石川工業大学の攻防10


 《統治》完了まで残り1時間。


 支配領域から幾度にも渡り配下の補充は行ったものの、防衛ラインの維持には成功。よほどの隠し球がない限りは《統治》は成功するだろう。


 俺はシミュレーションゲームのようにスマートフォンに映る各部隊に命令を下し続けた。


 問題は――侵略されている俺の支配領域だな。


 魔王カオルの軍勢は転送の罠をふんだんに仕掛けた迷宮仕立ての支配領域の侵略に苦戦していたが――問題は富山県の人類から侵略されている第百二十七支配領域だ。


 侵略している12人の人類は、全員が高レベルだった。装備を見ても、幾つかユニークアイテムも確認出来るし、最低でもミスリル製の装備を身に付けていた。


 形ばかりに配備されていたグールたちは抵抗すらも許されず、一方的に消滅させられている。個の実力、集団の連携共にトップクラスの侵略者だ。


 一対一ならイザヨイであれば後れを取ることはないだろう。コテツ、リナ、タカハル、サブロウといった個の戦闘能力に優れている幹部たちも一対一なら勝てると思う。


 防衛にイザヨイを向かわせたとは言え、残りは名もなき配下と実力が未知数の領民たちだ。錬成の関係から装備品の質は勝っているとは言え、勝てるだろうか?


 不安を抱きながらスマートフォンの画面を見ていると、支配領域に戻ったイザヨイが配下と人類を引き連れて、富山県の人類たちと遭遇した。


「お? やっと骨のありそうな奴が出てきたぜ」


 イザヨイたちの姿を目にした人類が楽しそうに目を細める。


「んで、てめーは……まさか、ダンピールじゃねーよな?」


 大剣を担いだ人類が挑発するようにイザヨイへと声を掛ける。


「ん? 後ろの奴らは人間なのか?」

「ほぉ……金沢の凶星は非人道的な戦略は取らないと聞いていたが、そこまで追い詰められたか?」

「どうするよ?」

「魔王に降った人間は……魔王を倒さない限りは奴らの操り人形だ。後味は悪いが、ヤルしかねーだろ。悪く思うなよ?」

「同情したらやられるのは俺たちだ……情けは無用だな」

「ってか……あいつの持ってる槍見たことねーな……まさか、俺のゲイボルグより高ランク……な訳はねーよな?」

「よく見ると、後ろの人間が装備しているアイテムも見たことねーな……」


 富山県の人類たちはイザヨイたちの姿を凝視しながら、お喋りを始める。


「貴方達の人生で最後となる会話はお済みですか?」


 イザヨイは勝利を疑わない自信に溢れる人類に冷めたトーンで声を掛ける。


「あん? 人生で最後って――」

「我が主の領土に土足で踏み込んだ罪……その命で償いなさい――《ダークナイトテンペスト》!」


 イザヨイは冷酷な視線を投げかけると同時に、闇の暴風を解き放つ。


「チッ! お前たち! ブラックラーレの実力を見せつけるぞ!」

「「「――《ライトシールド》!」」」


 大剣を担いだ男が武器を構えると、後方に控えた人類たちが光の盾を展開し荒れ狂う闇の暴風を受け止める。


「放て!」


 イザヨイの声に呼応して、後方に控えたエルフの軍団が火、風、氷、土……様々な属性の槍を敵へと放つ。


「チッ! 厄介な……――《イーグルアロー》!」

「――《パワースロー》!」


 弓を構えた人類と円形の投擲武器――円月輪を手にした人類が、魔法を放つエルフへと攻撃を仕掛けるが……イザヨイが左手を挙げると、盾を構えたリビングメイルの軍団がエルフの前にたち、迫り来る攻撃を盾で受け止める。


加代かよ! 隆太りゅうた! 後ろのエルフを殲滅しろ!」

「はーい」

「あいよ」


 短剣を手にした女――加代と片手斧を手にした男――隆太が左右から回り込むように疾駆し、エルフへと迫る。


陽太ようた! 任せた!」

「おうよ! ――《タウント》!」


 大盾を手にした重装備の男――陽太が盾を打ち鳴らし憎悪を集め、 


雷蔵らいぞう! 俺たちも行くぞ!」


 大剣を担いだ男と槍を手にした男――雷蔵が武器を振り上げて突撃してきた。


「そこの貴方? 貴方の槍とシオン様より下賜されし――天沼矛、どちらが上かその身で確かめてみますか?――《一閃突き》!」


 イザヨイは向かってくる雷蔵の前に躍り出ると、天沼矛の素早い刺突を放った。


「ハッ! 舐め――クッ!?」


 雷蔵は手にした槍――ゲイボルグで天沼矛を打ち払おうとするが、力負けして左肩を貫かれる。


「富山県民よ……。一つ訂正させて貰おう。俺たちの王――シオン様は非人道的な戦略は好まない。ここにいるのは俺たちの意志だ! ――《孤月》!」


 イザヨイと共に前に進み出た領民は汎用できる最強の刀――備前長船兼光を、大剣を手にした男へと振るった。


「クソッ! こいつら……心まで支配されているのか!? ――《パワースラッシュ》!」


 大剣を手にした男は領民の振るった刀の一撃を刀身で受け止め、力任せに大剣を振り下ろした。


「――ッ!?」


 領民は大剣を刀で受け止め直撃は免れるも、力を殺しきれずに後方へと吹き飛ばされる。


「田中殿! 無理は禁物です! 貴方達が死ぬことはシオン様より許可されておりません!」


 イザヨイは雷蔵と戦いながらも、吹き飛ばされた領民――田中へと声を荒らげる。


「だ、大丈夫です……。シオン様から頂いた防具のお陰で……ダメージは小さいです」


 田中は刀を杖代わりに立ち上がると、再び戦意を燃やす。


「田中! 一人で無理をするな! 共に行くぞ!」

「一人も死ぬな……これが、師匠とシオン様からのご命令だ!」


 その後、二人の領民が前線に加わり田中を合わせて3人で大剣をもった男と対峙する。


 三人の領民は全てコテツの弟子なのだろうか? 息の合った連携で大剣を手にした男と渡り合っている。


 他にも、回り込んできた加代と隆太もエルフの前に立ち塞がる領民たちと戦闘を繰り広げ、逆に、一部の領民が刀を振り上げて後衛から魔法を放つ人類へと迫っていた。


 領民の形勢が不利になると、リビングメイルたちが身を挺して領民を守り、エルフたちも魔法で攻撃を援護したり傷を癒やしたりと、領民と配下の連携は想像以上に高いレベルで仕上がっていた。


 ほぉ……。なかなかやるな。


 戦況を確認した限り、富山県の人類に個の力で勝っているのはイザヨイのみだが、領民たちは配下と連携しながらも数の力で富山県の人類たちと渡り合っている。


 防衛側の最大のメリットは――数の制限がないこと。


 恐らく配下に細かい指示を出しているのはヤタロウだろう。


 俺の心配は杞憂へと終わり、第百二十七支配領域の防衛は順調に進んでいたのであった。

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