない限り、降参することはありませんが……心が揺らぐ可能性はございます」

「ほぉ……続けよ」

「先程の侵入者たちの反応を見る限り、2つの反応を見て取れました」

「2つとは?」

「1つは、絶対的な憎悪。何があっても屈しないという魔王カオスに対しての憎悪。もう1つは、驚き。シオン様の登場になのか、提案になのか、はたまた会話が成立したことになのか……憎悪よりも驚きの感情が勝っておりました」


 んー、賢い。落ち着いたら、自称軍師のカノンと引き合わせてみてもいいかもな。


「そこから導き出せる答えは?」

「熱量、モチベーションの違いは、往々にして絆や足並みを崩すきっかけとなります。今回の相手が少数精鋭の勇者ならばこそ、崩れた足並みが大きな弱点に……そして、その弱点を作ったシオン様の叡智に敬服いたします」


 マオは深々と頭を下げた。


 さてと、それじゃここいる他の奴らに作戦を共有する意味を込めて、マオの言葉をまとめるか。


「マオの話をまとめると、第二〇階層で待ち構えていると思っている侵入者たちに、ココ――第十四階層で奇襲を仕掛ける。そして、侵入者たちには魔王カオスへの憎悪――モチベーションに差があり、俺からのオファーで険悪になり、足並みが崩れているから、そこを突き攻撃を仕掛ける……以上でいいか?」

「……はい。以上となります」


 震える声でマオが答える。


「惜しい。90点だ」

「ハーハッハッハ! 惜しい! 惜しいぞ! 第十災厄ディザスターテン!」


 ――《ファイヤーランス》!


「ハァァアアン!?」

「お前は0点な……っと、懲りないアホのせいで話が逸れるな。あともう1つだな。仕掛けた罠は以上だが、先程直に話して、この後の防衛に活かせそうな情報があっただろ?」

「活かせそうな情報ですか……?」

「所属だ。奴らは所属はどこだった?」

「……セントラルエリア。――!?」


 マオが何かに気付いたのか、目を見開く。


「セントラルエリア……まぁ、恐らく中部地方あたりの人類の集まりだろうが……集まりと言うことは、元々地元で組んでた勇者パーティーの選抜メンバーだろう」


 勇者……というか、人類は最初は地元――近場にいた人類同士でパーティーを組む。


 リナの話によれば、金沢の勇者さま御一行も大学のサークルメンバーで組んだパーティーだった。


 セントラルエリアの勇者たちは元々は各県ないし各市町村で活躍していた勇者さまの選抜メンバーなのだろう。


 故に、チームワークにチグハグさが見え隠れする。


「せ、選抜メンバーということは……我々も対抗してアスター皇国の選抜……厳選された選抜メンバーである我々チームJが――ハァァアアン!?」


 燃えカスは放置して、話を続ける。


「侵入者たちと同ランクの装備品を装備させた配下たちを防衛として配置してある。そこで侵入者12人の距離感を調べ、そこを破壊することで完全な勝利へと導く」

「……シオン様、愚者なる我輩に……具体的なご指示を……」

「例えば、距離感の近い……言い換えれば、元々パーティーを組んでいた者たちを把握し、その者たちを分断するように戦闘を仕掛ける」

「りょ、了承しましたぞ……さ、さすがは……神算鬼謀の魔王にして、我輩のうえに君臨する唯一の魔王……シオン様ですぞ……」


 息も絶え絶えに独特な称賛をするサブロウを尻目に、俺は端末に映る侵入者たちの観察を始めるのであった。

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