祭りのはじまり
1週間――祭り当日。
「シオンさん、アスター皇国の軍師として進言がありますぅ!」
「ん? 今は忙しいから後でな」
現在の時刻は11時。7時間後には、糸魚川市への侵攻が始まる。
カノンの軍師ごっこに付き合ってる暇はなかった。
「ダメですぅ! 今言わないと間に合わなくなるですぅ! それに、侵略の準備はもう終わってますぅ! 何度確認しても変わらないですよぉ!」
「ったく、なんだよ?」
「コホン……改めて、アスター皇国軍師カノンが、魔王シオン様に進言申し上げますぅ」
「へいへい……何だよ?」
「うぅ……もう少し
あごに手を当て、真剣な表情で意味不明なことを喚く
「毎回言ってるよな? 結論から先に言え」
「うぅ……えっとぉ……アスター皇国は国家で、シオンさんは魔王ですぅ」
「それが結論でいいんだな?」
「なので、侵攻前に進発式? 出立式? んー、どれもピンと来ないですぅ……――! 出立の儀を執り行いましょう!」
「出立の儀?」
「はい! 今回の戦は今後の未来を左右する大切な戦なのですぅ。今一度、全配下を招集して出立の儀にて士気を高めることを進言しますぅ」
「ん? つまり、なんだ……全配下を集めて『えいえいおー!』的なことをしろと?」
「身も蓋もない言い方ですが、そうなりますぅ」
「却――」
却下と言おうとしたが、
「アスター皇国を国家とするなら必ず必要なことですぅ! って……マサコ先生もヤタロウさんも言ってたですぅ……」
「ん? 田村女史とヤタロウのアイディアなのか?」
「ち、ち、ち、違いますぅ! 軍師カノンの策謀です!」
「今の話は策謀になるのか……?」
「全国民が一致団結することは大切なのことなのですぅ」
「んー……全配下って侵略に向かうすべての配下だよな?」
「違いますぅ! 防衛をする配下も含めた全配下ですぅ! 非戦闘員の国民はさすがに厳しいので、タスクさんに言って中継でお送りしますぅ」
「は? 防衛をする配下も含めたら数は……」
「約30万人ですぅ」
「そんな大人数が集まれる施設はないだろ?」
「ふふふ……軍師カノンに抜かりなし! ヤタロウさんにお願いして、第97支配領域の一階層を会場にしてもらいましたぁ」
「もらいましたぁ……って、俺の許可は?」
「え? 今取ってます」
「俺の承諾は事後かよ……」
「うぅ……でも、大切なことだと思うのですぅ!」
「ったく、しょうがねーな……。どうせ、ヤタロウと田村女史も一枚噛んでるんだろ?」
「ま、まぁ……」
「仕方がない……やるとするか。開始時間は?」
「そのまま侵攻したほうがカッコいいので、17時スタートでいかがでしょうかぁ?」
「カッコいいって……まぁ、いいか。責任持って取り仕切れよ」
「はい!」
こうして、急遽出立の儀なるイベントを執り行うこととなった。
◆
17時。
カノンに呼ばれて向かった第97支配領域には、30万を超える多種多様な配下が立ち並んでいた。
ふぅ……改めて見ると壮観だな。
立ち並ぶ配下たちは各々装備品を身に纏っており、我が配下ながら相当な重厚感があった。
俺は用意された壇上に上がると、立ち並ぶ配下たちの顔を見回し、大きく息を吸う。
「あー……コホン……、魔王シオンだ。今宵、我らアスター皇国は新潟県へと本格的な侵攻を開始する。此度の戦は今後のアスター皇国の未来を左右する重要な戦となるだろう」
さて、ノープランで壇上に立ったが……何を言えばいい?
カノンもあそこまで言ったからには、話す内容の原稿くらいは用意するべきだと思う。
んー、士気を上げるのが……目的なら……名前とか呼べば、士気は上がるよな?
「第一小隊隊長リナ!」
「はい!」
「第二小隊隊長タカハル!」
「おうよ!」
「あーしは!」
「第三小隊隊長ヒビキ!」
「ご主人様の
「第四小隊隊長コテツ!」
「ハッ!」
「第五小隊隊長クロエ!」
「はい!」
「そして、侵略に参加するすべての配下に告げる! 速やかに糸魚川市の地図をアスター皇国に染め上げよ!」
「「「おー!」」」
今回、侵略に投入する配下の数は10万。
10万の雄叫びは周囲の空気を揺るがした。
「アスター皇国の守りは俺に任せろ! お前たちは後ろを気にする必要はない! ただただ敵を蹂躙せよ!」
「「「おー!」」」
「これより糸魚川市への侵攻を開始する! 皆の者!
「「「うぉぉぉおおお!」」」
熱にあてられた俺自身のボルテージが高まり、配下たちも高揚する。
「第一小隊! 出るぞ!」
「「「おー!」」」
「しゃっ! 第二小隊行くぞ! オラッ!」
「「「おー!」」」
「第三小隊! 参りますぞ!」
「「「ブヒィィィ!」」」
「第四小隊! 進軍じゃ!」
「「「おー!」」」
「第五小隊! 出ます!」
「「「おー!」」」
高まった士気の中、リナたちは侵略へと出立。
後に、
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