珠洲市役所への侵攻22


(レイラ視点)

 AM5:05


 ――残り1時間! 敵の残存戦力は1500人!


 脳内に直接、偉大なる創造主――シオン様の麗しき声が響く。


「アイアン! クレハ! レッド! フローラ! シオン様に勝利を捧げるぞ!」

(是)

「はっ!」

「おうよ!」

「は~い」


 本来であれば……鼓舞をするのはリナの役割だ。しかし、リナはシオン様の命により待機となっていた。


 私たちは長い間、死地を共にしてきた。互いの行動は手に取るようにわかる。


 こういう乱戦のときは、アイアンが敵を引き付け……ガイが先陣を切る。しかし、そのガイはすでにいない……。シオン様の命令に背き……リナを庇い……滅した……。


 バカ者が……。なぜ、死に急いだ……。まだまだ……シオン様へのご奉仕も足りていないだろう!


 私は最前線で暴れる獣王――タカハルにガイの姿を重ねてしまう。


 重ねるといっても……全ての能力がガイよりもタカハルのほうが上だろう。悔しいが、元魔王の連中は、私たちよりも強い存在だった。


 同じ盾役の眷属であっても……アイアンよりもヒビキと呼ばれる変態のほうが優れていた。


 同じ魔法を扱う眷属でも……フローラよりもサラのほうが優れていた。


 私と同じ武器も魔法も扱える眷属であっても……サブロウのほうが優れていた。


 シオン様より創造されし我々よりも……元魔王の連中のほうが才能ポテンシャルは高い。認めたくはないが――事実であった。


 しかし、私たちも負けてはいられない! 私たちは奴らよりシオン様を崇拝している! シオン様のお役に立てる!


 私たちはシオン様に全てを捧げているのだ!


 ――《アイスバレット》!


 私は獣王タカハルへと剣を振り下ろそうとしていた人類に氷の弾丸を見舞った。


「お? ダンピールのねーちゃん、サンキューな」


 獣王はそんな私の気持ちも知らずに、軽い声を掛けてくるのであった。



 ◆



(タカハル視点)


 AM5:30。


 ――《統治》完了まで残り35分! 残存戦力は500未満!


 脳内に響くシオンの声に焦りが帯びてきた。


「ったく、心配すんなよ。後は屋上の敵を倒せば――完勝だ!」


 市役所内部の敵は全て掃討した。5階層の奥の部屋に籠もっていた連中は、戦うことも降伏することも選べない中途半端な人類だった。俺たちの姿を見たら、一目散に武装解除して投降を選択した。


「最後の仕上げだ! お前ら! 気合いを入れて行くぞ!」

「「「うぉぉぉおおお!」」」


 俺の言葉を配下たちは昂ぶった雄叫びで応える。


「ぷぷぷっ。タカっち……リーダー気取ってるみたいな?」

「あん? サラ、何か言ったか?」

「おー! 頑張ろー! って言っただけだし」

「うそつけ! この野郎!」

「野郎じゃねーし! 乙女だし!」

「アハハ! ボクは先に行くよ! じゃーねー」


 クソエルフと口喧嘩をしている隙にセタンタが屋上へと続く階段を上っていく。


「あ!? クソガキ! 待ちやがれ!」


 俺は慌てて抜け駆けしたセタンタの後を追いかけた。


 屋上に続く扉を開け放つと――必死な形相で武器を構えた人類たちが待ち構えていた。


「ったく、狭いな……」


 体育館ほどの広さがある屋上ではあるが……500人近くの人類が立て籠もった結果、全体の2/3を占有する状態となっていた。


「放てぇぇえええ! 放て! 放て! ――放てぇぇえええ!」


 髪を乱した小太りのおっさんが狂ったように叫ぶと、弓を構えた人類たちが一斉に矢を放ってきた。


「クソガキ下がってろ」

「クソガキじゃないよ? セタンタだよ?」


 セタンタは悪態をつきながらも、俺の後ろへと下がる。


「サラ!」

「あーい! ――《ウィンドシールド》!」


 俺へと放たれた矢は、サラが展開した風の盾に阻まれる。


「どうした? これでしまいか?」

「えぇぇい! 何をやっておる! 殺せ! 悪しき魔物を全て滅ぼすのだ!」


 矢が途切れたタイミングで笑みを浮かべると、髪を乱したおっさんは血走った目で怒声をあげる。


「上等だ! やってやるよ!」

「――待ちなさい!」


 アドレナリン全開で相手をしようとしたその時――背後から制止の声がかかる。


「あん? なんだよ?」


 俺は制止をした者――ヒビキを睨み付ける。


「その私を蔑む視線は素敵ですが……タカハルさん? ご主人様のご命令をお忘れですか?」

「あん? シオンの命令だと?」

「まずは、平和的に勧告をしましょう」


 ヒビキは紳士然とした態度で俺を諭すように話しかける。


「キャハハ! ヒビキっち……ウサ耳生やしながらパンイチなのに……めっちゃ紳士! マジウケル!」


 サラの下品な笑い声が、緊迫した空気をぶち壊す。


 しかし、ヒビキはそんなサラの笑い声など聞こえていないかのように、紳士の振るまいで人類へと声をかける。


「さて、人類の皆様。お初にお目に掛かります。私は偉大なる主――シオン様の眷属にして奴隷―― ……コホン、シオン様の眷属ヒビキ=シオンと申します。主シオンのお言葉を皆様にお伝えさせて頂きます」


 ヒビキは途中で強制的に口を閉ざされながらも、何とか言葉を再開させる。


「投降を申し出るのであれば、貴方達の命と安全な生活を保障しましょう。すでに多くのお仲間たちが投降の道を選んでおります。再び、彼らと共に人生を歩むのも素晴らしい選択肢の一つだと思いますよ?」


 ヒビキを友好的な笑みを浮かべながら、人類へと語りかける。


「黙れ! 黙れぇぇぇええ! 誰が貴様たち魔物に屈するかっ!」

「そうだ! 舐めるなっ! 息子の仇……果たさせてもらう!」

「……殺す。コロス……コロス……コロス……コロス!!」


 髪の乱れたおっさんがヒビキの提案を拒絶すると、同様に目が血走った2人の人類が武器を振り上げて、こちらに突撃してくる。


 ――セタンタ! 県知事を殺せ!

 ――サブロウ! 左の男を殺せ!

 ――タカハル! 右の男を殺せ!


「はーい! ――《ウィンドチェイス》!」

「畏まりました!」

「あいよ!」


 セタンタが風を纏いながら髪を乱したおっさん――県知事へと疾走。サブロウも刺突剣を構えて、向かってくる左側の男を迎え撃つ。俺も向かってくる右側の男に対して構えた。


「殺せ! 魔物と共存などあり得ぬ! 我々人類の未来は――」

「アハッ! おじさんうるさいよ――《偃月斬》!」


 唾を飛ばしながら騒ぐ県知事をセタンタが振り下ろした槍で両断。


「華麗にして優雅! 疾風にして迅雷! 我が輩の秘技……その目に焼き付けて逝け――《サウザンドスラスト》!」


 サブロウの残像が残るほどの速さで繰り出した刺突を受けた男が地に倒れる。


「オラッ!」


 俺は剣を振り上げた男の土手っ腹に《崩拳》を放ち、崩れ落ちた男の顔面に両足から繰り出される連続した回し蹴り――《双龍脚》をお見舞いした。


「さて、他に死にたい人はいますかぴょん?」


 ――ぴょんは禁止って言ったよな?


 ヒビキは冷や汗を垂らしながらも友好的な笑みを浮かべて、人類に再び語りかける。


 ――終了だ! 制限時間までそいつらの監視を怠るな!


 ヒビキの問い掛けに対する答えは、人類の口からではなく……シオンから告げられたのであった。

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