オファー(毒)
「知っての通り、アスター皇国には現在40万人ほどの人類が平穏な日々を過ごしている」
大変革前の石川県と富山県を合わせると、およそ200万人。石川県の県南はカオルに支配されているとは言え、かなりの数の人類を囲っていると自負している。
「……40万人」
「そんなにいるのか……」
「平穏な日々だと……」
「騙されるな、
「知っての通りとか言ってるが……有名な話なのか?」
「バカが! その言葉すらも奴の策謀だ」
侵略者たちから動揺が見え隠れする。
「いやいやいや、嘘じゃねーよ」
アスター皇国の人口の推移は、定期的に田村女史から報告があるからな。
「黙れ! ならば、何故このような危機的状況にも関わらず人の……創世王に
「危機的状況って
「当たり前だ!」
危機的状況か……。確かに、アスター皇国が建国されて以来、一番規模の大きな防衛となっている。敵の数も多いし、選択を誤れば支配領域を失う可能性もある。
故に、魔王である俺が自ら防衛の最前線に出向いている。
とは言え、うちはまだまだ余裕がある。危機的状況と言われるほどにまで、追い込まれてはいない。
「んー、お前の誤ちを2つ指摘しよう。1つ、アスター皇国は全くもって危機的状況ではない」
「強がりを言うな!」
「俺の言葉が強がりなのかは……数日以内にわかるだろう」
リナたちが新潟の支配領域を落としたら、防衛に戻ってくる。そうなれば、あっという間に戦局は変わるだろう。
「……」
自信満々に言い切る俺を見て、侵略者たちが押し黙る。
「2つ目だが、アスター皇国の人類の姿を防衛で見ないのは、俺の――アスター皇国の方針だ」
「……方針?」
「アスター皇国の人類には最初に選択を与えている。戦うか、否か。非戦闘を望んだ人類には、支配領域内で生産をはじめるとするバックアップを任せている。戦闘を望んだ者に関しても、同族――すなわち人類との争いには極力関わらないように配慮している」
一部例外はいるが、それを言う必要はないだろう。
「嘘だ! 魔王は人を盾……戦奴として扱っているじゃないか!」
「どこの魔王だよ……。アスター皇国ではそんな扱いはしたことがない」
人類は未だに、魔王をすべて
失礼極まりない話だ。
「俺は……俺は……実際にこの手で……」
「だ、か、ら! どこの魔王だ? 人類にも善人がいたら悪人もいるだろ? 魔王も個性は千差万別だ……ってか、そんな初歩的なことも知らないのか?」
人類の知識ってこんなにも遅れていたか?
「落ち着け……。お前の気持ちは分かるが、目の前にいるのはあいつじゃ……沼津の魔王じゃない」
「だけど……!」
この泣き虫の侵入者は魔王に強い恨みがあるようだ。
「っと、オファーを続けていいか? ちなみに、うちの臣民になれば、漏れなく全員にマイホームを贈呈しよう。無職……はさすがに不要だから、働いてもらうが……就職先は様々あるぞ? セントラルエリアの勇者! と呼ばれたその腕を活かして戦闘職でもいいし、心機一転、畑仕事なんて選択肢もある……学校もあるけど……そこの君なんてまだ年齢的に学生じゃないのか? 食べ物にはまず困らないし、病気や怪我をしても無料で治療する。どうだ? アスター皇国の臣民にならないか?」
俺は早口にアスター皇国の魅力を告げる。
「ふざけるな!」
「っと、いきなりこんなオファーされても驚くよな? と言うわけで、お前たちに考える猶予を与えよう。具体的には、時間ではなく場所だ。俺はこの先――第二〇階層でお前たちを待つ。返事はそこでくれればいい」
「ふざけるな! 今、この場でお前を倒してやる!」
おぉ……血気盛ん。先程の泣き虫くんが、剣を抜いて叫ぶ。
「ふざけてなどはいないが……そうだな。ちなみに、俺のオファーに今すぐ答えてくれる者はいるかな?」
侵入者たちを見回すが、首を縦に振る者はいない。
「魅力的なオファーだと思うのだが……まぁいい。戦闘が希望なら、此処から先は少しだけ防衛の難易度を上げるか……うちは、どうも危機的状況らしいからな」
「ふ、ふ、ふざけるな! 今すぐここでお前を殺せばすべてが終わる!」
泣き虫くん改めてふざけるな君とかにしようか……?
「ここで相手をしてもいいが、こちらにも魔王としての矜持がある。俺に会いたくば……第二〇階層まで来ることだ。それでは、セントラルエリアの勇者諸君、失礼するよ。オファーはしばらく有効だ。道中、存分に検討してくれ――《転移B》!」
毒を仕込み終えた俺は
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