隠れた逸材

「シ、シオン様……改めて……この愚かな私めにご説明をお願いできますでしょうか……」


 こんがりと焼き爛れたサブロウが地に頭を付け、懇願する。


 パッと見は瀕死に見えるが……このアホは《炎耐性》持ちなんだよな……。見た目に反してダメージは小さいから、反省してないんだよなぁ……。


 カノンがこの場にいたら、ゲイボルグで貫けと真剣に進言してくるだろう。


 と、これから敵を迎え撃つのに貴重な戦力を消耗させるのは俺も不本意だ。遊びはこれくらいにして、本題に進むか。


「説明してもいいが……見当も付かないのか?」

「はい……まったくもって……」

「ちなみに、この中にわかる奴はいるか?」


 俺はこの場にいる配下たちの顔を見回す。


 チームJの面々は個性的な変わり種が多く、全員が元魔王か人類・・・・・・・・・だ。俺の策謀に気付いている可能性もあるだろう。


 ――!


「そこのお前。そう、お前だ」


 俺は元エルフ種の魔王だった女性を指差す。


「わ、私でしょうか」

「そうだ。えーっと名前は確か……」

第十災厄ディザスターテン第十災厄ディザスターテンのマオです」


 マオ……。七尾市あたりで配下にした魔王だったか?


 知略に長け、落とすのが面倒だった支配領域の魔王だ。降した後は、ヤタロウに預けていたはずなのに、いつの間にかサブロウ――チームJに取り込まれていた配下だ。


「マオ、間違っていても構わない。俺の立てた計画を答えてみよ」

「愚者たる私が深謀遠慮なるシオン様の策謀を計り知るのは――」

「マオ、前置きはいい。俺の質問に答えよ」

「は、はい……。失礼致しました。現在、敵が進行している階層は第十一階層と聞き及んでおります。そして、シオン様が転移先に指定された階層が第十三階層。その答えは、時間であると考えます」


 ほぉ……。やはり、この配下は賢いな。


「時間。何の時間だ?」

「《転移B》のクールタイムを稼ぐ時間です。愚かなる人類たちが侵略を開始してからおよそ72時間。単純計算となりますが、1日あたり6時間休息を取ったと仮定すると、この敵が1階層を踏破する時間はおよそ5時間……」


 マオは不安になっているのか、チラチラと俺の顔色をうかがってくる。


「続けろ」


 俺はマオに推測の続きを促した。


「は、はい! 敵が第十一階層のどこにいて、ここが第十三階層のどこなのかは私には知る由もありませんが……仮に、敵のいる地点が第十一階層の中間地点、そしてここが第十三階層の中間地点と仮定すると、敵がここに到達するのはおよそ10時間後になります。当然これは推測の時間となるので、早まる可能性も遅くなる可能性もありますが……こちらが移動をすれば調整は容易です」

「ここまでは正解。推測を続けよ」

「ありがとうございます。すなわち、敵が私たちの元に辿り着く頃には再び《転移B》が使用可能となります」


 ちなみに《転移B》のクールタイムは8時間だ。敵の到着予定時間はマオが推測した通り10時間後。2時間は安全マージンだし、マオの推測通りクールタイムを終えたらこちらから移動して時間を調整する予定だ。


「なるほど! つまり、シオン様は敵を撃退した後、すぐに帰還できるように時間を調整した訳ですな! 流石はシオン様! 神算鬼謀と恐れられた我の――」


 ――《ファイヤーランス》!


「ハァァアアン!?」

「すまん。邪魔が入ったな。それとも、お前……いや、マオの意見もこいつと同じか?」

「……」


 ――マオよ、正直に答えよ!


 サブロウに義理立てでもしているのだろうか。俯いてしまったマオに俺は強制的に答えさせる。


「こ、ここからは本当に推測となり……答えも曖昧となることをお許し下さい。シオン様の目的は恐らく敵の観察……そして、何らかのを仕込むことでしょうか……愚者たる私が推測出来たのはここまでとなります。何卒……お許し下さいませ」


 マオを顔面蒼白となり、頭を深く下げた。


 マオの推測はほぼ当たっていた。


 こんな優秀な人材が道化集団――チームJに潜んでいたのか。


「マオよ」

「は、はい……」

「希望の所属先はあるか?」

「――な!?」


 サブロウが口を大きく開ける。


 というかサブロウよ……参謀は面白スライムじゃなくて、マオにしとけよ……。


「僭越ながら……私の希望する小隊はチームJです」

「ほぉ」

「チームJは私にとって家族のような存在です」

「――な!? いかん……いかんぞ……第十災厄ディザスターテン……我輩の正妻ポジションを狙いたい気持ちは十分に理解できるが……我輩にはカノンたん……そしてリリという、かけがえの――」


 ――《ファイヤーランス》!


「ハァァアアン!?」

「マオよ、本当にチームJでいいのか?」

「……え、えーと、はい。こんな総帥ではありますが、誰よりも私たちを……仲間を大切にしてくれます」

「ほぉ」


 俺は焼け爛れてビクビクしているサブロウを一瞥いちべつする。


「それに、シオン様の見出してくれた才覚をチームJでも発揮はできております。どうぞ、これからもチームJを通じてシオン様に貢献することをお許し願います」


 道化集団――チームJが躍進した理由の1つはマオだったのか?


「まぁいい。これからもアスター皇国の為に励んでくれ」

「ハッ! 天地神明にかけて!」


 さてと、お喋りはこの辺にして防衛の準備に入ろうか。


 俺はスマホを操作し、防衛の準備に入るのであった。

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