問題児集団③
俺は闇に紛れ、部屋の端からゴーレムを通り過ぎ、弓を構えたドワーフの集団に迫る。
――《カースヘイトレッド》を使用せよ!
俺の命令に応えたリビングメイルの集団が一斉に盾を打ち鳴らすと、敵の
――《一閃突き》!
弓を構えたドワーフを背後から素早い刺突で貫く。
「――!? #%$!?」
ゲイボルクに貫かれたドワーフは驚愕の表情を浮かべながら、俺へと振り返り……聞き取れない言葉を口に出す。
ん? 背後から奇襲なのに一撃じゃ無理なのか……。後衛なのにタフだな。
俺は怨嗟の視線を送る瀕死のドワーフの顔面の前に、手の平を広げる。
――《ダークランス》!
至近距離から発生した闇の槍が目の前のドワーフの顔面を撃ち抜く。顔面を撃ち抜かれたドワーフは糸が切れた人形のようにその場に倒れる。
すぐ近くで仲間が倒されたと言うのに、ドワーフたちは俺を一瞥もせず……一心不乱にリビングメイルへと矢を放つ。俺はその隙に弓矢を構えたドワーフを1体ずつ葬り去るのであった。
「シャッ! これで終いか?」
程なくすると、最後の1体となったゴーレムが土塊となり朽ち果て、タカハルはそのままドワーフの集団相手に大立ち回りを始める。俺が弓矢を装備したドワーフを殲滅する頃には、サブロウとカインもタカハルと共に前線に立ち、敵の数を着実に減らしてゆく。
2時間もすれば……周囲に立っているのは俺の配下たちと1体のドワーフ――ザイン=アキラのみであった。
失った戦力はリビングメイル4体か……。まぁ、そういう扱いをしたからな。
完封とまではいかなかったが、完勝と言っても差し支えがない結果だろう。
「一応聞くが、俺の配下になる気はあるか?」
「ハッ! 戯れ言をっ!」
あからさまに自分よりも実力が上の集団に囲まれても、折れないか。配下の忠誠心は偉大だな。
「ならば死ね」
俺はザイン=アキラに死刑宣告をする。
「シオン様!」
槍を構えて、配下と共にザイン=アキラに迫ろうとすると、俺の名を呼ぶ声が割って入る。
「何だ?」
俺は不満を露わに、声を発した主――サブロウへと視線を送る。
「出来れば……此奴の相手は我が輩に!」
「1対1で勝負したいと?」
「畏れながら……」
サラにいい格好でも見せたいのか? とも思ったが、サブロウの目は真剣で……いつもの病気(中二)も鳴りを潜めている。他の配下に目を向けると、タカハルは腕を組んで俺の指示を待っており、サラは毛先を指先でクルクルと回して遊んでおり、他の配下は真剣な表情で俺の指示を待っている。
経験値は俺も欲しいが……サブロウの真剣な目が気になる。
「わかった。好きにしろ」
「ありがたき幸せ!」
俺は槍を収めてサブロウの意見を受け入れると、他の配下も武器を下ろして行く末を見守る。
「ザインと言ったか……待たせたな。我が名はサブロウ=シオン! いざ尋常に勝負也!」
お? いつになく真剣だな。ってか、偽名で通せよ。元魔王ってバレるじゃねーか。ってか、今の流れで魔王が俺ってバレたじゃねーか……。
サブロウの真剣さと雰囲気に流されてしまったが、冷静に考えたら今の流れは最悪の一言だ。これで、1対1を挑んだ理由がしょうも無かったら……どういう罰を与えればいいのだろうか?
雰囲気に流された自分の行動に苛立ちながら、サブロウとザインの戦いを見守る。
大盾と大斧を構えるザインに対し、機動力で勝るサブロウは遠距離から魔法攻撃を仕掛ける。ザインは大盾を構えながらジリジリとサブロウに近寄るが、サブロウは縦横無尽に動きまくり、ザインの接近を許さない。
頑丈な盾だな……。ユニークアイテムじゃないよな? 噂のドワーフ製の盾か? 倒したらアイアンの土産にするかな。
すっかり観戦モードになった俺は、ザインの装備の耐久性の高さに感心しながら戦いの行方を見守る。
チクチクと魔法で攻撃をするサブロウ。強固な装備と肉体で耐えるザイン。
このままいけば、サブロウが勝利する可能性のほうが高いが……時間は相当掛かりそうだ。
――サブロウ。確認だが、1対1にこだわりはあるのか?
俺はサブロウに念話を飛ばす。
「フッ! 我が輩はシオン様の配下ですぞ!」
サブロウは俺の念話の問い掛けに、自信に満ち溢れた口調で答える。
「どういう意味だよ」
俺はサブロウの答えに苦笑しながら、魔力を込める。
――《ファイヤーブラスト》!
サラから吸収した能力――《ファイヤーブラスト》をザインの足下に放つ。
「――!? な、き、汚い――」
――《ファイヤーバレット》!
尚も戯れ言をほざくザインの顔面に炎の弾丸を見舞う。
「誰が1対1と言った? ってか、最初に大人数で囲んでいたのはお前たちだろ?」
「き、貴様ぁぁああ――」
俺へと怒りを露わにしたザインに対し、刹那の瞬間に詰め寄ったサブロウが刺突剣を首筋に見舞う。
サブロウは答えた――俺の配下と。つまりは、勝てば官軍だ。
「あん? 俺も攻撃に参加したほうがいいか?」
「トドメはサブロウにくれてやれ」
「あいよ」
観戦に暇を持て余していたのは俺だけではなかったようだ。タカハルは獰猛な笑みを浮かべると、地を蹴りザインとの距離を詰めると豪快な回し蹴りを見舞う。
「ん」
ザインがタカハルの蹴りの衝撃を抑えきれずに揺らいでいる隙に、いつの間にか背後から忍び寄ったカエデが首筋に短剣を突き立てる。苦悶の表情を浮かべるザインの盾をタカハルが蹴り上げ、露わとなった胴体にサラが圧縮した風――《ハイプレッシャー》を押し当てる。
盾を失い、地に倒れたザインを覆うようにサブロウが刺突剣を構える。
「貴様の敗因は何かわかるか? ……それは、我が輩たちの絆を侮ったことだ」
サブロウが謎の決め台詞と共に、倒れたザインの首筋に刺突剣を押し込んだ。
「き、ず、な……? トドメは《ハイプレッシャー》からのサブロウの攻撃か。良かったなサラ、お前とサブロウの絆が勝因らしいぞ?」
「は? あーしじゃないし! マジ卍!」
俺は意地の悪い笑みを浮かべると、サラが激昂する。
残念ながら、サブロウの語る絆は幻想のようだ。
「っと、冗談はこの位にして……サブロウ」
俺はザインにトドメを刺した後に、歓喜の表情を浮かべているサブロウの名を呼ぶ。
「それで……ザインを倒したかった理由は何だ?」
「ハッ! 恐れながら、我が輩――サブロウ=シオンはシオン様に朗報がございます」
「何だ?」
「レベルが……レベルが……50を超えましたぁぁああああああ!」
サブロウは本当に嬉しそうに叫び声をあげる。
「と言うことは……つまり?」
「我が輩も進化が出来ますぞぉぉおお!」
サブロウが鼻水と涎を垂らしながら大喜びする。
「あん? 俺よりもレベルが上なのかよ」
「マジありえんてぃ」
元魔王の連中は配下になると、レベルの概念が人類と同一になる。魔王時代のレベルとステータスは据え置きとなり、成長速度は人類並に早くなる。しかし、変な制限があるらしく魔王時代のレベル×5まではBPが増加することはなく、レベルだけが上がる仕組みだ。
つまり、信じられないが……タカハルはこれだけの強さを誇っているのに現在のレベルは24だ。リナの半分以下のレベルとなる。
レベルとステータスが据え置きなので、初期ステータスに勝る魔王は人類よりもアドバンテージが大きいと思われるが……魔王を辞めた時点で錬成と創造を失うので、そこに振ったBPは無駄となる。タカハルのように肉体に極振りした魔王以外は、弱体化するケースもあるようだ。
サブロウはカノンの次に配下になった元魔王だが……いつの間に、そこまでの経験値を稼いだのだろうか? 思い起こせば……アホな事を言う度に、最前線に転移させていたな……。ヤタロウも積極的にサブロウを前線に投入していた。
元魔王は、レベルは低いがステータスが高い。そうなると、地力で敵を殲滅出来るので大量の経験値を得られる。それによりレベルアップも早くなる。知識特化のカノンは例外だが。
俺は妙な納得感に包まれる。
「それで進化先はどうするんだ?」
俺は喜ぶサブロウに質問を投げかけるのであった。
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