仕込み

 第十三階層に転移してから8時間後。


 こちらが移動して調整したこともあり、予定通りの時間に侵入者たちとの対面を果たした。


「この気配……有象無象の雑魚とは違うな……創世王ジェネシスの眷属か……! 全員、気合を入れろ!」


 先頭を歩いていたBランクのミスリルシリーズと懐かしきダーインスレイヴを装備している人類の号令で、侵入者たちが武器を構えた。


 武器もBランクで錬成可能なユニーク装備か。


 人類の鍛冶師の手により強化されているとは言え……所詮はBランク。


 錬成Aランクの魔王はまだ誰も討伐されていないようだ。


 さてと、それでは挨拶をしようか。


「よく来たな、人類諸君。君たちはどこの勇者さまかな? 岐阜か? 愛知か? それとも別の地域の勇者さまか?」


 人類は際立った活躍を見せる者を勇者と呼ぶ傾向があり、旗頭としてなのか地名+勇者の肩書を付けられることがほとんどだった。


「その口ぶり……貴様……元魔王か……」


 槍――ゲイボルグを手にした侵入者が口に手を当て、呟く。


 さすがに創造された魔物は日本の地名を言わないか。


 などと感心していると……


「愚劣なる人類が!!!! 誰に……!!! 誰に向かって口を開いているか理解しているのか!!!!」


 後方に控えていたイザヨイが怒りで全身を震わせながら、地を揺らすほどの怒号を上げた。


「――! く、来るぞ! 構えろ!」


 イザヨイの殺意にされた侵入者たちが戦闘体制に入る。


「コロス……コロス……コロス……愚劣なる下等生物よ……塵一つ残さずこの世から滅してくれようぞ!!!」

「イザヨイ」


 俺は静かにイザヨイの名を呼ぶ。


「――! し、失礼しました。近くに控えていたにも関わらず、あのような不遜な態度を許してしまい……即座にあの塵芥を掃除して――」

「イザヨイ! ……黙れ」


 俺は言葉に強制力を乗せ、再度告げる。


 先程とは違う感情で全身を震わせたイザヨイが、一歩後ろへと下がる。


「人類諸君、失礼した。こちらが名乗らずして、一方的に質問を投げかけるのは無粋だった。改めて……俺の名前はシオン。アスター皇国の王――シオンだ」


 こいつらを待ち伏せた理由の一つは情報収集だ。俺はこれからの会話がスムーズになるよう、挨拶をした。


「シ、シオン……」

「ま、まさか……本物のジェ、創世王ジェネシスなのか……」

「情報部の話だと……第三十階層まであるんじゃないのかよ……」

「み、みんな落ち着け……考えようによっては……チャンスだ」

「そうだ! チャ、チャンスだ……。なろうぜ! 日本……いや、世界唯一の十三凶星殺しゾディアックキラーになろうぜ!」

「むむむ……十三凶星殺しゾディアックキラーですと……! 悪くない、悪くない響きですぞ! その称号いつか我輩が使わせてもらおうか」


 突然の俺とのエンカウントに恐れ慄く侵入者たちと、アホなことをメモり始めるサブロウ。


 燃やしたい……この笑顔。しかし、ここでサブロウを燃やしたら、色々なモノが台無しになってしまう。


「コホン……で、俺は名乗ったわけだが、お前たちはどこの勇者さまかな?」


 再度、侵入者に問いかける。


「……」

「どうした? 俺はそんなにも難しい質問をしたか? それとも会話を楽しむこともなく、殺伐とした殺し合いがご希望か? スライムにも劣る低能な存在だな」


 余計な情報を漏らすなとでも厳命されているのか? 人類側の情報統制はかなり強いようだ。


 んー、次なる手はどうする……と悩んでいると、


「……セントラル。俺たちはセントラルエリア所属の勇者だ!」


 後方で大剣を構えていた、体躯に優れた侵入者が答えてくれた。


「な!? ば、馬鹿野郎!」

「ヨウイチ! 些細なことでも情報は漏らすなと言われているだろ!」

「チッ……だから、こんな田舎者の脳筋は置いていくべきだったんだ」

「あん? 誰が田舎者の脳筋だよ!」

「落ち着け! 目の前に敵が……創世王ジェネシスがいるんだぞ!」


 緊張の糸が切れたのだろうか。軽い言い争いが起きる。


 そんなことより、セントラルエリア……?


 そんな地名かランドマークあったか?


 セントラルって……中央とか、中心って意味だったか?


 中央エリア……?


 ――!


「ひょっとして、中部地方か中日本のこと?」

「ち、違う! セントラルエリアだ!」


 中部とか中日本よりセントラルエリアのほうが響きはいいか。


 ってことは、関東はイーストエリアで、関西はウェストエリアとかか?


 まぁ、どうでもいいか。


「とりあえず、ここでお前たちを待ち伏せた理由を告げてもいいか?」


 さてと、そろそろ毒を仕込もうか。


「待ち伏せた理由だと……?」

「そう。アスター皇国の王である俺がここで待っていたのは――お前たちにオファーするためだ」

「……オファーだと?」

「単刀直入に言おう。アスター皇国の臣民にならないか?」


 俺は侵入者たちにオファー内容を告げた。


「な!?」

「は?」

「え?」

「ば、バカにしてるのか!」


 オファーを聞いた侵入者たちの反応は様々だが、見え隠れする感情のは――怒り、或いは驚きか。


「バカにしている? いやいや、これはアスター皇国の王からセントラルエリアの勇者たちへの真剣なオファーだ」


 俺は恐らく善人に見えるであろう、素敵な笑顔を浮かべるのであった。

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