謀略⑥
南砺砦を《統治》してから三日後。
「今日も豚は元気だな」
「ですねぇ。かなりの数の配下を隠していたのか、最近は少し押し気味ですよぉ」
豚――魔王モトキの軍勢はあの日から絶えず増援を送り立山砦の侵攻を継続していた。
「魔王モトキは退かぬか」
珍しく俺の部屋に来たヤタロウも一緒に富山県の人類vs魔王モトキの激戦を観戦し、感想を漏らす。
「退いたら俺が漁夫の利を狙うとか思ってるんじゃないのか?」
「ほぉ……狙わぬのか?」
「タイミングが合えば、当然狙うさ」
少し驚いた表情を見せたヤタロウの言葉に俺は笑みを浮かべ答える。
「タイミングか」
「今は忙しいからな。もう少し両軍には頑張って欲しいところだな」
「ふぉっふぉっふぉ。シオンは本当に敵に回したくない相手じゃの」
「っと、CPが回復したから行ってくる」
「うむ。気を付けてな」
「行ってらっしゃーい!」
俺はヤタロウとカノンを残して、部屋を後にしたのであった。
この三日間で俺は新たに富山県の土地を新たに3つ《統治》していた。
鬼の居ぬ間になんとやら……俺は南砺周辺の富山県の《統治》を進めていたのであった。
南砺砦を《統治》してから一週間が経過。
当初は立山砦の人類陣営が優勢と思っていたが、魔王モトキの隠し持っていた配下の数は想定以上に多く……魔王モトキ陣営の勝利が濃厚となっていた。
「んー……一部の人類は富山市に撤退を始めました。この流れだと豚が勝利しちゃいますねぇ。シオンさん、どうするのですかぁ?」
「どうするとは?」
「このまま豚に《統治》されるのですかぁ?」
「一応、曲がりなりにもあの豚とは同盟関係だから、露骨な妨害は出来ないだろ」
「と言うことは、このまはま立山砦は豚に与えるのですかぁ?」
「俺がこのまま立山砦を豚に与えると思うか?」
「思いません」
俺の質問にカノンは即答で答える。
「正解。まぁ、時が来るのを待て」
俺は不敵な笑みを浮かべるのであった。
◆
3時間後。
〜♪
俺のスマートフォンが着信を告げる電子音を奏でる。
スマートフォンに表示された発信者は――カエデだった。
「お館様、魔王モトキが仕掛けた」
『ご苦労。カエデは支配領域に帰還せよ』
時は来た。
――タスク、準備をしろ。
俺はアスター皇国のIT担当に連絡を告げ、
――総員に告ぐ、2時間後に大規模な戦闘が発生する。各位、襲撃の準備に入れ。
待っていた時――魔王モトキが《統治》を仕掛けたタイミングに合わせて、俺は配下たちに命令を告げた。
――ニエよ、作戦を実行せよ。
俺は今回の作戦のキーマンとなる新たなダンピールの眷属――ニエに命令を告げる。
命令を受けたニエは支配領域の外――魔王モトキが《統治》を仕掛けた土地へと足を踏み入れる。
ゆっくりと歩みを進めるニエの後ろにはニエに付けた配下のダンピール5体と、無機質な機械――タスクの操縦するドローンが飛んでいる。
ニエたちが暫く歩みを続けていると……剣や弓を手にした興奮状態のエルフの群れと遭遇した。
「いたぞ! こいつらだ!」
「モトキ様の命令だ! 速やかに始末しろ!」
魔王モトキから見れば……今のニエたちはスマートフォンに映る赤いドットの一つだろう。
《統治》を仕掛けた時にスマートフォンに表記されるのは三種類のドットのみ。そのドットが誰を示しているのかは知る由もなく、《統治》中に全ての配下の状況を確認するのも同様に不可能であった。
魔王モトキは《統治》を成功させるべく、敵対意思のある赤いドット――ニエたちの排除に動いた。
「――! な! き、貴様ら我が偉大なる王、魔王シオン様の眷属ニエ=シオンと知っての――」
ニエは命令通りに俺の名前を出すが、魔王モトキの命令に忠実なエルフたちが耳を傾けるはずもなく、ニエたちに剣を振り下ろす。
俺の命令により盟主への攻撃を禁じられていたニエたちは抵抗することなく、エルフの手により消滅した。
俺はスマートフォンを操作してタスクへと電話を掛ける。
「タスク、撮れたか?」
『バッチリっす!』
「今からそちらに向かう、配信の準備をしろ」
『了解っす!』
俺は急ぎタスクの作業部屋へと向かった。
「待たせたな。配信の準備は?」
「いつでもイケるっす!」
俺はタスクから指示されたカメラの前に立ち、大きく深呼吸をする。
「よし、いいぞ」
俺が合図をすると、タスクは3本の指を立て……配信のカウントダウンを始める。
「全世界の人類及び魔王たちよ。俺はアスター皇国の王――シオンだ。まずは、この配信を確認しているであろう日本政府関係者に告ぐ。この配信の削除を少しだけ待ってくれないだろうか? この配信内容には多くの人類の命を救うかも知れない情報も発信する予定だ。政府として多くの人類――富山県の人類を見捨てるのであれば、いつも通り削除してくれ。救いたい気持ちがあるなら、静聴を続けてくれ」
俺はタスクの立てた指が全部折れたタイミングに合わせて、カメラに向けて言葉を紡ぐ。
「まずは、この動画を視聴してくれ」
俺はタスクに目で合図を送ると、目の前のモニターには先程のドローンから撮影された映像が流される。
「本日、俺の配下であり……家族であり……何よりも大切なアスター皇国の国民である眷属の一人が殺された!! 犯人は魔王モトキの配下であるエルフたちだ! 知らない者もいるかも知れないが、俺たちアスター皇国と魔王モトキは同盟関係にあった。そして、共に生き残るために力を合わせて富山県の人類と熾烈な争いを繰り広げていた!」
俺は出来るだけ感情を――魔王モトキへの憎しみを言葉に乗せて紡ぐ。
「今はこんな時代だ……今回散った眷属もアスター皇国の国民を守るために死を覚悟していただろう。しかし! 富山県の人類との戦いで命を落とすならともかく、魔王モトキの――盟友に殺されたのでは浮かばれないではないか! 俺たち魔王同士は手を組み合う事は出来ないのか? 否! 魔王カオルとは良好な関係を築けている! ならば、今回は何故……こんな悲劇が起きた?」
俺はモニターの向こう側――配信を見ていると者たちに問いかける。
「俺は魔王などとは呼ばれているが、信義に信義で応えよう! そして、裏切りには粛清によって応えよう! アスター皇国の王――シオンがここに宣言する! 今宵、この時間をもって魔王モトキとの同盟関係を解消する! そして、我が国民の犠牲の対価をこの世に示そう!」
俺は配信を通じて全世界に魔王モトキへの宣戦布告を宣言する。
「最後に、富山県の人類に告ぐ。俺たちアスター皇国はこれより魔王モトキを討ち滅ぼす! 何もしなければ、こちらから手を出すことはないが……降りかかる火の粉は元から断たせて貰う! 滅びゆく覚悟があるなら、我が支配領域を訪れよ! 全身全霊を持って応えよう! 俺からの言葉は以上だ」
俺が手を降ろすと、カメラに灯っていた赤いランプが消灯する。
さてと、舞台は整った。
豚退治を始めるとしようか。
俺はタスクの作業部屋を後にするのであった。
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