石川工業大学の攻防⑨


 俺はスマートフォンに映し出された光景を見て頭を抱えそうになる。


「何やってんだ……」


 スマートフォンの画面にはイタイ名乗りを上げる配下バカたちの勇姿が映し出されていた。


「シオンさん、知ってましたぁ?」


 《統治》中は身動きが不能なため、世話役として連れてきたカノンが声を掛ける。


「何を?」

「ジョーカーって道化師って意味もあるんですよぉ」


 カノンが自慢気に俺に語りかけてくる。


 なるほど……。チーム道化師か。言い得て妙だな。


「って……人類はあの道化師どもを俺の配下と認識しているんだよな?」

「まぁ……事実、配下ですし」

「さっきの茶番は、俺が仕込んだとか思われてないよな?」

「どうでしょう?」


 カノンは首を傾げる。


「あのアホの配下――元魔王の連中はサブロウに殺意を抱かないのか?」


 俺なら上からあの茶番を強制させられたら殺意を抱く。


「うーん、聞いた話では、結構ノリノリとか……。ヤタロウさん曰く、サブロウと波長の合う元魔王を中心にチームJを結成したらしいですよぉ」


 魔王……カオス……混沌……。カオスの適性には当て嵌まっているのか……。


 クソッ……隠していた混沌(中二魂)をサブロウに触発されて顕現化したとでも言うのか。


 俺は複雑な心境を抱いたまま、チームJと勇者一行の戦いを見守ることにした。


「第九災厄(ディザスター・ナイン)、第十災厄(ディザスター・テン)。盾を構えた人類を葬りなさい」

「……任された」

「任せな!」


 サブロウの指示に従い獣種(黒犬)の元魔王と、鬼種の元魔王が重装備の人類へと攻撃を仕掛ける。


「第三災厄(ディザスター・スリー)と第四災厄(ディザスター・フォー)は斧を手にした人類を葬りなさい」

「今宵も我が魔剣は血を欲す」

「脆弱なる人類に我の力を示さん」


「第七災厄(ディザスター・セブン)、貴方は一人であの者を葬れますね?」

「無論!」


 サブロウはその後も配下に次々と指示を下し続ける。


 敵の力量を見極め、一人、或いは二人をぶつけ、魔法を得意とする魔王には後方からの援護を徹底させる。


「あのアホ……指揮官としての適性は意外にも高いのか?」

「認めたくはないですがぁ……防衛で配下を扱うことが多いので指揮官としての経験値は高いのですぅ」


 なるほど……。俺はサブロウの意外な特性に驚く。


「最後に勇者――一樹! 貴方はチームJの総統にして、終焉災厄(ラスト・ディザスター)。闇と死を司るダークネス・ドラ――」


 ――サブロウ! 御託はいい! さっさと攻撃しろ!


「――クッ! ――《ファストスラスト》!」


 俺に口を閉ざされたサブロウは神速の一撃を一樹へと見舞った。


「――な!? は、速い!?」


 サブロウの神速の一撃は一樹の右肩を貫く。


「フォッフォッフォ! 我が輩と貴公の死の舞踊ワルツはこれからですぞ! ――《ダブルスラスト》!」

「させるかぁぁあ! ――《ライトシールド》!」


 サブロウが不気味な笑みを浮かべながら放たれた連続突きは、一樹が目の前に展開した光の盾に弾かれる。


「負けない! 俺たちは人類の希望なんだ! ――《シャイニングレイブ》!」


 刺突を阻まれて体勢を崩したサブロウに一樹は光の斬撃を放つ。サブロウは苦し紛れに突き出した刺突剣で軌道を逸らすが、胴体を浅く斬り裂かれる。


「――ッ!? やりますね。しかし、この程度の痛み……我が主の愛の炎の熱さと比べれば!」


 サブロウはニヤリと口角を上げて、武器を構える。


 ……愛の炎って何だよ。まさか、お仕置きに使用しているファイヤーランスのことか? 俺はサブロウの笑みに悪寒を感じる。


 その後もサブロウと一樹は互いの剣を振るって、戦闘を続ける。


「ふぅ……剣の腕は互角のようですな」


 サブロウはバックステップで距離を空ける。


「貴様を倒せば……こいつらは退くのか!」

「どうでしょう? しかし、その疑問はナンセンスです。我が輩が倒されることはあり得ませんので」


 一樹は肩で息をしながら、周囲の仲間の様子を確認する。


 ちなみに、一樹の疑問に対する正しい答えは――退かない。サブロウが死んだら戦力的には痛手だが、配下への士気に与える影響はほぼ皆無だ。


「そろそろ奥の手を出しますか……。我が輩の生命に流れる昂ぶる力……その恋は我が輩への片道なれど、確かに感じる愛の力。我が輩の中に息吹しサラよ、力を貸し与えん! ――《ハイプレッシャー》!」


 サブロウの剣より放たれし風の圧力が一樹を押し潰す。


「……グハッ!? ま、魔法もこのレベルで……扱えるなんて……反則……で、でも……俺は……負けない、負けちゃいけないんだぁぁぁあ! ――《フォースヒール》!」


 一樹はふらつきながらも大地を踏みしめ……輝きと共に傷を癒やす。


「自己回復とは……小癪ですね。まぁ、いいでしょう! 何度でも! 何度でも! 貴方の力が尽きるまで――」


 ――タカハル、後方から一樹に攻撃を仕掛けろ!


「――ッ!?」

「――!?」


 後方から接近したタカハルが一樹の首筋に回し蹴りを叩き込む。


 一樹は驚愕の表情を浮かべたまま意識を刈り取られ、奇しくもサブロウも一樹と同様の表情を浮かべる。


「あー、えっと……シオンの言葉を伝えるぞ。これは試合じゃない、戦争だ。さっさと周辺を鎮圧せよ、だとよ」


 タカハルはばつが悪そうに俺の言葉をサブロウに伝える。


「ぐぬぬ……」


 ――サブロウ、俺たちは矜持に付き合う余裕はあるのか? 今、この瞬間も支配領域は侵略され続けている。タカハルは……俺は間違ったことをしたか?


「いえ……」

「納得したところで、こいつの経験値は俺が貰ってもいいのか?」


 タカハルは獰猛な笑みを浮かべて、意識をなくし倒れている一樹に無情なトドメを刺さそうとする。


「――シオン様! 叶うなら! このサブロウの願いを聞いてくだされ!」


 ――何だ?


「この者……実力、素質共に見込みがございます! 我が輩に一任して下さいませぬか!」


 ――つまりは、配下にしたいと?


「畏れながら」


 俺は暫し思考をした後に、答えを告げる。


 ――許可する。但し、配下に降らぬ時は……カノンの経験値にする。いいな?


「――! ありがとうございます!」


 サブロウは見えぬ俺へと深く頭を下げた。


 その後、リーダーである一樹を失った勇者一行は一人、また一人と地に倒れ、結果的に金沢解放軍は著しく士気を落としたのであった。

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