統治③


(タカハル視点)


 俺はシオンから命令を受け、騒がしい女エルフ――サラと共に配下を引き連れて北東を目指した。


「んで、何すればいいんだ? 北東にいる人類をぶっ殺せばいいのか?」

「ハァ? タカっちマジ? シオンっちの話、聞いてた?」

「あん? んじゃ、何すればいいんだよ!」

「《統治》っしょ!」

「だから、《統治》って何すればいいんだよ!」

「えっ? アレよ! シオンっちも言ってたじゃん? ……力ずくで対応しろ?」

「は? 要は人類をぶっ殺せばいいんだな?」

「……かな?」


 ――ちげーよ! 力を示せ! そして、服従の意を示したら俺に連絡しろ!


 シオンの声が頭の中に直接響く。


「お!? 聞こえたか?」

「うんうん。聞こえたー。ってか、シオンっちからしか話せないってズルくない?」

「勝者の特権だろ」

「タカっちって負けず嫌いの癖して……そこは認めるんだ」

「負けたのは事実だからな……。チッ、つまんねーこと言ってないで行くぞ」


 俺は不愉快な話題を打ち切り、目的地を目指すのであった。



 ◆



 ん? あれは……?


 シオンからの命令を受けながら進んだ先には、大きな建物――小学校があった。


「あの学校にいる人類へ力を示せばいいんだよな?」

「じゃない?」


 俺はサラと共に配下を引き連れて小学校の校門をくぐり抜ける。


「ば、化け物……」

「そ、そんな……数が多すぎる……」

「ヒ、ヒィ……だ、だから、お、俺は逃げようって言ったんだ!」


 玄関の前には貧相な装備を身に付けた30人ほどの人類が震えていた。


 こいつらに力を示せばいいのか……? 軽く撫でるだけで死にそうだが?


「さてと、どうするよ?」

「えっ? 殺しちゃダメっぽ?」

「力を示すんだろ? 何人かいいんじゃね?」


 震える人類を前にサラと今後の行動を話し合っていると……


「ヒッ……あ、あ、あいつは……宇ノ気の獣王!?」


 人類の先頭で剣を構えていた1人の男が俺の姿を見て驚く。


「宇ノ気の獣王って……タカっちのこと?」

「じゃね?」

「うわっ!? タカっちって何気に有名人!?」

「ハッ! 今更気付いたか」

「でも、タカっちを知ってるってことは……逃がしたんだよね? ……プププ」

「うるせぇ! ぶっ殺すぞ!」

「キャー! 有名な宇ノ気の獣王が怒ったぁ……あーしは怖くて泣いちゃう的な?」


 俺は泣き真似をしながら性悪な笑みを浮かべるサラに苛つきを覚える。


「お、お、お前たちの目的はなんだ……!」


 奥から姿を現わした中年のオヤジが震える声で叫ぶ。


「あん?」

「ヒ、ヒィ……」


 俺は苛ついた状態のまま、中年のオヤジに視線を送る。


「ほらぁ……タカっちみたいな強面に睨まれると誰でも震えるよ?」

「うっせー!」


 性悪な笑みを浮かべるサラを恫喝するが、サラは物怖じすることなく笑みを浮かべる。


 ダメだ……。このアホエルフと会話していても苛つくだけだ。さっさと用事を済ませるか。


「俺たちの目的は……シオンが言っていただろうが! 聞こえなかったのか?」

「お、俺たちに服従しろと言うのか……」

「そうだ!」


 震える人類に俺は一喝する。


「な、なぜ今更になって……お前たちが……魔王が! 我々に服従を求めるのだ!」


 なぜ今更……? 俺は人類が発した言葉の答えを考えるが……。


「知るか! 服従するのか、しねーのか、どっちかハッキリしろ!」


 答えは俺も知らない。そもそも答える義理もない。俺は人類に選択を迫る。


「ちょ、タカっち、タカっち?」

「あん?」


 緊迫した空気の中、サラの緊張感ゼロの声が俺の耳に届く。


「例の件確認っしょ?」

「例の件……?」


 ――!


 例の件か……。確かに重要な件だ。俺としたことがすっかり忘れていた。


「おい! てめーらの中に料理が得意な奴はいるか!」


 例の件――俺たちの料理を作る人類の確保と言う大義を忘れていた。


「……」

「聞こえねーのか! てめーらの中に料理が得意な奴はいねーのか! いるなら手を挙げろ!!」

「「ヒ、ヒィ……」」


 俺の言葉に押されて数人の人類が、僅かに手を挙げる。俺は手を挙げた人類の顔を記憶し、力を示す相手の候補からその人類を外す。


「よし……あいつら以外を殺して力を示せばいいな」

「タカっち、タカっち」

「あん?」

「とりま、強そうな奴を半殺しにして様子を見れば?」

「面倒だな……」

「殺したら、配下になった後に面倒じゃね?」

「――! お前、そこそこ頭いいのか?」

「ハァ? タカっちマジ卍!」


 取るべき行動は決まった。人類どもは未だに俺の問いに対しての答えは出さない。癪だが、サラの案でいくしかないな。


「んじゃ、そこのお前とお前とお前……ついでにお前も含めるか」

「――!」

「え?」

「わ、私も……」

「な、何……」


 俺は装備が充実している人類を4人ほど指名する。


「今から俺が1人で戦ってやる。力の差ってやつを教えてやるよ」


 シンプルイズベスト。慣れない作業から解放された俺は極上の笑みを浮かべるのであった。


「オラッ! 俺が指名した奴以外は離れてろ! てめーらは、全力で向かって来いや!」

「クッ……!?」

「や、やるしかないのか……」


 俺の恫喝に応じて、指名された4人の周囲から人が遠ざかり、指名された4人は震える手で武器を構える。


「行くぞ!」


 俺は地を蹴り、剣を構えていた男との距離を一瞬にして詰める。


 ――《飛燕脚》!


 素早く、しなる鞭の様に振り回した右足が男の持つ剣を蹴り飛ばす。剣を蹴り飛ばされ、呆然とする男の顔面を鷲掴みにして、そのまま地面へ押し倒した。


 まずは、1人。 ……死んでねーよな?


 残るは弓を構えた男と斧を手にした重装備の男、そして杖を手にした女だ。


 俺は弓を構えた男へと突進するかのように見せて、途中で地を蹴り方向を転換し重装備の男の目の前に移動する。


「――な!?」


 重装備の男は慌てて盾を構えるが……


 ――《崩拳》!


 突き出した右手の拳が構えた盾を容易く貫き、その奥にある重装備の鎧にも穴を空ける。


 身体は貫いてないし……生きてるよな?


 ……っと!


 風を切る音を捉えて上体を反らすと、俺の顔のあった位置に一本の矢が通り過ぎる。


 俺は矢を放った男へと満面の笑みを返す。


「ヒッ……」


 俺は再び地を蹴り、弓矢を構えた男へと突進する。途中数本の矢が放たれるも、シオンがくれた籠手で矢を弾きながら、男との距離をゼロへとする。俺は恐怖に怯える男に会心の笑みを送ると、そのまま右手を振り抜き手の平で男の顔面を叩いた。


 これで残った人類は1人――内股で震えながら杖を手にした女だ。


 女へ向かって俺が再び地を蹴ろうとしたその時――


「タカっち! ちょい待ち!」


 クソエルフの声が俺に待ったを掛ける。


「あん?」

「シオンっちからみたいな? ここにいる人類は全員服従したっぽ」


 クソエルフはいつの間にかスマホを手にしていた。恐らく、俺が人類に力を示し始めた段階で、シオンと電話で連絡を取り合っていたのだろう。


「んじゃ、終了か?」

「タカっち、お疲れちゃん」


 俺は全く労いを感じさせないサラの笑みに苛つきを覚えるのであった。   

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