部隊編成②


「シオン……1ついいかのぉ?」

「何だ?」

「エルフの嬢ちゃんと剣士は儂に一旦預けてみんか?」


 俺はヤタロウの提案を聞いて、眉をしかめる。


「防衛に欲しいのか?」

「いや、今回みたいに強大な敵が侵略してきたら報告するので、不要じゃ。イザヨイもサブロウも戦力としては十二分に役立っておる」

「ならば、何故サラたちを欲する?」

「欲した訳ではない。一旦預かるだけじゃ。エルフの嬢ちゃんと剣士には優先して経験値を稼がせる。見たところシオンはメンバー構成をするにあたって役割を重要視しておる」

「そうだな」

「儂もシオンの気持ち……デッキを組む重要性は十分に理解しておる」

「つまり?」

「エルフの嬢ちゃんはシオンで言う【アタッカー(魔法)】。エルフの剣士は【アタッカー(近接)】じゃな。他にも【ヒーラー】もエルフで賄えばいいじゃろう。そうなると、不足しているのは【アタッカー(近接)】が2名。【タンク】が1名。【アタッカー(魔法)】もしくは【アタッカー(遠距離)】が一名かのぉ?」

「そうなるな」

「なら、その面子をこの先の支配領域から厳選したらどうじゃ?」


 ヤタロウから投げかけられた提案を頭の中で整理する。保有する戦力から編成するのではなく、理想の編成を考案してから戦力を確保するか……。


「悪くない案だな」

「シオンはいずれ石川県を……北陸を……日本を――――そして、世界を統一するのじゃろ?」

「世界か……。どうだろうな」

「ふぉっふぉっふぉ。シオンは若い。夢は大きく持つべきじゃ。いずれ世界を統一する器なら、元魔王から選抜した侵略部隊を編成するのも自然な流れじゃ」

「あまり担ぐなよ」

「ふぉっふぉっふぉ。シオンは儂の主。儂の未来はシオンと一蓮托生じゃ。期待しておるぞ」


 好好爺の笑みを浮かべるヤタロウから視線を外し、俺は照れ隠しするのであった。



 ◆



「カノン。魔王の種族と特性を教えてくれ」

「はぁい」


 『ラプラス』を閲覧すればわかる情報だが、カノンに聞く方が手っ取り早い。何より、この一連の流れが魔王になってから習慣化されている。カノンは嬉しそうに、魔王の種族と特性を語り始める。


「魔王の種族は、初期種族の【人種】、肉体特化の【鬼種】、魔力特化の【魔族種】、知識特化の【エルフ種】、錬成特化の【ドワーフ種】。後は、肉体が秀でている【獣種】、バランス型の【妖精種】と【スライム種】。闇属性に優れた【吸血種】。未知の【堕天種】と【龍種】の11種類ですね」


「タンクに向いている種族は?」

「タンク役になると……【ドワーフ種】か【鬼種】でしょうかぁ? 変わり種なので、捕獲するのは大変だとは思いますが【妖精種】のデュラハンなども耐久性は高いみたいですぅ。後は、魔王に拘らなければジェネラルやロードの名前を有する魔物は耐久性が高い傾向にありますねぇ」


 部隊を組むときに必要不可欠な役割は――タンクだ。


 俺自身、クロエとリナの侵略部隊に参加して、タンクの重要性は十分に理解している。


 未知なる領域に挑むときは、基本タンクを中心に陣を敷いて、慎重に行動する。また、敵に囲まれれば、タンクを中心に防衛の陣を敷く。


 だからこそ、俺は侵略メンバーの配下に使い捨てが出来るタンク――リビングメイルを多く配置している。しかし、使い捨てのリビングメイルのみでは強敵と渡り合うことが出来ない。リナの部隊で言うアイアンの様に、強敵と渡り合えるタンクの存在は不可欠だ。クロエの部隊のノワールも好戦的な性格で、一見アタッカーに見えるが、強敵と敵対するときは、率先して敵の攻撃を引き受けていた。


「理想としては、レベル10以上のドワーフの魔王を降伏させて、眷属にユニーク配下のドワーフがいて、いい感じに耐久特化と錬成特化がいれば……」

「その条件は、流石に都合が良すぎじゃ……」


 俺の言葉を聞いたカノンが苦笑を漏らす。


「だよな……。なら、ドワーフ種の魔王を2人降伏させるか」

「うーん……リナさんから聞いたのですが、アイアンさんの優れているところは、耐久性じゃなくて、精神力らしいですよぉ。勿論、耐久性も凄いと言ってましたぁ」

「精神力?」

「はい。何でも、人類と違って恐怖心を抱かない……率先して敵の的になる精神力が人類にはない強みだと言ってましたぁ」


 カノンの言っている敵の的とは――ゲーム用語に置き換えると『ヘイトコントロール』のことだろう。言われてみれば、俺も《威圧》と言う、敵の敵対心ヘイトを高める特殊能力を習得しているが、率先して使う気は全くない。


 普通の感性であれば、よほど信頼した仲間か、極度の英雄症候群に煩っているか、ドMでもない限り、敵の攻撃を好んでは受けない。


 その点、創造された配下(魔物)なら、そういう感情は生じない。


「ってことは、タンクは魔王じゃなくて……魔物から選抜した方がいいのか?」

「侵略してくる人類も重装備のタンクっぽい役割の人はたまにいますが、本当のピンチに陥ると逃げますからねぇ……」


 魔王は元人類だ。感性は魔物よりも人類に近い。


 俺がリーダーなら、サブロウ、カノン、ヤタロウを命令により強制的にタンクにすることは可能だが、それでは真のタンクとは言えない。そう考えると、魔王をタンクにするのは特殊性癖を持った変態魔王でも捕獲しない限り厳しいと言わざるを得ない。


 魔王など、配下に任せた参謀タイプか、自らが戦うアタッカータイプの二極だろう。


「そうなると、【鬼種】か【ドワーフ種】が支配している支配領域に侵略した時に、めぼしい魔物がいたら殺さずに配下にするのがベストか」

「そうなりますねぇ。アタッカーなら、腐るほど候補はいそうですけどね」

「腐るほど候補がいても、《降伏》させるのは骨が折れるけどな」

「そこは、シオンさんの活躍を信じていますよぉ」


 ヤタロウの唱えた全員が元魔王の侵略部隊と言う響きには惹かれたが、その夢はあっさりと挫折するのであった。

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