珠洲市役所への侵攻23


『統治が完了しました』


 スマートフォンの画面に表示されたシンプルな文章。


 侵略を開始してから44日目。珠洲市役所の侵略が完了したのであった。


 失った眷属の数は21人。失った配下の数は8000体以上。そして、失った貴重な戦力はリナ部隊の主力眷属――ガイ。


 対して得られた成果は――28.26k㎡の土地。15,056人の領民とコテツを含む眷属となった6人の人類。


 コテツの情報によれば、県北に残っているのは――戦意が喪失しているおよそ8万人の人類のみ。


 目標である県北の統一は目前であった。


 翌日、第八十七支配領域で保護していた人類を支配領域の近隣となっている人類の土地へと移動。回復したCPで《統治》し、領民としたのであった。



 ◆


「さてと、どうしようかな……」


 俺は自室で頭を悩ませていた。


 最優先でやるべきことは決まっている。


 ――珠洲市の《統治》だ。


 珠洲市の面積は247.2k㎡。内、84.8k㎡はすでに《統治》済み。残るは162.4k㎡。つまり、最低でも6回の《統治》が必要となる。


 《統治》を実行するには最大まで回復したCPが必要となり、《統治》を実行中の3時間はCPが回復しないので、最低でも13時間の待機時間が必要となる。


 最短でいけば、78時間後には県北が統一出来る。


 しかし、そうなると丸3日間以上CPが一切使えなくなる。


 現在、CPは逼迫ひっぱくした状態であった。


 その原因は――23,000人以上にまで膨れ上がった領民の存在だった。


 食料の問題は、《統治》した時に徴集した物資があるので……配下の食料を含めても、3ヶ月以上は余裕だ。逆に言えば、3ヶ月分しか食料がなかった。


 米や肉やパンといった簡易的な食料はアイテム錬成で賄えるが、配下を含めて5万人以上を賄うとなると、CPはそれだけで枯渇してしまう。


 コテツの話では珠洲奥には十分な量の食料が備蓄してあるらしいが、8万人以上の領民が増えたら、その十分な量といわれている食料でも……枯渇するのは目に見えている。


 他にも25,000人の住居を用意する必要もある。


 面倒だな……。


 一瞬、頭に8万人の人類を領民にしないで経験値に……という考えも過ぎったが、コテツから聞く限り珠洲奥の人類はほとんど戦闘経験がない――レベル1の人類だ。数は多いが、経験値は期待出来ないだろう。


 何より、数は力だ。今後、群雄割拠へと変わっていくであろう世界で、敵となる魔王や人類たちと争うことを考えたら、内政を強化し――『国』へと進化させることは必須事項に思えた。


「解決策は自給自足。そして――領民の自立か」


 領民を庇護するためのCP、《統治》に費やすCP、戦力を強化するCP……。


 魔王になった頃から比べると信じられないほどに増加したCPだが、相変わらずCPの割り振りに頭を悩ませるのであった。



 ◆



 悩んだ末に、俺は配下たちに助言を求めることにした。


 助言を求めるために呼び出した配下は3人――カノン、ヤタロウ、コテツだ。


 創造した配下は基本イエスマンだ。有益な助言が得られるとは思えない。一般的な常識あり、付き合いも長いリナにも声を掛けたが「そういう分野は私よりも適した人材がいる」と、暗にコテツを推薦された。タカハル、サラ、サブロウは魔王時代に支配していた支配領域を見る限り、内政には向いていないと判断した。特殊な性癖を除けば優秀な配下――ヒビキにも助言を求めようかと思ったが……「ご主人様……わかりました! このヒビキ! 身命を賭して……会議の間シオン様の椅子になることを誓い――」と意味不明な答えが返ってきたので、その場で放置することにした。


「と言う訳で、これからの支配領域運営について3人の意見が聞きたい」


 俺は呼び寄せた3人の顔を順番に見回す。


「リナに言われて参加したが……支配領域運営と言われても儂はよくわからんぞ」


 まずはコテツが難色を示す。


「コテツに聞きたいのは人類――領民の生活基盤についてだ」

「領民の生活基盤じゃと?」

「そうだ。現在領民の数は23,148名。そして、昨日から領民になった15,056名の領民については、その場しのぎで用意した支配領域での生活となっている」

「そうじゃな」

「このまま、支配領域でダラダラと生活を送らせるのは領民の精神的によろしくない。そして、何より俺自身――そのような生産性に欠ける領民を望んでいない」


 俺は一つ一つの言葉を選びながらコテツに説明をする。


「つまり、お主――シオン様は何が言いたいのじゃ?」

「これから俺の考えた話を聞いたうえで、3人には助言をして欲しい」

「了解じゃ」

「はい」


 俺の言葉にコテツとカノンは首を縦に振り、


「遂に、国を興すのか」


 ヤタロウは笑みを浮かべながら、俺の心の奥に秘めた核心を突くのであった。


「最初に伝えておくと、俺は領民を強制的に命令で縛ることも出来る。但し、そのように領民を奴隷のように扱っても――俺の国(・)は成長しない」


 俺は初めて国(・)と言う言葉を自分の口から声に出す。


「まずは領民の生活基盤を安定させる。次いで――生産性を求める。この考えに異論はあるか?」

「ほぉ……確かにリナの言うとおり、魔王と一言に言っても千差万別じゃな。儂は、異論はない」

「儂もじゃ」

「あのシオンさんが……出会った頃は配下の食事も用意しなかったシオンさんが……。うぅ……私は感動なのですよぉ。もちろん、大賛成なのですよぉ」


 俺の意見に、コテツとヤタロウは老獪な笑みを浮かべ、カノンは嬉しそうに笑みを浮かべるのであった。


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