珠洲市役所への侵攻21


 珠洲市役所侵攻開始から9時間。


 時刻はAM3:00


 インターネットで調べた情報によると……この日の珠洲市の日の出は6:12。日の出は、俺を含めた一部の配下たちの弱体化を意味していた。


 《統治》を仕掛けるとしたら……今が最後のタイミングか。


 俺は、最終確認として各戦場をスマートフォンで確認する。


 投降の意志を示した人類の逃げ道は確保した。壁に覆われていた、珠洲市役所の周辺及び近隣施設の制圧は完了した。5階建ての珠洲市役所は、現在3階層まで侵略が進んでいる。


 生き残っている人類の数は――推定1万人。


 一人も投降の意志を示さなかったら3時間での殲滅は不可能だ。そもそも……投降しないで殲滅するのであれば、《統治》に拘る必要もない。


 生き残った人類の7割以上が投降の意志を示したら勝利は確定。5割以下であれば……成功率は半分に満たないだろう。


 さて、どちらに転ぶかな?


 俺は《統治》の準備を始めるのであった。



 ◆



 ――これより《統治》を開始する。各自、最後の仕上げだ――気合いを入れろ!


 俺は配下たちに重要な連絡事項を伝え、鼓舞した。


 ――《統治》!


 俺は目を瞑り、地面に右手を翳して念じる。


 地面は揺れ動き、翳した右手の先には周囲の空間を呑み込むような直径30cmほどの黒い渦が発生。


 スマートフォンの画面には見慣れた文章が表示される。


『《統治》を開始しました』


『有効範囲内にいる敵対勢力に《統治》を宣言しました』


『180分以内に有効範囲内にいる全ての敵対勢力を排除して下さい』


『Alert。有効範囲内に敵対勢力の存在を確認しました。直ちに排除して下さい』


『有効範囲内の地図を表示しますか? 【YES】 【NO】』


 立て続けにスマートフォンの画面に流れるメッセージ。


 俺は【YES】をタップした。


 ――!?


 スマートフォンに映し出された半径5km圏内の地図を見て、俺は眉をしかめる。


 詳細な数は不明だが……ぱっと見、黄色――戦意を喪失している人類の割合は2割弱。そして、赤色――人類の数は、青色――配下の数のおよそ3倍。


 このままでは《統治》が成功する確率は限りなく低い。


 俺は拡声器を取り出して、勧告を促す。


「珠洲市役所に立て籠もる人類に告げる――勝敗はすでに決した! 無駄に命を散らしたいのであれば……最後まで抗うがよい! 但し、生き延びて新たなる人生を望む者は……武装を解除し、珠洲市役所前の広場に集まるのだ! 同時に、忠実な配下諸君に告げる! 武装を解除し降伏の意志を示した人類を、傷つけることを禁ずる!」


 俺は配下に対しての言伝を、敢えて言葉にして人類に聞かせた。


 さぁ……これで状況はどのくらい変わる?


 俺は期待と不安を入り混ぜながらスマートフォンの画面を確認する。


 ――!


 黄色のドットの割合が大幅に増加。ぱっと見となるが、その数は赤色のドットの数を超えて――人類の全体の6割ほどだろうか? 青いドットの数と、赤いドットの数を比べてみると……若干、赤いドットの数が上回ってはいるが……十分に対応出来る数だ。


 ――総員に告ぐ! 武装を解除した人類は無視しろ! 奥へ! 奥へと侵攻するのだ!


 俺の命令を受けて、配下たちは殺気を迸らせながら侵攻を再開。黄色のドットへと変化した人類は、我先にと珠洲市役所前の広場へと移動を始めた。


 ――?


 これは……?


 ――イザヨイ! 1階の入口前へ移動しろ!


 俺は最前線で戦っている貴重な戦力であるイザヨイを入り口前へと呼び戻す。イザヨイが移動を完了したのを確認した俺は次なる命令を下した。


 ――入口から出る人類は一人ずつ順番に並ばせろ!


「正面入口から広場へと避難する人類に告げる! 市役所から外へ出るのは一人ずつだ。入口付近は非戦闘地域となっている。順番に並んで、押さない! 走らない! 喋らない! ……子供でも守れるマナーだ。遵守してくれ」


 拡声器を用いて、人類にも並ぶように指示を出す。


 俺は市役所の正面入口から一人ずつ広場へと移動していく黄色いドットを確認する。


 ――イザヨイ! 今、外に出た人類は敵だ。一度だけ勧告しろ。抵抗すれば――殺せ。


 スマートフォンの画面には大量の黄色のドットに紛れて、正面入口へと移動する幾つかの赤いドット――敵の存在が映し出されていたのだ。


 イザヨイを呼んだ理由は――降伏した人類に紛れる不穏分子を処理するためだった。


「そこの人類、少しよろしいですか?」

「――!? 《ファイヤー……」


 イザヨイに呼び止められた人類は振り向きざまに魔法を唱えようとするも、イザヨイの突き出した槍に胴体を貫かれ、絶命する。


 その後も100人に1人くらいの割合で紛れている不穏分子を、イザヨイが粛々と処理するのであった。



 ◆



 現在、戦力は二分されていた。


 主力は珠洲市役所の制圧を進める……元魔王とセタンタ、それにリナを除いたリナ部隊に所属していた眷属。そして3千体の配下たち。


 もう一部隊は珠洲市役所周辺に散在する人類を掃討する……クロエ部隊の眷属と1000体の配下たちだ。


 《統治》を開始した3時間後……6:05には、全ての敵対する人類を掃討しなくてはならない。1人でも見逃せば、《統治》は失敗となる。


 俺はスマートフォンを確認しながら配下たちに随時命令を下し、手が空いたときは拡声器を用いて勧告を促し続けた。


 4:30。


 残された時間は1時間35分。


 主力の部隊は珠洲市役所の5階まで、侵攻を進めていた。珠洲市役所に立て籠もる人類の数は……目算で2000人弱。珠洲市役所に散在していた敵対する人類も残り100人程度だ。


 俺は配下たちの力を信じて、投降を促し続けるのであった。


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