珠洲市役所への侵攻④
タカハルの運転する大型バイクに乗り、珠洲市役所の方角へと疾走。
――フルアクセルは可能か?
帰路はスピード勝負になる可能性もある。俺は事前に最高スピードを体感したいと思い、タカハルに命令を下す。
――!
うぉ……。想像以上の加速に、俺の上体は後ろへと反れる。抱きつくのは恥ずかしいので、シートに付帯してあったベルトのようなモノを掴んでいたのだが……。
ここは恥を忍んで……、いや、まだだ! まだ耐えられる!
【肉体】Bを舐めるなよ! 俺は鍛えられた体幹を駆使し、全力でベルトを握り締めることにより事なきを得た。
今が昼間だったら……【肉体】が弱体化している状態だったら……。
俺は一つの可能性を想像してしまい、身体をブルッと震わせるのであった。
◆
支配領域を発ってから40分。
目的地である、珠洲市役所から2kmほど離れた公園に辿り着いた。
文明は偉大だった。移動手段がなかったら、何倍もの時間を要していただろう。
俺もバイクの運転を練習しようかな……。自動車でもいいが、小回りを考えるとバイクだよな?
「タカハル。バイクの運転って難しいのか?」
「自転車には乗れるか?」
「乗れる」
「なら、余裕だろ? 最初は中型で慣らせば、すぐに運転出来ると思うぞ」
自転車に乗れたらバイクは余裕……? タカハルは大雑把な性格だ。今の言葉を100%信じるのは難しいが、今度時間を見つけて練習するのはありだな。
っと、無駄話はこの辺にして……本題に入るか。
「タカハル。いつでも出発できるようにしといてくれ」
「おう。わかった」
――《統治》!
俺は目を瞑り、地面に右手を翳して念じると、地面が揺れ動き、翳した右手の先には周囲の空間を呑み込むような直径30cmほどの黒い渦が発生。
スマートフォンの画面には見慣れた文章が表示される。
『《統治》を開始しました』
『有効範囲内にいる敵対勢力に《統治》を宣言しました』
『180分以内に有効範囲内にいる全ての敵対勢力を排除して下さい』
『Alert。有効範囲内に敵対勢力の存在を確認しました。直ちに排除して下さい』
『有効範囲内の地図を表示しますか? 【YES】 【NO】』。
俺は【YES】をタップ。
スマートフォンに半径5km圏内の簡易的な地図が表示される。
――!
想定はしていたが……マジかよ。
簡易的な地図上に表示された無数のドットは――全て赤色だった。
白色(ニュートラル)は0か……。今までの《統治》をしてきた地域には、《統治》を発動した時点で黄色(服従)になるケースも多かったのだが……。
今回は見事なまでに全てのドットが赤色だった。
ドットが固まっている場所が2ヶ所あるな。
「タカハル。珠洲市役所のすぐ近くに大きな建物はあるか?」
「交流センターとか言う建物があるな。あと、小さい建物も幾つかあるな」
スマートフォンから検索した情報をタカハルが教えてくれる。
と言うことは、あの馬鹿でかい壁は市役所だけじゃなくて、他の建物も囲んでいるのか。珠洲市の人類の拠点は想像以上に広いようだ。
このドットの数を数えるのは面倒だな……。俺は片手で器用にスマートフォンの画面のピンチしながら、ドットが集まっている地点を拡大。
これを数えるのは無理だな……。
画面上を埋め尽くすように表示された、無数の赤いドットを見て辟易とする。
スクリーンショットをして、支配領域に戻ってから数えるか。
――チッ!
俺は思わず舌打ちをする。
何でスクリーンショットの操作はボタンを二つも押さないとダメなんだ!
現在右手は《統治》を維持するために、使用が出来ない。
っと、のんびりとしている暇はない。幾つもの赤いドットが慌ただしく動き始める。
俺は何とか片手でスクリーンショットを成功させる。その後、次々と地図を移動させながら赤いドットの表示された画面をスクリーンショット。
赤いドットは留まってくれないので、多少の誤差はあるが、全ての地点をスクリーンショットに収めることに成功した。
次にすべきことは……
俺は『拡声器』を取り出した。
『俺の名前はシオン。金沢市から輪島市までの全地域を支配した魔王だ。珠洲市役所に立て籠もる人類に告げる。降参をするのなら、命は奪わない。降参するのであれば、衣食住と人としての尊厳を保障しよう』
俺は珠洲市役所に立て籠もる人類に勧告の言葉を告げる。
『俺の支配下に降る意思がある者は、その想いを意識しろ。逆らうのであれば、万を超える俺の配下――魔物が力ずくで対応する。猶予は3分だ。熟考してくれ』
勧告の言葉を告げた俺は、スマートフォンの画面を覗き込み、降伏した人類の数を確認する。
……マジかよ。
スマートフォンの画面に表示されたドットの色は全て赤色。珠洲市役所に立て籠もる全ての人類は戦いの意思を示していた。
「っと、ヤバいな……。タカハル撤退するぞ」
「あん? 3分待たなくてもいいのか?」
「待ってもいいが、数千の人類と戦う羽目になるぞ?」
「……そいつはキツいな」
辟易とする表情を浮かべたタカハルの運転する大型バイクに乗り込み、俺たちはそそくさと撤退と始めたのであった。
◆
撤退から30分。
フルアクセルで疾走した甲斐もあり、俺とタカハルは無事に支配領域への帰還に成功した。
支配領域に戻った俺は、自分の居住区に戻り今回の成果――スクリーンショットの確認作業を始めることにした。一人で数えるにはドットの数が多すぎるので、スクリーンショットをカノンへと転送。カノンは受け取ったスクリーンショットを眷属にした人類へと転送。面倒な作業は分担され、1時間後にはおおまかな敵の数が把握出来た。
珠洲市役所に立て籠もる人類の数は――約28,000人。
今回の偵察で得られた成果は以上だ。
得られた成果は十分な価値があったが、失った代償も大きかった。
一つはCP。
《統治》を失敗したことにより、全CPが枯渇した。
大きな代償とも言えるが、これは想定内だ。
想定外となった代償は――敵の士気の向上だ。
ネットに大々的に取り上げられたニュース――
『 《速報》 珠洲市の英雄。金沢の覇王の撃退に成功!
石川県北部にて、精力的に支配領域を拡大していた金沢の覇王こと――魔王シオン。珠洲市の英雄たちは力を合わせて傍若無人に領土を拡大し続けていた魔王シオンの撃退に初めて成功した』
そして、記事と共に掲載された歓喜の表情を浮かべる人々の写真。
今回の撤退は戦略的撤退だった。しかし、そんな事情を人類が知る由もなく……今回の偵察による撤退は、人類の士気を高める結果へと繋がってしまったのであった。
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