珠洲市役所への侵攻20


「「「うぉぉぉおおお!」」」


 武器を振り上げ、雄叫びをあげながら珠洲市役所へと攻撃を仕掛ける配下たち。


 ――イケ! イケ! イケ! 珠洲市役所に乗り込めー!


 俺は周囲の騒音にかき消されないように、念話にて配下たちを鼓舞する。


 ――魔法部隊! 珠洲市役所へと魔法を撃ち込め!


 ――弓部隊! 珠洲市役所へと矢を射続けろ!


 サラ率いる魔法部隊とクロエ率いる弓部隊は、侵攻する前線の配下を誤射しないように高度を上げて魔法と矢を放つ。


 珠洲市役所の人類たちも建物の中から矢で応戦しようとするが、降り注ぐ魔法と矢に阻害される。中には被弾覚悟で矢を放つ人類もいるが……その程度の数の矢では俺の配下の勢いは殺せない。


「しゃっ! 一番乗り!」


 早々に獣王へと変化したタカハルは門を打ち破ったトラックを飛び越え、門の向こう側――珠洲市役所へと侵攻する。


「タカハルさん! 痛みの快感……もとい、タンクの役割は私ですよ?」


 うさ耳を生やした状態のヒビキが、先行するタカハルを追いかける。その後も、多くの配下が次々と門を越えて珠洲市役所へと侵攻する。


 ――レッド! ノワール! ルージュ! トラックをどけろ!


「「「あいよ!」」」


 タカハルから少し遅れて門へと辿り着いた3人の鬼に、門を塞ぐトラックの除去を命じた。3人の鬼は強引にトラックを持ち上げ、門の外へと放り投げる。


 道は完全に拓かれた。


 多くの配下たちが門を超えて、珠洲市役所へと侵攻するのであった。



 ◆



 ――レイラ! ブルーと共に部隊を率いて矢を放つ人類を掃討せよ!


 ――レッド! ノワール! ルージュ! 目障りな『櫓』を全て破壊せよ!


 眷属の状況を確認しながら、随時指示を出す。


 最も乱戦と化しているのは、珠洲市役所周辺の駐車場だ。無数とも言えるほど湧き出る人類と配下たちが激しい戦闘を繰り広げていた。


 そして、珠洲市役の入口前では――


「クソ! 魔物ども! 本性を現わしたか!」

「ここは我ら人類の最後の砦だ! 死ぬ気で守るぞ!」

「父さんの……父さんの仇を討つんだ!」


 珠洲市役所から出て来た1000人を超える人類と、タカハル、ヒビキ、イザヨイ、サブロウ、セタンタ……そして100体の配下が対峙していた。


「ハッ! 本性を現わしただと? シオンはてめーらに選択を与えていただろうが!」

「シオン様は……賤しくも下等種である貴方たちに慈悲を与え、正々堂々と宣戦布告までしたというのに……嘆かわしいですね」


 タカハルは人類を威圧するように怒鳴り声をあげ、イザヨイが呆れるように嘆息する。


「正々堂々だと……。ふざけるな!」

「は? ふざけているのは……てめーたちだろうが! うぉぉぉおおお!」


 タカハルが空気を震わせるほどの《咆哮》をあげると、対峙した人類たちがすくみ上がる。


「へへっ! 一番槍はボクがもらうよ! ――《ウィンドチェイス》!」


 セタンタはあどけない笑みを浮かべると、風を纏いながら人類へと飛び出す。


「セタ! 我が輩を置いていくなと……!」

「コラッ! 小僧! 待ちやがれ!」

「しょうがない子ですね……」


 サブロウ、タカハル、イザヨイは抜け駆けしたセタンタを追いかけるように、人類へと飛び出し……


「全ての攻撃を私は受け容れよう――生ある全ての存在よ、我が肉体に酔いしれん! ――《パーフェクトボディ》!」


 金色に包まれし変態――ヒビキは、無駄に筋肉をアピールして人類のヘイトを高める。


「あはは! 強い人は誰? 誰なの? 遊ぼうよ! ボクと遊ぼうよ!」


 無邪気な笑みを浮かべながら突き出したセタンタの槍が、一人の人類を貫き、


「オラッ! さっき生意気な口を利いたのはてめーか?」


 タカハルの突き出した拳が、一人の人類の顔面を打ち抜き、


「深淵の闇……己が眼で確認するがよい! ――《スラストバースト》!」


 サブロウが突き出した刺突剣が、一人の人類を貫き、


「シオン様の慈悲を踏みにじった罪……万死に値する! ――《ダークナイトテンペスト》!」


 イザヨイの放った吹き荒れる闇の風が無数の人類を呑み込んだのであった。


 功を競い合うように最前線で暴れ回る眷属たち。その強さは人類に恐怖と絶望を与えるのであった。



 ◆



 珠洲市役所侵攻開始から6時間。


 戦況は好調であった。要因は、数では圧倒的に負けていたが……質と士気ではこちらが大きく上回っていたことだろう。


 つまり、最初にコテツと共に投降した人類は珠洲市役所陣営の主力であったことが――今回の戦況に繋がったのだ。


 こちらの被害は何体だろうか……? 1000体弱か? 対して、敵の被害は5000人を超えているだろう。こちらは、倒された配下を支配領域から随時補充しているのに対し、敵は補充――増援を期待出来ない。


 このまま押し切れば……勝利は確実だろう。


 後は、どれだけ多くの成果を挙げられるのかが……俺の腕の見せ所となる。


 俺は各戦場で戦う配下の視界をスマートフォンにて確認すると同時に、上空を旋回しているジャイアントバットの視界も確認する。


 確認するのは、人類の表情、行動、目――士気だ。


 《統治》を仕掛けられるタイミングは13時間に1回。失敗は許されない。


 まずは投降の意志を示した人類の逃げ道の確保。ベストは珠洲市役所入り口前の広場だ。珠洲市役所の入口周辺と広場周辺の敵を全て掃討し、投降の意志を示した人類を迎え入れる体制を整える必要がある。


 次いで、3時間以内に反抗を示す人類を粛清するための位置取り。半径3km以内にいる全ての人類を屈服させる必要がある以上……事前準備は必須だった。


 俺は静かにスマートフォンを操作しながら《統治》のタイミングを覗うのであった。


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