vs魔王モトキ①


 俺はとある部隊を除いた全戦力を集結させた。


「これより魔王モトキを討伐する! 今日中に魔王モトキを消滅させる気概をもって、全力で叩き潰せ!」


「「「うぉぉぉおおお!」」」


「全軍――出撃せよ!」


 血気盛んに逸るタカハルの部隊を先頭に支配領域から出撃。リナ、コテツ、ヒビキ、イザヨイの部隊はトラックの荷台に乗り込み出撃。残りの部隊は徒歩で先行するタカハルの部隊に続いた。


 さぁ? どう動く?


 魔王モトキは《統治》の最中だ。今、奴のスマートフォンには大量の赤いドットが出現して、さぞかし狼狽していることだろう。


 《統治》中は身動きを取ることが出来ない。


 魔王モトキが慎重を期して《統治》を中断、即座に撤退を選択すれば……今後の展開は苦しくなる。


 ほんの少しでも欲をかいてくれれば……


 俺は支配領域に保管してあったバイクに乗り込み、リナたちを乗せたトラックと共に魔王モトキの元へと急いだ。


 最前線では、すでにタカハル率いる獣種の配下たちが魔王モトキの配下であるエルフの軍勢と衝突していた。


「シャ! オラッ! エルフ共の入れ食いだ! てめーら! ガンガン行くぞ!」

「――な!? あ、アスター皇国が何故……」


 奇襲に等しい状態で襲撃するタカハルの部隊に対して、魔王モトキの配下は状況が飲み込めず狼狽する。


「ハッ! 仲間の仇討ちだよ! あ・だ・う・ち!」

「ど、どういう事だ……我々は同盟を――」

「ハッ! 黙れよ!」


 狼狽する眷属と思わしきエルフがタカハルの鋭い爪を受けて地に倒れる。


 先のニエの時は……魔王モトキがスマートフォンの赤いドットだけを見て、排除しろと命令していたのだろう。


 配下は魔王の命令には逆らえない。


 逆に言えば、命令さえされていなければ配下と言えどもある程度はフレキシブルな判断能力を有する。


 故に魔王モトキの配下は混乱に陥った。


「あーし参上! 天気予報を教えたげる! 立山砦付近に火の矢の雨が降るでしょうみたいな? ――《ファイヤーアロー》!」

「「「――《ファイヤーアロー》!」」」


 タカハルの後方に追いついたサラの部隊が、火の矢の雨を降らせ、


「クソっ! 遅れたか! 総員! 我らの力を愚かな敵に見せつけよ!」


 タカハルにようやく追いついたクロエ、レイラ、レッド、アイアン、フローラの部隊が魔王モトキの配下を襲撃した。


 前線は余裕そうだな。


 バイクで駆ける俺も後方に控えていた魔王モトキの近くまで接近することに成功。


「トラックは一旦ここで乗り捨てろ!」


 バイクから降りた俺は後続へと続くトラックに命令を告げる。


 連なるトラックの荷台から次々と配下たちが降りてくる。


「リナ、コテツ、イザヨイ、ヒビキ。魔王モトキまでの道を切り開け!」

「了解!」

「承知!」

「仰せのままに!」

「了解しました」


 リナたちが目の前に立ち塞がるエルフの群れへと襲撃を仕掛ける。


 俺はリナたちの切り開いた道をゆっくりと歩む。


 ――《ダークランス》!


 リナたちが討ち漏らしたエルフに魔法を放ちながら、ゆっくりと歩んでいると、スマートフォンから軽快な通知音が流れる。


『魔王モトキが仕掛けていた《統治》が中断されました』


 ほぉ……《統治》に失敗すると、こんなアナウンスが流れるのか。


「豚が《統治》を中断した。急ぎ豚の元へ――」

「シーーーーオーーーンーーー!!! これは!! これは!!! どういう事だ!!!」


 《統治》を中断した魔王モトキの元へと急ごうとしたが、どうやら向こうから出向いてくれたようだ。


「どういう事だと? その言葉、そっくりてめーに返してやるよ!」


 俺は激高する豚に負けじと、声を荒げて言い返す。


 今回はあくまで魔王モトキから不義理を働いて、俺はソレを粛清すると言う筋書きだ。


 わざわざ裏舞台を説明するなど、三流のやることだ。俺は最後まで筋書き通りに演じきる。


「シオン! 貴様!! このごにおよんで逆ギレか!! 汚い貴様のことだ漁夫の利を狙うくらいはすると想っていたが……いきなり攻撃を仕掛けてくるとは……何ごとだ!!」

「は? ふざけるなよ! 豚野郎! 俺は約定通り手を出さずにいたのに、いきなり無抵抗だった俺の大切な眷属を一方的に殺したのは貴様だろうが!」

「――? な、な、何のことだ!? 貴様は何を言っているのだ!」


 先のニエの件を知らない魔王モトキは心当たりが全く無いのだろう。怒りの中に狼狽をみせる。


「間もなく《統治》を成功するであろう貴様にわざわざ激励へと向かった眷属以下5人の配下を一方的に虐殺したことを知らぬとは言わせぬぞ!」

「何のことだ! 言いがかりは止めろ!」

「言いがかりだと? てめーは俺を馬鹿にしているのか? 俺の配下であることを名乗り、俺の命令に従って反撃することも許されなかった大切な配下を殺したのはてめーの配下だろうが!」

「知らぬ! 私はそのようなことを知らぬぞ!」

「もういい……死ね」


 俺は魔王モトキに死刑宣告を告げる。


「ま、待て! 何かの間違いだ! い、いいのか……同盟相手を一方的に裏切って! この愚かな行為は世界中の全ての者が知ることなるんだぞ!」

「安心しろ。お前が一方的に同盟相手である俺を裏切った証拠を映像として配信し、同盟関係の破棄も宣言済みだ」

「――な!? わ、私は聞いていないぞ!」

「お前の事情なんて知るか。とりあえず、俺の大切な眷属を殺した罪は償ってもらう」

「お、お、落ち着け……一度話し合おう! そうすれば――」

「リナ、コテツ、イザヨイ、ヒビキ! 愚かなる裏切り者を殲滅せよ!」


 俺の命令に従い、リナたちは再び襲撃を再開したのであった。


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