珠洲市役所への侵攻③


「どうやって敵の正確な戦力を確認するのですかぁ?」

「《統治》」

「――! なるほどぉ」


 俺はカノンの疑問にサクッと答えた後、スマートフォンを操作。今回の作戦に必要不可欠な配下へと電話する。


『む? シオンか? どうした?』


 スマートフォンからは、数回のコールを経て繋がったキーパーソンとなる配下のぶっきらぼうな声が聞こえる。


「タカハル。出掛けるぞ」

『は? 面子は?』

「俺とタカハル……以上だ。例のバイクを用意して、第二百三支配領域の入口で待っていてくれ」

『お、おう……。風になりたい――』


 用件を伝えた俺は、タカハルの言葉を最後まで聞くことなく電話は切った。


「行ってくる」


 俺はカノンに一言残して、第二百三支配領域の入口へと転移。入口で5分ほど待っていると、タカハルが米国産の大型バイクと共に姿を現わした。


「んで、どこに行く? 俺のお勧めは千里浜だな。少し遠いが――」

「珠洲市役所だな」

「は? そこって人類の本拠地だろ? 流石に二人はキツくねーか?」

「戦う訳ないだろ? 正確な行き先は珠洲市役所から2kmほど離れた地点だ」

「偵察か……?」

「まぁ、そんな感じだな」


 支配領域から出た俺は、タカハルが運転する大型バイクの後部シートへと跨がった。


「どこを目指すよ?」


 俺へと振り返り質問するタカハルに、俺は「あっち」と漠然とした方角のみを指し示す。


「適当だな」


 方角を指し示す俺に、タカハルは軽く笑みを溢すと……大型バイクは騒音を鳴らしながら、指差す方向――珠洲市役所へと発進した。


 ――聞こえるか?


「……んだ?」


 風の影響で声が届かないと判断した俺は、タカハルへと念話で話しかける。


 ――聞こえるなら、首を一回縦に振れ。


 タカハルは軽く首を縦へと振る。


 ――この会話は運転の妨げにはなっていないよな?


 タカハルは軽く首を縦に振る。


 ――重要な命令を1つ伝える。今から走る道は必ず覚えろ。


「は?」


 タカハルは俺の命令に首を縦に振ることはなく、その場でバイクを停止させる。


「ん? どうした?」

「どうした? ……じゃねーよ! いきなり道を覚えろと言われて、覚えられる訳ねーだろ!」

「なるほど……」


 タカハルの言葉を受け止め、俺は一考。スマートフォンを取り出して地図アプリを立ち上げる。


「ここまでの道のりは覚えているよな?」

「この距離なら余裕だな」

「なら、このまま直進して……次の大きな交差点を右折。そこから道なりに直進だ」


 俺は地図アプリを見ながら、距離でも時間でもなく、一番簡潔な道のりを伝える。


「それだけでいいのか?」

「それなら覚えられるだろ?」

「その程度なら……」


 タカハルは気まずそうに、人差し指で頬を掻く。


「んじゃ、出発すっか!」

「っと、少し待ってくれ」

「あん? 道なら覚えたぞ」

「いや、道じゃなくて……試したいことがある」

「――?」


 首を傾げるタカハルを無視して、俺は偶然近くに存在した塀に囲まれた立派な家屋に視線を送る。


「ん? 空き巣でもするのか?」

「人聞き悪いことを言うな……」

「人じゃねーだろ」


 ため息を吐く俺に、タカハルは笑いながら反論。俺は、そんなタカハルを無視して目の前に存在する高さ1.5メートル程の塀に意識を集中させる。


 ――《ダークランス》!


 放たれた闇の槍が目の前の塀に衝突。


 は?


 脆弱な人類であれば一撃で死へと誘う程度の威力はあるのだが――闇の槍を受けた塀には、傷の一つも付いていなかった。


 《ダークランス》を放った壁が、偶然頑丈だった……? もしくは――


「おい! どこに行くんだよ!」


 俺は叫ぶタカハルを無視して、別の家屋の前へと走る。


 今度の目標物は、先程の塀よりも低い……一般的な家屋の塀だ。


 ――《ダークランス》!


 塀へと吸い込まれる闇の槍。塀へと直撃した後に訪れた結果は――同じだった。


 傷一つ無く佇む一般的な塀。


 ――《ファイヤーアロー》!


 塀へと吸い込まれる無数の炎の矢。塀へと直撃した後に訪れた結果は――同じだった。


 魔王の力は特殊能力に効かない……?


 今回の俺の行動は、八つ当たりでも、憂さ晴らしでもなく――実験だ。


 珠洲市役所を覆う高い壁。あの壁を魔法で打ち破れるのか? 打ち破れるとしたら、どの程度の魔法を、どの程度放てばいいのか? それを知るための実験だった。


 結果は……魔法は人工物に効果を及ぼさない? それとも、特殊能力が人工物に効かないのか? 或いは、カオスに属する者のチカラが……?


「タカハル!」

「あん?」

「あの塀を特殊能力で破壊しろ!」

「――? あの塀をぶっ壊せばいいのか?」

「そうだ!」


 タカハルはぶっきらぼうに返事をすると、ゆっくりと俺の指定した塀の前まで歩みを進める。


「んじゃ、行くぞ。――《崩拳》!」


 タカハルは半歩ほど踏み込むと、右拳を塀へと突き出した。


「――? あん? っだよ! 何で壊れねーんだよ! ――《飛燕脚》!」


 タカハルは右足を鞭のようにしならせて、塀へと蹴りを叩き込む。


 しかし、結果は――同じだった。


 特殊能力は人工物に無効と考えていいな。ならば……


 ――タカハル! 特殊能力を用いずに塀を破壊せよ!


「あん? クソがッ!」


 タカハルは怒りにまかせて塀を殴打。


 激しい衝突音と共に、塀は粉々に打ち砕かれた。


 特殊能力以外ならいけるのか……?


 俺は背中に担いだゲイボルグを手に取り、力を込めて刺突する。


 ――ッ!?


 ゲイボルグを手にした右手に痺れるような反動が伝わる。


 ゲイボルグの刺突を受けた塀は――ゲイボルグの刃先と同等の穴が空いていた。


 通常であれば、ゲイボルグの刺突は易々と鎧ごと敵を貫く。よほどの敵でアイテムでもない限り、ここまでの反動は利き手に伝わらない。


 アイテムの強さも意味が為さないのか?


 塀に穴を空けたのは、ゲイボルグの性能ではなく――Bランクにまで成長した俺の【肉体】が為した成果だろう。恐らく、低ランクの武器で試しても同じ効果を得られると思う。


 破壊不可では無いのは救いだが……厄介だな。


 その後も色々と実験をした結果――人工の建築物のみが壊れた世界の理で得られたチカラが通じないこともわかった。


 根本から作戦を立て直す必要があるな……。


 軽い気持ちで始めた実験は、大きな事実を俺に教えてくれたのであった。

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