石川工業大学の攻防⑧


 《統治》完了まで残り2時間。


 防衛ラインに綻びはなく、このまま事が運べば《統治》の成功は確実に思えた。


 レッドの配下の消耗が激しいな。


 ――レッド、一度下がって配下を補充せよ。


 ――リナ、レッドの代わりに防衛ラインを構築せよ。


 次いで消耗が激しいのは……ヒビキ部隊のオークか。


 ――ヤタロウ、オークを200体増援に出してくれ。


 俺は戦況を確認しながら、次々と配下に命令を下す。


 順調、順調っと……お?


 スマートフォンの地図を眺めていると、急速に青色のドット――配下が消失している箇所があった。


 俺は原因を探るべく、スマートフォンの画面を該当の箇所付近にいる眷属の視点へと切り替える。


一樹かずきだ! 一樹かずきさんの部隊が来たぞ!」

「流石は俺たちの勇者様だ!」

「続け! 俺たちも一樹に続いて敵を突破するぞぉぉぉおお!」


 スマートフォンの画面には漆黒の剣――ダーインスレイブを手にした男を先頭に、高ランクのアイテムを手にした人類の集団が、行く手を阻むオークの集団を蹴散らしていた。


 金沢解放軍の主力部隊か?


 勇者一樹御一行の数は――12人か。


 個の力で数を打ち破る存在は本当に厄介だ……。こちらも幹部を集結すれば、打ち破るのは容易いだろうが、防衛ラインは崩れ去るだろう。


 ――サブロウ、チームJのメンバーと共に前線へ! 勇者一樹とやらを討伐せよ!


 ――ヒビキ、サブロウが到着するまでの間勇者様御一行を足止めしろ!


「承知っ! アスター皇国の闇を抱えし暗部――チームJ参るっ!」

「豚は捨て駒になれと……ご主人様ありがとうございます!」


 アスター皇国が抱える2大変態部隊が金沢解放軍の希望を打ち砕くべく動き出した。



 ◇



(サブロウ視点)


「シオン様の命令、聞こえましたね?」

「敵は勇者ですか……。魔王の血が滾りますね」

「我々は影……全ての光を呑み込みましょう」


 我が輩が声を掛けると、配下たちは笑みを浮かべる。


「今宵の獲物は勇者……! ――チームJ出撃しますぞ!」


 我が輩はチームJの幹部と共に、シオン様から下賜された機動力と操作性に長ける電動スクーターに乗り込み最前線を目指した。


 右手に握るアクセルを回すと、顔に感じる風が強くなる。


 本来であればタカハル殿のように大型バイクに乗りたいのだが……クラッチ? ギア? そして突然止まるエンジン。如何せん、操作が難しかった。


 フッ……考え方次第では、我が輩たちチームJはまだ進化の余地を残しているのだ!


 我が輩は愛車――黒死天のアクセルを最大限に回し、風と共に駆けるのであった。


「総帥……獲物の姿を確認デス」

「うむ」


 声の主は我が輩の背中に張り付いた第一災厄(ディザスター・ワン)スライム種の元魔王――ジェイド(本名:タイチ=シオン)。


「ヒビキ殿……奴らの相手は我らチームJが引き受けましょう」


 我が輩は獲物である勇者一行を引き受けていたヒビキ殿に挨拶を済ませる。


「――ッ!? 新手か!」


 前にリナ殿が持っていた剣――ダーインスレイブを構えた怨敵イケメンが我が輩たちの姿を見て警戒する。


「こいつらを倒せば奴らの士気は落ちるかな?」

「どうだろうな?」

「とりあえず、確認をするか――」


 怨敵イケメンを囲むキラキラとした陽の者たちが我が輩たちに視線を送る。


「俺の名前は一樹かずき――金沢解放軍の御堂みどう一樹かずきだ」


 怨敵イケメンが名前を名乗った後に、フルネームで再度名を名乗る。


 フッ……此奴、なかなかやるな。名乗りから入るとは矜持を知っている。しかも、今の名乗り方は90点と中々の高得点だ。


 ならば、答えよう――その矜持に!


 我が輩は配下にアイコンタクトを送り、練習の成果を発揮することにした。


「我ラハ闇――」

「――アスター皇国の暗部を司りし、闇の狩人なり」


 第一災厄(ディザスター・ワン)の声に第二災厄(ディザスター・ツー)が続く。


「我らは影――」

「――漆黒の闇の中、主の怨敵を始末する者なり」


 第三災厄(ディザスター・スリー)の声に第四災厄(ディザスター・フォー)が続く。


「我らは切り札(ジョーカー)――」

「――主の怨敵を討ち倒す、最凶のつるぎなり」


 第五災厄(ディザスター・ファイブ)の声に第六災厄(ディザスター・シックス)が続く。


「我らはチームJ――貴様たちを黄泉へと誘う災厄なり!」


 最後に我が輩――終焉災厄(ラストディザスター)が名乗りと共に死を宣告した。


「――? つ、つまり……お前たちが魔王シオン軍の最強の存在なのか?」

「無論――」

「サブロウ! てめぇ! 何勝手に最強を名乗ってんだよ!」

「あ、あれは……新たな(羞恥)プレイの一種でしょうか? ……やりますね」


 クッ……。完璧な流れだったのに、タカハル殿が魔王と勇者の矜持に茶々を入れ、ヒビキ殿が羨望の眼差しを我が輩たちに送る。


 しかし、我が輩は負けぬ! このシリアスな空気を維持してみせる!


「勇者よ、闇の深淵――」

「ってか、スクーターで駆けつけて、ダセぇこと言ってんじゃねーよ!」


 ――ッ!?


 タカハル殿の叫び声が我が輩の声を遮る。


 まさか、真の敵は味方の中にいたのか……!?


 負けぬ……負けぬぞ……カノンたん見ていていますか? 我が輩の勇姿。終焉災厄――ダークネス・ドラクル・三世の矜持をご覧あれ!


「闇を――」


 ――サブロウ、黙れ。目の前の敵を撃破せよ。


 ――!


 頭の中にシオン様の底冷えするような声が響きます。


 この声のトーンは……危険ですな。


 ――《ダークナイトテンペスト》!


 我が輩は自慢の詠唱をかなぐり捨て、闇の暴風を怨敵へと放ちます。


「――!? こ、こいつ……いきなり攻撃を仕掛けて来たぞ!」

「クソッ! 俺の後ろに隠れろ! ――《マジックシールド》!」

「汚え……何て姑息な野郎だ!」


 闇の暴風に見舞われた勇者一行が罵詈雑言を吐き捨てます。


「フッ……戦場の中であっては、一瞬の隙は命取り。チームJ、奴らを殲滅しますぞ!」


 我が輩は引き連れた24人の幹部――第一災厄(ディザスター・ワン)から第二十四災厄(ディザスター・トゥエンティフォー)に命令を下し、勇者一行と対峙するのであった。


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