進化(サブロウ)


「えっ? 我が輩が決めてもいいのですか?」


 俺の言葉にサブロウは驚きの声をあげる。


「そうだな……。やっぱり保留にするか」


 サブロウの進化先について思考を張り巡らせ、保留を告げる。


「えっ?」

「サブロウは防衛要員だ。ヤタロウと相談する」


 ヤタロウと相談した結果、サブロウが防衛に必要と言われれば『ナイトメア・ヴァンパイア』が望ましい。不要ならば侵略部隊に組み込むので『デイライト・ヴァンパイア』が望ましい。今回のように時々借りるのであれば『ヴァンパイア・ロード』でもいいし、魔力特化の『ヴァンパイア・エルダー』や単純上位種の『ヴァンパイア・ノーブル』の存在も気になる。


「とりあえず、ヤタロウと合流するか」


 俺は侵略を共にした配下と共にヤタロウが待つ居住区へと転移するのであった。



 ◆



 ヤタロウのいる居住区に転移すると、サブロウ以外の配下は自分の住居へと帰宅する。


「お! おかえりですじゃ。何かご用かのぉ?」


 ヤタロウの住居に出向くとヤタロウは好々爺の笑みを浮かべて現れる。


「サブロウのレベルが50に成長した」

「ほぉ。それはめでたいのぉ」

「率直に聞くが、サブロウは防衛に必要な人材か?」

「本人を目の前に、それを聞くかのぉ」


 ヤタロウはサブロウに視線を投げかけ、笑みを浮かべる。


「言いづらいなら、サブロウに席を外させるが?」

「――な!? その時点で我が輩は精神的な苦痛を……」

「ふぉっふぉっふぉ。構わんよ。率直に言えば――必要じゃな」


 ヤタロウは笑い声をあげると、その後真剣な口調で答える。


「となると、サブロウの進化先は――」

「待つのじゃ。儂に意見を聞いてくれたのは有り難かったが、サブロウ――1ついいかのぉ?」

「何ですかな?」

「サブロウは今回初めて侵略に参加した。どうじゃった? サブロウは防衛と侵略、どっちが自分に向いていると思ったのじゃ?」

「むむ? 難しいですなぁ……」


 ヤタロウに質問を振られたサブロウは苦悶の表情を浮かべる。


「ふぉっふぉっふぉ。サブロウ、儂はちとシオンと茶でも飲みながら世間話をしたい。少し席を外して貰ってもいいかのぉ?」

「わかりました」


 サブロウは不満そうな表情を残しながらもヤタロウの言葉に従い、立ち去る。


「さて、シオンや。儂がなぜサブロウを防衛として必要としているかわかるか?」

「単純に強さか?」


 俺はヤタロウの質問に答える。サブロウは性格と性癖はともかく、戦力としてみれば一級品だ。


「ふぉっふぉ。確かにサブロウは強い。恐らく防衛メンバーの中ではイザヨイの次に強いじゃろ。しかし、儂が必要としておる理由は別じゃ」

「――?」


 俺はヤタロウに言葉に首を傾げる。


「儂にとってのサブロウという存在は、シオンで言うカノンじゃな」

「は? ますます意味不明だが?」

「ふぉっふぉ。確かに見た目も愛くるしいカノンと、サブロウを同一視するのは……カノンに失礼かもしれんのぉ」


 ヤタロウは楽しそうに笑い声をあげる。


「強さだけならイザヨイで事足りる。他にもシオンから借り受けている配下は与えられているアイテムの性能の相まって侵略してくる人類や魔物からすれば、十分な戦力じゃ。サラ嬢のようなイレギュラー存在が侵略してきたら、シオンに報告すれば問題ないしのぉ」

「わかりやすく説明してくれ」


 遠回りに説明をするヤタロウに俺は端的な説明を求める。


「サブロウは儂と同じ元魔王――言い換えれば元人間じゃ。イザヨイは強い、借り受けている配下も強い――しかし、創造された儂らとは異なる生命体じゃ」


 俺はヤタロウの言わんとすることを理解した。


「つまりは、話し相手としてサブロウが欲しいと?」

「身も蓋もなく言えば、そうなるのぉ」


 俺の導き出した答えにヤタロウは笑みを浮かべながら頷く。


「サブロウでいいのか……?」

「ふぉっふぉ。シオンはサブロウをどう捉えておる?」

「末期の中二病患者にして、特殊性癖の持ち主」

「ふぉっふぉ。フォローしてやりたいが……否定をする言葉が思い浮かばないのぉ。それもサブロウの一面じゃが……別の一面もあるのじゃ」

「別の一面?」

「そう、人間くさい一面じゃ。今回、サブロウは侵略で張り切っておらなんだか?」

 ヤタロウの言葉を受けてサブロウの侵略時の様子を思い出そうとするが、サラとの漫才のような言い争いをしている場面しか思い出せない。


「最後の魔物は倒したいと懇願してきたな」

「サブロウはな……サラ嬢とタカハルがシオンの配下になってから焦っておったのじゃよ。恐らくじゃが……イザヨイが創造された時から焦っていたのかもしれんのぉ」

「焦っていた?」

「うむ……サラ嬢とタカハルは元々がレベル10以上――進化した魔王じゃった。イザヨイは言うならばサブロウの上位互換とも言える。サブロウはそんな同僚と自分を比べて焦っておったのじゃ」

「ふむ」


 俺はヤタロウの言葉に頷く。


「実に人間臭いと思わんか?」

「まぁ、そうだな」

「儂はそんな人間臭いサブロウが必要なんじゃ。シオン、主もそうじゃないのか?」

「――?」


 ヤタロウの問い掛けに俺は首を傾げる。


「シオンも何かとあればカノンに話しかけるじゃろ?」

「それは、カノンの知識がBだから……」

「ふぉっふぉっふぉ。少し調べればわかることでもカノンに聞いてないか?」

「調べるのが面倒だからな」

「他にも自分の考えを伝えて、自分が正しいか確認していないか?」

「……」

「つまり、そういうことじゃ」


 何となく言い負かされたようで腹立たしいが、反論の言葉が見つからない。


「それにな、サブロウはアレでイザヨイとは仲が良いし、他の配下との関係も良好じゃ」

「そうなのか?」

「うむ。エルフからは毛嫌いされておるがのぉ」


 ヤタロウは話にオチを付けたように盛大に笑い声をあげる。


「で、結局サブロウは防衛に必要ってことだな?」

「そうなるのぉ」


 長々と話したが、サブロウは防衛に必要らしい。同時に、あまり気にしていなかった防衛メンバーの関係性も垣間見えたのであった。



 ◆



 席を外したサブロウを呼び戻し、進化先を話し合う。


「サブロウには今後も防衛を主体に、時々侵略を手伝って貰う予定とするが、進化先の希望はあるか?」


 ヤタロウからは俺に一任、もしくはサブロウの意向を汲んでくれと言われた。防衛が主体となるので、『デイライト・ヴァンパイア』以外であればサブロウの希望を聞く予定だ。


「我が輩は……『ヴァンパイア・ロード』か『ヴァンパイア・ノーブル』に進化しようかと」


 サブロウは自信なさげに2つの進化先の種族を答える。


「『ヴァンパイア・ロード』と『ヴァンパイア・ノーブル』か。理由は?」

「正直我が輩のイメージで言えば『ナイトメア・ヴァンパイア』ですが、残念ながら『ナイトメア・ヴァンパイア』はイザヨイに先を越されてしまった……。ならば、次に我が輩に似合う名称はロードかノーブルかと!」

「語感かよ……。ってか、ナイトメアをイザヨイに先を越されたのなら、ロードは俺の種族だぞ?」

「フッフッフ。シオン様と同じ種族を選ぶことにより、2人の絆は深まり……主従を超えた義兄弟へと――」

「『ヴァンパイア・ロード』禁止な」


 俺はサブロウの戯言を遮り、『ヴァンパイア・ロード』への進化を禁止とする。


「――な!? り、理由はそれだけではありませぬ! 防衛主体ならばデイライトの優位性は低く、我が輩は魔法よりも武器による攻撃を得意としております。ナイトメアが封じられた以上、そうなると選択肢はロードとノーブルになるのですぞ」


 サブロウは慌てて言い訳のように早口で理由を捲り立てる。


「最初からそっちの理由を言えよ……。まぁ、いいや。ならば、サブロウの進化先は『ヴァンパイア・ノーブル』で決定だな」

「わ、我が輩の行く末を左右する重要な選択を……そんなにもアッサリと!?」


 辟易しながら答える俺の言葉に、サブロウは狼狽を示す。


「悩んでいても答えは出ない。ならば、直感を信じろ」

「むむ……。シオン様がそういうのであれば……」


 こうしてサブロウは『ヴァンパイア・ノーブル』へと進化したのであった。

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