統治④


 北東――タカハルとサラの部隊は勧告に成功したか。


 俺はスマートフォンの画面に映し出された黄色いドットを確認して、笑みを浮かべる。


 北東で赤色から黄色へと変化したドットの数は42。つまり、42人の人類を服従させたことを示していた。


 一時はどうなるかと思ったが、成果は上々だ。今後のモチベーションを考えて、服従させた人類から数人を料理担当にしてやるか。


 さてと、クロエとレイラの部隊はどうなっているかな……。


 俺はスマートフォンを操作して、クロエとレイラの様子を確認する。


 ってか、地味に右手を翳し続けるのは疲れるな……。



 ◆



(クロエ視点)


「さぁ下等なる者どもよ……選ぶがよい! 死してシオン様の糧となるか……偉大なる創造主シオン様に生涯を捧げるか……! どっちだ!」


 私は目の前に並ぶ愚かな人類に、シオン様からの慈悲に溢れた選択を告げる。


「……」


 愚かな人類共は震えるばかりで、一向に返事をしない。


「なぁ? クロエの姉御?」

「何だ?」


 私は不躾な声を掛けてきた巨躯の黒鬼――ノワールに視線を送る。


「面倒だし殺っちまおうぜ?」

「フッ! 馬鹿者め……。我らの使命はシオン様の意思を伝えることだ」

「でも、シオンの旦那は力を示せとも言ってたじゃねーか」


 ……む? 確かに、言っていたな。


「よろしい! ならば皆殺――」


 ――よろしくねーよ! 可能な限り、人類を服従させろ!


 ハッ……!? 頭に直接響くシオン様のお声に私は全身が震える。


「喜べ! 愚かなる者どもよ! 慈悲深きシオン様は……生を与えると仰った!」

「……」

「――? どうした! 今すぐ服従の意を示さぬか!!」

「ふ、ふ、ふざけるな!!」


 ――!?


 ふざけるな……? 目の前の下等な生物は何を言っているのだろう?


 慈悲深きシオン様が服従する機会を与えたと言うのに……?


 ダメだ……目の前の下等な生き物は愚かすぎる……。シオン様の下僕に相応しくない……。


 私は背負った弓を手にして、愚者共へと弦を引き始める。


「……殺――」


 ――待て!


 ハッ!? 私は頭の中に響いたシオン様の声で、我に返る。


 ――相手を殺さずに無力化しろ! これはお前たちに課せられた試練だ! ――力を示せ!


 啓示は下された……!


「ノワール! ルージュ! ブルー! クレハ! 聞いたか!」

「「おうよ!」」

「聞いたっす!」

「ハッ!」


 振り返ると、配下たちは武器を手に取り獰猛な笑みを浮かべる。


「――我らの力を示すぞ!」


 私は配下と共に、下等なる生物達に力を示すのであった。



 ◆



(シオン視点)


「シオンさん。皆さんの様子はどんな感じですかぁ?」


 カノンが俺の肩に腰掛け、スマートフォンの画面を覗き込む。


「タカハルとサラはいい感じだな」

「おぉ! 流石は元魔王コンビ!」

「クロエとレイラはアレだな……忠実だが、人間の機微を理解していないな……」

「まぁ、それは仕方ないですよねぇ……」


 クロエの様子を確認すると共に、ザッピングの要領でレイラの様子も確認していたが……状況は似たり寄ったりであった。


「私も行った方が良かったか……?」


 俺とカノンの会話を聞いて、リナが心配そうに尋ねてくる。


「うーん……そうだな。リナであれば人間の機微は理解出来るだろう。但し……」

「但し……?」

「状況に応じて適切な対応は取れるのか?」


 適切な対応――つまり、人類を殺せるのか。


「……」

「今回の《統治》は容易な状況だった。しかし、いずれリナの力が必要になる状況は来るだろう。その時までに――覚悟を決めておけ」

「……わかった」


 リナは俯きながら小さな声で答えるのであった。



 ◆



 《統治》を開始してから2時間30分後。


 《統治》の有効範囲内に存在する全ての赤色のドット(敵対勢力)は黄色のドット(服従)へと変化。各方面に派遣した眷属たちは人類の心変わりを防止するために、服従した人類たちを近くで監視している。


 今回の《統治》は言わば――チュートリアル的な《統治》だ。


 《統治》の有効範囲内にいる人類の数は配下の数よりも少なく、レベルの高い人類も存在しなかった。


 過疎地で初の《統治》を経験出来たのは幸いだったな。


 次回への改善点は山ほど見つかった。


 例えば、今回は2時間弱で《統治》出来る条件を満たすことが出来たが……人類の数が多かったら? 多くの場所に点在していたら? ……条件は満たせなかっただろう。


 《統治》する地域に応じては、事前の準備が必要となるだろう。《統治》を開始すると、そこから問答無用に180分のカウントダウンが始まる。ならば、《統治》を開始する前に《統治》の有効範囲内にいる人類を追い出しておけば、《統治》の条件は容易に達成出来るだろう。


 しかし、そうなると人類を配下に組み込めない? ならば、それの解決策は――人類を一カ所に追い詰めればいいのか? 或いは撤退出来ないように事前に囲んでから《統治》を開始すればいいのか?


 頭の中で今後の《統治》に関してのやり方を次々と思い浮かべる。


 人類が赤色のドットから黄色のドットへ変化した一番多いタイミングは――配下と邂逅した瞬間だった。


 それはなぜか……? タカハルのように名の知れた魔王と邂逅したから? ノワールやレッドのように強面の鬼と邂逅したから? ――答えは、否だ。


 味方の数以上の魔物と邂逅したからだろう。


 そうなると、今後はより多くの配下を支配領域の外に出す必要性が生じる。仮に百人の人類が敵対していても、千体の配下で包囲すれば……心は折れるだろう。


 配下を支配領域の外に出すために必要なことは――眷属を増やすことだ。


 眷属は1日に2人までしか増やせない。眷属が1人増えれば、外に連れ出せる配下が10体増える。しかし、毎日2人の眷属を増やすと、それだけでCPは枯渇してしまう。ならば、1日1人の眷属を増やす……と言うのが現実的だろう。10日で外に連れ出せる配下が100体増加し、100日で外に連れ出せる配下が1000体増加か……。眷属が成長すればLPも上がるから……それ以上の配下を外へ連れ出せるだろうが、先は長い。


 アキラに鍛冶をさせて装備を充実させたいし、防衛を指揮しているヤタロウへの報酬(乱数創造)もある。


 結局、どれだけ支配領域を拡大させても……CPで悩むのかよ……。


 この先の展望を思考し、頭を悩ませていると……


 ――!?


 目の前の黒い渦が光り輝き、光の収束と共に黒い渦は消滅。黒い渦が存在した空間には、白銀に輝く球体――【真核】が出現した。


『統治を完了しました』


 スマートフォンの画面には、シンプルな文章が表示されたのであった。

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