魔王の動向

 リナたちが出陣してから10分。


 当初は、3分後にサティ――愛知県の鉄風王ストームが動く予定だったが、さすがに人類が動いていないのに動くのは不自然だとの話もあり、今は待機している。


 予定では、俺の支配領域が侵略されてから3分後に、鉄風王が動くことになっている。



 16 名無しの上級魔王 ID︰0013

 サブローはもう出たか? 俺も出ていいな?


 17 名無しの上級魔王 ID︰0027

 サティ、落ち着けwww

 まだ、人類は動いてねーよwww


 18 名無しの上級魔王 ID︰0801

 私はもう動いてもいいでしょうか?


 19 名無しの上級魔王 ID︰0027

 ヤオイちゃんがやる気満々で草www

 どうせ連動するなら華麗に連動しようぜwww


 20 名無しの上級魔王 ID︰0007

 サブローさんの出撃がネットで話題になり始めましたね


 21 名無しの上級魔王 ID︰0077

 わぉ! かなりド派手な出陣だねー

 うちも真似しようかなー


 22 名無しの上級魔王 ID︰0159

 サブローさん、そちらの様子がいかがですか?


 23 名無しの上級魔王 ID︰0536

 こちらはまだ平和だな



 俺はラプラスを起動しながら、敵の出方をうかがっていた。


 この様子だと……プランB――上級魔王の裏切りは心配無用か?


 今回は宣戦布告をしていない。


 そもそも、侵略先は人類ではなく糸魚川市の魔王だ。


 人類側から見れば、急展開だ。対応が追い付いていないのだろう。


 更に10分後。


 偵察に出していたらカエデから着信がくる。


『お館様。飛騨砦が動いた』


 飛騨砦は、対アスター皇国のために建造された建物だ。


「数は?」

『100? 300? 500? どんどん増える』

「こちらへの到着時間は?」

『15分くらい?』

「わかった。引き続き監視をしてくれ」

『了解』


 俺はカエデとの通話を終了し、傍らに控えるカノンに声を掛ける。


「飛騨砦に常駐している人類の数は?」

「先週の調査では、2,000人ほどですぅ」

「岐阜市は遠いから……高山市は?」

「50万人以上控えているはずですぅ」


 50万人か……。


 岐阜県には元々200万人ほどの人が住んでいたが、変わり果てた世界の影響で多くが死滅。しかし、魔王に支配された石川県や富山県、長野県や愛知県などから逃げ延びた人類が移り住んだ結果、人口は500万人以上に膨れ上がっていた。


 岐阜県は人類が東西を行き来するための大切な土地だ。


 その為、他の都道府県より防衛に力を入れていた。


 50万人全部が動くか……? それとも、岐阜市からも応援を出して兵力は100万を超えるか?


「高山市の人類の中で、レベル50超えの数は……」

「うぅ……情報規制が入ったので不明ですぅ」

「だよな」


 まぁいい。戦争中に相手の力量を調べるまでだ。


 俺はラプラスを起動し、



 45 名無しの上級魔王 ID︰0536

 敵が動いた



 俺はただ一言書き込むと、防衛の準備に取り掛かるのであった。



  ◆



 10分後。


 支配領域の前に立たせた配下の目を通じて、スマートフォンで敵の姿を捉える。


 無駄に目立つ旗に、大型の車両。


 そして、スピーカーから聞こえる人類たちの互いを鼓舞する叫び声。


 これは……牽制か?


 騒ぎ立てることにより、糸魚川市に侵略させた部隊を引き返させようとしているのか?


 それとも……、


 更に10分後。


「どうやら、敵は準備を整えているようじゃな」


 ヤタロウが支配領域の外の様子を見て呟く。


 先程から次々と人類が複数の支配領域の前に集結している。


「同時攻めか……」

「同時攻めは常套手段じゃからの」

「見た感じ、侵略される支配領域は……10箇所か」

「向こうも様子を探っているのか、慎重じゃな」

「敵は戦力を平均的に分散すると思うか?」

「ふむ、儂なら確実にどこかを落としたい。よって、どこかに戦力を集中するが……シオンはどうじゃ?」

「俺もそうするな」

「なら、やっこさんも同じじゃろ」

「本命はどこだと思う?」

「難しい質問じゃ。数で差を付けてくれれば楽なのじゃが……質で差を付けられたらさっぱりわからん」

「実際に相手しないと無理か」

「そうじゃな。それより、シオン……」

「どうした?」

「例の十三凶星ゾディアックは動いたのか?」

「んー、どうだろうな?」



 67 名無しの上級魔王 ID︰0536

 サティは動いたのか?


 68 名無しの上級魔王 ID︰0013

 すまねぇ。まだだ


 69 名無しの上級魔王 ID︰0536

 どういうことだ?


 70 名無しの上級魔王 ID︰0027

 俺から話す

 今サブローが置かれている状況を偵察で把握している


 71 名無しの上級魔王 ID︰0536

 把握していて動かない理由は?

 約束は反故にすると?


 72 名無しの上級魔王 ID︰0027

 いいや。まだ、時期じゃねー

 サブローに1つ質問だ

 まだ、サブローは正確には侵略されていない

 この状況で早まって動くバカが上級魔王――十三凶星になれると思うか?


 73 名無しの上級魔王 ID︰0536

 つまり、今動くのは自然じゃないと?


 74 名無しの上級魔王 ID︰0027

 そういうこった

 ちなみに、この意見は俺だけじゃねー

 セブンもイッコクも賛同してくれている


 75 名無しの上級魔王 ID︰0013

 と言うわけだ

 すまねぇな、サブロー


 76 名無しの上級魔王 ID︰0027

 そう悲観すんな

 時期がくれば、長野の魔王『正体不明シークレット』の名に賭けて、必ず動くと約束しよう


 

 掲示板を遡れば、動こうとしたサティを止めるニーナのログが確認できる。


 ログを見る限りは俺を陥れるのが目的ではなく……今回の祭りを成功させるのが目的と……見ては取れるが……


 はたして、信頼できるのか?


 今更どうしようもならない。ダメだったらプランBだ。



 77 名無しの上級魔王 ID︰0536

 いつも草を生やす奴を信用しろとか難しいことを言うな

 まぁいい、俺が死ぬ前に動けよ?


 78 名無しの上級魔王 ID︰0027

 ハッwww『創世王』がこの程度で死ぬタマかよwww

 まぁ、俺様を信じて気張れやwww



 最も信じられない奴の言葉を受け、俺は覚悟を決めるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る