vs宇ノ気の魔王①
サラを配下に加えてから10日後。
調査に出掛けていたカエデが報告のため帰参してきた。
「ん。お館様が探していた魔王見つけた」
「どんな魔王だ?」
「獣種の暑苦しい魔王」
「そんな指定していたか?」
「暑苦しいけど、つおい」
「場所は?」
俺とカエデの間に展開された県内の地図の一カ所をカエデが指し示す。
宇ノ気町か……。クロエたちが侵略中の支配領域の近くだな。
「その魔王が支配している支配領域の数は?」
「1つ。すぐに会えるよ」
「ん? どういう意味だ?」
「暑苦しいから、侵略したらすぐに飛んでくる」
「侵略したら、魔王自ら防衛に飛んでくるって意味か?」
俺の質問にカエデは「ん。」と首を縦に振る。
「その暑苦しい魔王のレベルはわかるか?」
「お外に出られるから10以上」
「は? レベル10以上なのに支配領域の数が1なのか?」
「暑苦しいから、配下はワンワンしかいない」
ワンワンってウルフだよな? まさかの【肉体】全振りなのか?
「カエデはそいつを見たのか?」
「ん。」
「どんなアイテムを身に付けていた?」
「白い布と青いズボン」
白い布と青いズボン? Tシャツとジーパンか? ってことは錬成もE?
よく生き残っていたな……。
カエデの情報から察するに、件の魔王は創造、錬成共に初期値。宇ノ気周辺は活発に侵略活動に励む人類も、支配領域の拡大を狙う魔王も少ない。とは言え、侵略経験が0になることはあり得ない。人類は少しでも多くの土地を取り戻すために、魔王は支配領域を拡大させるために、絶えず狙い目の支配領域を探している。侵略経験が0の支配領域など……俺が囲っている哀れな支配領域くらいだろう。
これは拾いモノかも知れない。懸念材料があるとすれば……敵は恐らく賢くない。聞く限り脳筋魔王だ。《降伏》をいかにして受け入れさせるべきか。
考えられるシチュエーションとしては……
「カエデ。俺とその魔王――どちらが強い?」
一番あり得そうなのはタイマンを申し込まれて、勝てば屈するシチュエーションだ。
「ん。夜ならお館様……だと思う」
「夜なら確実に俺が勝つと思うか?」
「ん。戦闘サンプルが弱い人類だったから、確実は無理」
カエデの探し当てた魔王は恐らく滅多にいない好物件だ。不安材料を無くすためにも、情報を集めるか。
俺は1体のダンピールを眷属化し、配下としてリビングメイルとウェアウルフを編成。眷属化に伴うCPの消費は痛手であったが、必要経費と割り切って敵情調査に向かわせたのであった。
◆
眷属化したダンピールが配下を引き連れて、宇ノ気の支配領域へと到着。
カエデ曰く暑苦しい魔王が支配する支配領域の内情は、一切の支配領域創造が施されていない田畑と民家が建ち並ぶ田園風景であった。
「お? サラ孃のお仲間候補を視察ですかな?」
防衛の総司令官と言う立場ではあるが、平常時は暇を持て余しているヤタロウが俺へと声を掛けてくる。
「肉体特化の獣種の魔王だな」
「つまりは【アタッカー(近接)】候補ですな」
「そうなるな」
ヤタロウは目を細めながら俺のスマートフォンに映し出されたライブ映像を覗き見る。
「む? 見たところ……見慣れぬダンピールですが、視察のために創造したのかのぉ?」
「配下にするためには《降伏》させる必要があるからな」
「ふむ……。つまり、このダンピールは敵の情報を得るための捨て駒と?」
「そうなるな」
ヤタロウの口調が険しくなる。
ん? ヤタロウはそこまで配下を大切にするタイプだったか? 魔王から配下の立場に変わり、配下に情でも湧いたか?
「シオン、1ついいかのぉ?」
「何だ?」
「このダンピールは眷属じゃな?」
「眷属じゃないと支配領域の外には出られないからな」
「知っておったか? 眷属化するために必要なCPと《乱数創造》を実行するために必要な消費CPは同一であるということをっ!」
俺の先程の心配は杞憂であった。ヤタロウは変わらず、ヤタロウであった。その後も《乱数創造》の必要性を熱く語るヤタロウの言葉を聞き流し、俺はスマートフォンの画面に意識を向けた。
「……つまりは乱数とは人生! ならば、儂らの行く末を乱数の女神に捧げるのは――」
――黙れ!
騒ぎ続けるヤタロウの口を強制的に閉ざし、スマートフォンに映し出された画面に意識を集中させる。
「お? こいつは変わった侵入者だな」
ダンピールを通して映し出されたスマートフォンの画面には、Tシャツにジーパンといったラフな格好をした野性味溢れる大柄な男が映し出された。
「ん? 喋れねーのか? お前ら……人間じゃねーだろ?」
大柄な男はダンピールを挑発するように、獰猛な笑みを浮かべる。
「我が名はデコイ=シオン! 偉大なる魔王シオ――」
「ハッ! 知らねーよ!」
――!?
スマートフォンに映し出された画面――ダンピールの視線は一瞬にして宙を映し、慌ただしく景色が移り変わる。
殴られた?
――リビングメイル! デコイを守れ!
――ウェアウルフ! 攻撃を仕掛けろ!
リビングメイルとウェアウルフが俺の命令に従い、行動を開始する。
「ハッ! イイね! お前の動き、中々イイよ!」
大柄な男は、ウェアウルフから繰り出される素早い爪による連続攻撃を笑みを浮かべながら体術を駆使して躱し続ける。
「なぁ? その尻尾、邪魔じゃないか?」
大柄な男はウェアウルフの腹に拳をめり込ませると、身体を反転させてウェアウルフの背後に回り込み、無造作に尻尾を掴み、そのまま放り投げる。
「――キャン!?」
ウェアウルフは地面に叩き付けられると、情けない悲鳴を上げる。
「キャン! って、お前はうちのワンコロと一緒かよ」
大柄な男は笑い声を上げながら、素早く倒れ込んだウェアウルフに近付き、倒れ込んだウェアウルフの頭に踵を落とした。
「んー。お前はもう少しウェイトを増やして、一撃の重みを……って、もう聞こえねーか」
大柄な男はつまらなそうに苦笑を浮かべる。
――リビングメイルは守りを固めよ!
――デコイはリビングメイルの背後から魔法を中心に攻め立てよ!
生き残ったダンピールとリビングメイルで敵に勝つことは、万が一でも不可能だ。俺は敵の情報をより多く得るために、命令を下す。
「後は、そっちの鎧の兄ちゃんと、華奢な兄ちゃんか。さっきのワンコロよりも楽しませてくれよ?」
大柄な男は指を鳴らしながら、獰猛な笑みをダンピールとリビングメイルへと向ける。
大柄な男は地を蹴ると、一瞬の間にリビングメイルとの距離を詰める。
「オラッ!」
大柄な男は気合いと共に、拳をリビングメイルの構えた盾に打ち込む。スマートフォンからは拳と盾が衝突したとは思えない、激しい衝撃音が聞こえる。
「チッ! かてーな……」
大柄な男は後方へと大きく跳躍すると、殴った拳を見つめる。
「ハッ! 喜べ! 俺の真の姿を見せてやる! 我が名は魔王――タカハル! ウォォォオオオオオ!!」
大柄な男――魔王タカハルは獰猛な笑みを浮かべると、天を仰ぎ雄叫びをあげる。
魔王タカハルの姿が光に包まれると――その姿は変貌する。
「ハッハッハ! この姿で戦うのは久しぶりだぜ!」
魔王タカハルは
ライオン?
スマートフォンに映し出された魔王タカハルの真の姿に率直な感想を抱いた直後――
スマートフォンに映し出された画面はブラックアウトするのであった。
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