統治②


 《擬似的平和》終了と同時に、俺はヤタロウ、イザヨイ、サブロウを除く全ての眷属。そして三百を超える配下と共に支配領域の外へと出た。


 《統治》のやり方は本能で理解している。


 【ロウ】――人類の支配する土地で、《統治》すると念じるだけである。


「これより《統治》を始める! 各自、不測の事態に備えよ!」


 ――《統治》!


 俺は目を瞑り、地面に右手を翳して念じる。


 ………………。


 変化は何も生じない。


 感覚的にやり方は合っているはずだが……? 俺はスマートフォンの画面を確認する。


『Error。《統治》の有効範囲と支配領域が相互干渉しています』


 Error? 相互干渉?


 《統治》の有効範囲は周囲3000m。3000m離れればいいのか?


「北へと移動する」


 俺は配下を引き連れ、大名行列のように移動するのであった。



 ◆



 俺はスマートフォンに入っていた健康アプリにて、移動距離を測定。


 支配領域から60分ほど歩いた先にあるあぜ道で進行を止める。


「これより《統治》を始める! 各自、不測の事態に備えよ!」


 ――《統治》!


 俺は目を瞑り、地面に右手を翳して念じる。


 ――!?


 地面が揺れ動き、翳した右手の先には周囲の空間を呑み込むような直径30cmほどの黒い渦が発生する。


 翳した右手を外したら《統治》が失敗すると、本能で理解する。


 俺は自由に動かせる左手でスマートフォンを取り出し、画面を操作する。


『《統治》を開始しました』


『有効範囲内にいる敵対勢力に《統治》を宣言しました』


『180分以内に有効範囲内にいる全ての敵対勢力を排除して下さい』


『Alert。有効範囲内に敵対勢力の存在を確認しました。直ちに排除して下さい』


『有効範囲内の地図を表示しますか? 【YES】 【NO】』


 立て続けにスマートフォンの画面に流れるメッセージ。


 俺は【YES】をタップする。


 なるほどね……。


 俺はスマートフォンに表示された地図を見て、《統治》の仕組みを理解した。


 地図……と言っても、地名も道路も表記されていない半径5000mの円形の地域に幾つものドット(・)が表示された簡易的な地図。ご丁寧に有効範囲である3000mのラインも表記されている。


 ドットは全部で3種類あり、青いドットと赤いドットと白いドット。


 一番多いドットは地図の中央に集結している青いドット――俺と配下。


 次に多いドットは赤いドット――恐らく、【ロウ】の人類。


 3つしか見当たらない白いドットは――恐らく、【ニュートラル】の人類。


 過疎地とは言え、【ニュートラル】は3人か……。少ないな。赤いドットの数は、ぱっと見100前後だ。


 さてと、状況は理解出来た。


 次に考えるのは――取るべき行動だ。


 1.赤いドット――人類へと攻撃を仕掛ける。奇襲と言いたいが、人類には俺が《統治》したことを宣言されている。メリットは力を示した上で勧告を迫れる。デメリットは、虐殺した後に勧告しても人類は受け容れるのかが問題となる。


 2.【拡声器】を使用して勧告を告げる。メリットとしては、人類の配下が労せず入手出来る。上手くいけば、元魔王の連中が切望している調理が得意な人類もいるかも知れない。デメリットは、人類に猶予を与えてしまう。



 人類を配下にするなら、悪感情を起こさせないために事前に勧告のほうがいいのか?


 俺は2つの考えが導き出す未来をシミュレートし、【拡声器】を取り出した。


「あーあー。テステス……。聞こえているよな? っと、俺の名はシオン。金沢市とかほく市、後は河北郡とか羽咋市を支配した魔王だ」


 【拡声器】を使用して、勧告を開始する。


 相手の反応が一切ないのに、一方的に話すのは中々難しいな……。


「今よりこの地を俺の支配領域とする。この地と言うのは、この声が届いている全ての地域だ。俺の支配下に降る意思があるのならば、その想いを意識しろ。逆らうのであれば、俺の配下――魔物が力ずくで対応する。猶予は10分だ。熟考してくれ」


 俺は一方的に勧告の言葉を告げる。


「言い忘れていたが、俺の配下になったら最低限の衣食住は保障しよう。勿論、無駄飯を食らうような人類は放逐するがな」


 最後に、俺の配下になったときのメリットも伝えた。


 《統治》をすると決めたときに、俺は人類の処遇について悩んだ。


 《統治》をすると、俺に屈した人類が配下になる。これは、大きなメリットのようにも感じるが、そもそも人類は配下として必要なのか? と言うそもそも論に至った。


 俺(魔王)と人類――言い換えれば【カオス】と【ロウ】の関係は、敵対関係だ。互いに領土を奪い合い、殺し合う関係性だ。人類のメリットは? と聞かれれば、答えを絞り出して――経験値の糧。よしんば、配下にしても創造した配下と違い忠実ではなく、元魔王の配下と違い能力も優れていない。


 貴重なCPを全消費して、面倒な眷属化の手順を踏まえてまで人類は配下に欲しくない。というのは本音だ。


 しかし、CPの消費がなかったら……? 人間関係や自由意志とも言える感情は厄介だが、創造した配下よりも柔軟性があるのも確かだ。聞けば、実験で眷属化して今では土いじりに夢中な人類が作る作物は、俺が錬成した食物よりも旨いらしい。また、カノンの元で情報収集をさせると、創造した配下では収集出来ない情報を集めてくる。


 今や俺の支配領域は540k㎡以上。国と言うには、心許ない領土だが……将来的には小さな国家程度の規模には拡大するだろう。そうなった時に、俺の支配する領土に生存するのは俺が創造した配下だけでいいのか? ……正確には、創造した配下だけで領土は成り立つのか? 強大な敵と相対した時に防衛出来るのか? といった不安も生じる。


 ならば、今から少しずつ国の形を創っていこう。


 利己的で、どうしようもない愚者が現れたら……処分すればいい。短絡的で、恐怖支配と言われるかもしれないが、俺は魔王だ。


 俺は魔王として、この地――石川県を発端に国を創ろうと決意し始めるのであった。



 ◆



 10分後。


 スマートフォンに表示された地図を確認。


 ほぉ……。


 一部の赤いドットが有効範囲の外を目指して移動を始め、一部の赤いドットが黄色いドットへと変化した。


 黄色いドットは降参した証なのか?


 有効範囲内に残っている赤いドットの数は……78。多くは北東に集中している。


「タカハル、サラ。配下を100体引き連れて北東を目指せ」

「あいよ」

「り」


 俺は北東の地を指差し、タカハルとサラに指示を出す。


「クロエ。部隊と50体の配下を引き連れて、西を目指せ」

「ハッ!」


 俺は西に点在する赤いドットの方角を指差し、クロエに指示を出す。


「レイラ。部隊と50体の配下を引き連れて、東を目指せ」

「ハッ!」


 俺は東に点在する赤いドットの方角を指差し、レイラに指示を出す。今回は対人戦なので、リナは俺の側で留守番となる。


「降伏の意を示したら、俺に連絡しろ」


 連絡を受けて、赤色が黄色に変わっていたら助けよう。


「それでは、これより《統治》作戦を開始せよ!」


 俺の指示を受け、配下たちは各地へ侵略を始めたのであった。

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