県北統一へ①


「まずは、領民に生活基盤として与える土地だ。どのくらい必要だと思う?」


 現在、珠洲市役所侵攻以前から領民となっていた者には羽咋市に存在する支配領域の一つ、その中の二階層分――28.26×2=56.52k㎡を居住区として解放。珠洲市役所侵攻の時に領民となった者には三階層分――84.78k㎡を居住区として解放してある。


「一つ質問いいですかぁ?」

「なんだ?」


 カノンが手を挙げて発言を求める。


「領民の居住区とする土地なのですがぁ……それは、今領民となっている2万3千人で考えればいいのですかぁ? それとも、領民となる予定の珠洲奥に避難している8万人も含めて考えたほうがいいですかぁ? 更には……その後も増え続ける領民も考慮しますかぁ?」


 カノンにしては良い質問だった。


「珠洲奥に避難している人類も含めた10万3千人にプラスアルファした12万人程度で考えてくれればいい。珠洲奥の人類を領民にした後は、領民が莫大に増加することは、しばらくないだろうからな」

「む? なぜじゃ!」


 俺の回答にコテツが反応を示す。


「なぜとは……? 12万人に設定する根拠か?」

「違う! その後じゃ! なぜ、しばらく領民が増えないのじゃ? 侵略を控えるのか……? それとも――人類を皆殺しにして覇道を進める気か?」

「後者と言ったらどうする?」


 俺は意地の悪い笑みを浮かべながら、質問を質問で返す。


「そ、それは……わ、儂は……シオン様の……配下じゃ……。領民となった人々……仲間となった魔物……何より家族リナを守るために……従わざる得ないじゃろ……」


 コテツは絞り出すように俺の問い掛けに答える。


「出来れば、その守るべき対象に俺の名前も入れて欲しかったが……」


 俺は苦笑を浮かべ、言葉を続ける。


「話を戻すと、コテツの質問に対する答えは、どちらも違う。但し、後者になる可能性のほうが高いというのは事実だ」

「どういうことじゃ?」

「逆に問うが……コテツはリナがいなくても、俺に投降していたか?」

「そ、それは……」


 俺の問い掛けに、コテツは苦悶の表情を浮かべる。


「それが、答えだ。今回は、偶然敵対した勢力の主軸となる人物――コテツの家族が俺の配下だった。リナの存在でコテツは投降し、コテツが投降したことにより多くの人類が投降した。更には、多くの人類が投降した結果――更に多くの人類が投降した」

「リナさんが仲間になっていて良かったですねぇ」


 俺の言葉にカノンが暢気な感想を漏らす。


「この連鎖はまだ終わらない。珠洲奥に避難している人類は元より戦意を喪失しており、コテツたちが投降したことにより、《統治》が容易に進むだろう。今回は運が良かっただけだ。例えば、金沢市に存在する人類は……俺の勧告を受け入れるだろうか? 富山県の人類は俺の勧告を受け入れるだろうか? 福井県の……って、これ以上はしつこいな」

「なるほど。……理解した」


 最後は笑みで締めくくった俺の言葉に、コテツは理解を示した。


「話を戻すが、12万人の領民に与える土地はどれくらい必要だと思う?」


 本題に戻した俺は、この中で唯一元人類ロウであったコテツに視線を向ける。


「12万人か……。住むだけなら珠洲市の1/5程の土地があれば十分じゃろ」

「珠洲市の面積は約250k㎡じゃな。1/5なら50k㎡ほどかのぉ」


 コテツの言葉を元教師のヤタロウがフォローする。


「住むだけか……。それ以外の用途も含むとどうなる?」

「用途によるのぉ。シオン様は人類――領民にどこまで求めておるのじゃ?」


 領民に割り当てる土地を決める前に、領民に何をさせるのかを決める方が先だったか。


「そうだな……」


 俺は頭の中で領民に求める作業を思い浮かべる。


「自給自足の為の農作業は必須として……戦える者は防衛と侵略。生産系の特殊能力を持っている者には生産。あとは、全てを錬成に頼らない為の――建設と工業。他にも何かあるか?」

「工業と言っても幅は広い。シオンはどこまで求めておるのじゃ?」


 ヤタロウが問い掛けてくる。


「例えば、自動車とかは材料があれば作れるのか?」


 人類の文明には様々な機械が存在する。自動車を運転することは俺にも出来るし、何となくのメカニズムも理解はしている。但し、作れと言われたら……完全にお手上げだ。これは、自動車だけではなく、電化製品も同様だ。冷蔵庫、洗濯機、エアコン、パソコン……使い方は分かるが、作り方は予想も付かない。


「知識を有する者がおれば……可能かもしれんの」

「その辺は後からピックアップするか」


 《支配領域創造》、《アイテム錬成》と言う反則に近い特殊能力があっても……ゼロからの国作りは大変だった。


「一階層と最深層を除いた全ての階層を居住区とする支配領域と、一階層と最深層を除いた全ての階層を農業地区とする支配領域、同様に一階層と最深層を除いた全ての階層を工業地区とする支配領域。これらの支配領域を全て【転移装置】で繋げる。これで、どうだ?」

「その支配領域は《統治》で獲得した支配領域ですよねぇ?」


 人類から《統治》で奪った支配領域と魔王から奪い取った支配領域では、広さが違う。


「そうだな」

「と、なるとぉ……現在の階層は18なので……16×28.26=452.16k㎡。農業地区と工業地区も同様の広さになるので、かなり広大な土地になりますねぇ」


 カノンがスマホの電卓アプリを操作しながら、具体的な数値を示す。数値で言われると、10万人にしては、かなり過剰な土地に思えてきたが……。


「珠洲市を全て《統治》したら安全地帯となる支配領域の数はかなり増える。同様の支配領域を魔物用も用意するか」


 土地を余らせておくのも勿体ないので、贅沢に使用することを選択した。


「領民の用途の選別はコテツ、ヤタロウ。二人に任せてもいいか?」

「うむ」

「人使いが荒いのぉ……了解じゃ」


 コテツは神妙な面持ちで頷き、ヤタロウは苦笑を浮かべながらも了承する。


「お次の議題は――」


 俺は次なる議題を3人に告げるのであった。


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