問題児集団②


 侵略から4日目。

 現在は九階層目に到達したので、休息を取っていた。


 三階層目から罠の数が増え、初侵略となるタカハルが何度も引っかかったが、ピンチと言うほどの危機的状況には陥らなかった。四階層からは支配領域の調査に慣れているカエデが罠を事前に見抜き、罠に悩まされることはなくなった。


 カエデに罠を見破るコツを聞いたが、答えは……


「ん。違和感」


 と、全く参考にならない答えが返ってきた。


 意外だったのは、カエデの次に罠に敏感だったのはサラであった。サラも事前に罠の存在に気付き、全てを回避して行動していた。時々、致死性の低い罠をわざと発動させサブロウを陥れていたが、時間の浪費に繋がるので、命令により止めさせた。


 スマートフォンで確認する限り、クロエの部隊は七階層を侵略中。リナの部隊は八階層を侵略中であった。


 隣で飯を食っている配下たち――共に支配領域を侵略している俺の部隊は初めて組んだ配下で構成されている。当然、連携はまだまだ改善の余地があるメンバーであったが、個々の実力により連携、侵略回数の経験値が上回るリナとクロエの部隊よりも侵略速度は早かったのだ。


「魔王を辞めて一番厄介なのは飯と睡眠だな」


 保存性の高い干し肉を喰らいながら、タカハルが愚痴を溢す。


「あーしはご飯のある今の生活も嫌いじゃないかも? ただ、もう少し美味しいのを希望みたいな?」

「シオン様が錬成される食べ物に不満がある訳ではありませんが……手料理を食べたくはなる。――ハッ!? カノンたんに手作り弁当を――」

「ありえんてぃ」

「――! なるほど、理解した。サラが我が輩のために作ると? 我が輩の好物は――」

「マジ卍!!」


 戯れ言を言うサブロウに、サラは怒声をあげる。


「ってか、シオン。人類も配下に出来るんだよな?」

「面倒だけど、可能だな」


 俺は、突然話を振ってきたタカハルの言葉に答える。


「んじゃ、今度料理が上手そうな奴を配下にしようぜ」

「は?」

「だから、飯を作るのが上手い奴を配下にしようぜ」

「賛成! あーしもタカハルっちの意見に賛成!」

「フッ……。我が輩もその意見、嫌いじゃないな」


 サラとサブロウもタカハルの意見に同調する。


「面倒と言ったのが聞こえなかったのか? 人類を配下にするには膨大なCPと労力が必要なんだぞ?」

「労力って……眷属にする手間だよな? 手伝ってやるよ」


 俺の言葉にタカハルが軽口で答える。手伝ってやるも何も、お前たちは俺の命令に絶対なんだが?


 元魔王の配下は本当に面倒だ……。実力はあるが、創造した配下と違い自由意志がある。命令で縛り続けることも出来るが……それでは最大限に能力は発揮出来ない。面倒ではあるが――実力がある。


 衣食住……人間が生活していく上で不可欠なモノ。


 面倒だからと創造した配下だけでは、いつか強敵に呑み込まれる。元魔王と言う存在は勢力の拡大には欠かせない存在だ。実際に共に戦っていてわかるが、元魔王は強い。サブロウでさえ、同じ強さの配下を育てるとなると、膨大な時間と労力が必要になるだろう。


 ったく、面倒だな……。


「わかった。今回のドワーフ種の魔王を配下にしたら考えておく」


 俺は取りあえずの形で返事をするのであった。



 ◆



 侵略から5日目。


 現在は十階層の最奥近くまで進んでいた。目の前には真核が設置された小部屋があり、その手前には50体を超えるゴーレムとドワーフが防衛ラインを敷いていた。


 と言うことは、ここの魔王のレベルは10か。


 俺の体感的な感覚だが、魔王はレベルが10を超えると……それ以降、レベルアップに必要となる経験値が膨大に膨れ上がる。レベルを11以上にあげるには、俺のように50を超える支配領域を支配するか、サラのように侵略を繰り返す、タカハルのように侵略者を魔王自ら全員倒す……などの行為をする必要があった。


「儂の名はザイン=アキラ! 不埒なる者どもよ! 即刻、親方様の領土から立ち去れぃ!」


 フルプレートを装備し、自身の身長よりも大きな盾を構えた筋肉隆々の小柄なドワーフが、空気が震えるほどの大声を上げる。


 この支配領域を支配する魔王の名前は『アキラ』と言うのか。


 名乗り返す必要は別にないが……。


 ――サラ、名乗りを上げよ!


「え? あーしが――」


 ――黙れ!


 サラに名乗らせて、攻めて来た勢力がエルフ種と惑わせればラッキー程度に考えてはいたが……挙動不審に振り返ったサラの姿は、目の前の眷属の目を通して魔王アキラも見ていた可能性が高い。


 俺が名乗るのは……魔王が自ら侵略してきたと告げるに等しい行為だ。


 となると……サラが振り向いた先にいたのは、俺と……サブロウか。


 サブロウなのか……。


 ――サブロウ! 名乗れ! リーダーを装え!


「フッ! 我が輩の名前はダーク・ドラクル三世! 親愛なるシオン様の一番の配下にして、全ての闇を司る存在也! 立ち去れ? フッフッフ……残念ながら汝らは我らが王の目に留まった。己が運命を呪い――我が深淵の深さに絶望するがよい!」


 サブロウが意味不明な名乗りをあげた。敵はサブロウを創造した配下の眷属と認識しただろうか? まさか、ダーク・ドラクル三世なる珍妙な人物が元魔王とは思うまい。攪乱はある意味成功なのだろうか……?


 手を広げ、ドヤ顔を決めるサブロウに冷たい視線を送るサラとタカハル。


 敵はサブロウをリーダーと誤認してくれただろうか? 一抹の不安を抱えながら、侵略の最後を飾る戦いの火蓋が切って落とされたのであった。


「意味不明な眷属を送り込みおって……。お前たちここを死守するぞ!」


 魔王アキラの眷属――ザインの号令と共にゴーレムたちが壁となり、その後方から無数の矢が降り注いでくる。


「あーしを舐めるなし! ――《ウィンドウストーム》!」


 サラの放った暴風が飛来する矢を押し返し、数本の暴風を逃れた弓矢も盾を構えたリビングメイルが全て受け止める。


 ――サラ、ゴーレムのコアを破壊出来るか?


「あのゴーレムは無理っしょ! タカハルっちが叩くのが常識みたいな?」


 意外に博識なサラが、立ち並ぶゴーレムの弱点を告げる。道中に出くわしたゴーレムは全てサラが魔法で駆逐した。流石に、敵も最後の防衛ラインは対策を取ったようだ。


 ――と言う訳だ、いけるな?


「ハッ! やっと、あのデカブツを壊せるのか! ――ウォォォォオオオ!」


 タカハルは獰猛な笑みを浮かべると、半獣と化して立ち並ぶゴーレムへと駆ける。


 ――カエデもタカハルと共にゴーレムのコアを叩け!


「ん。」


 カエデは小さく頷くと、その姿を消し去る。


 ――サラとカインは魔法でタカハルを援護せよ!


「り! あーしに任せるし」

「畏まりました!」


 サラは降り注ぐ矢を風で吹き飛ばし、カインは魔法の障壁をタカハルへと付与する。


 ――サブロウは俺と共にタカハルとカエデに近付く敵を撃ち抜くぞ!


「承知! 我が闇、全てを貫かん! ――《ダークランス》!」


 サブロウはゴーレムの横から飛び出してきたドワーフに闇の槍を放ち、


 ――《ダークランス》!


 俺も同様に飛び出してきたドワーフに闇の槍を見舞う。


「シャッ! 砕けろやぁぁああ!」


 タカハルは地を蹴り、大きく跳躍。ゴーレムの胸に埋まっているコアを鋭い爪で切り裂く。コアを切り裂かれたゴーレムは身体を大きく揺らす。


「あん? 一撃じゃ壊れねーのかよ!」


 タカハルは一撃で朽ち果てなかったゴーレムに怒りを覚え、再度跳躍。交差させてコアを守ろうとしたゴーレムの両腕を蹴り上げ、露わになったコアに踵を叩き込む。宝石にも似たコアは粉々に砕け散り、ゴーレムは土塊へと朽ち果てる。


 地面に着地したタカハルをドワーフの集団が四方から囲む。俺とサブロウはタカハルを巻き込まないように、ドワーフへと《ダークランス》を放つが……処理が追い付かない。


 リビングメイルを投入するか……。


 ――タカハルを守れ!


 盾を構えて、待機していたリビングメイルに命令を下す。


 俺は……後ろのうざったいドワーフを倒すか。


 ――《闇の帳》!


 俺は自身の存在を闇に紛らせ、矢を放つドワーフへと攻撃を仕掛けるのであった。

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