vs魔王サラ①
第四十二支配領域に転移してから15時間。
リナたち侵略メンバーには十分な休息を与え、俺はカノンとヤタロウと共にスマートフォンに映る侵略者の様子を確認し、戦力分析を行っていた。
「仮に侵略者がダークハイエルフとして……あそこまで多様な魔法を扱えるのか?」
戦力分析をするために侵略者には多種にわたる配下を差し向けたが、グールは炎で焼かれ、スライムは氷で凍らされ、ウルフの群れは広範囲の雷に打たれ、空を飛ぶジャイアントバットは風の刃に切り裂かれた。
俺にはどうしても画面に映るダークハイエルフと思われる魔王が、クロエと同じ系統の種族には思えなかった。
「うーん……ダークハイエルフは炎と闇の魔法の扱いに優れ、弓と短剣も扱えるハイブリッドな存在、らしいのですがぁ……」
俺の問い掛けにカノンが自信なさげに答える。
「エルフ種の魔王が進化出来る種族は、他に何があった?」
「えっとぉ……私の知識と『ラプラス』に掲載された情報によると……エルフ種の魔王がレベル10に成長したら進化出来る種族はエルフの上位互換『ハイエルフ』、元素魔法に優れた『エレメントエルフ』、弓と短剣の扱いに優れた『ハンターエルフ』、噂では魔法剣が扱える『エルフロード』、ハイエルフと対を成す『ダークハイエルフ』ですねぇ」
「その情報が正確なら、侵略者は『エレメントエルフ』だよな?」
「そうですねぇ……。ダークハイエルフなら闇魔法を多用すると思いますぅ」
俺とカノンは互いの言葉を確認しながら首を傾げる。
「シオン様! 我が輩、敵の正体がわかったかも知れませぬ」
「ん? 言ってみろ」
後ろからスマートフォンの画面を覗いていたサブロウから声を掛けられる。
「シオン様はギャルという存在をご存知か?」
「ギャル?」
「左様。若い女子の一部で流行っている……存在です。一見すると、我が輩とは相容れぬ存在ではありますが、話してみると意外にいい奴でそのギャップに萌え――」
――黙れ!
侵略者と相対するまで、残り3時間を切っていた。そんな差し迫った時間に、サブロウの性癖を聞く時間など1秒もない。
「キモいです……」
「すまん。サブロウの言葉に耳を傾けたのは、俺のミスだ」
ドン引きするカノンに、俺は素直に自分の非を認める。
「――な!? ち、違いますぞ!? 我が輩の操はカノンたんに――」
――《ファイヤーボール》!
尚も戯れ言を言おうとするサブロウを物理的に黙らせる。
とりあえず、外見から推測される侵略者の情報と、戦闘風景から得られた侵略者の情報。異なる2つの情報を頭に叩き込み、戦闘に備えるのであった。
◆
2時間後。
侵略者達は十二階層へと到着。俺たちは十二階層の中腹部分にあたる拓けた空間に陣を敷いて、侵略者を待ち構えた。
防衛側の最大の利点は――数。
侵略者とは違い、数が制限されていないことが最大の利点であった。
しかし、今回の侵略者は広範囲の魔法を扱える。下手にグールの大軍を布陣しても、一掃される危機がある。今回は、俺、イザヨイ、サブロウ、ヤタロウを中心に、魔法防御に優れたアイテムを装備したリビングメイルを配置。その他に機動性に優れたウェアウルフをリビングメイルの背後に、魔法を攪乱させるジャイアントバットを後方に配置した。リナたちは万が一の為のバックアッパーとして、後方に配置した。
スマートフォンで確認する限り、侵略者と相対するまでおよそ5分。
俺は手にしたゲイボルグを強く握り締め、魔王アリサ以来となるレベル10超えの魔王を待ち構えた。
そして、前方の通路から21名の侵略者が姿を現わした。
「え!? ちょ!? マジありえんてぃ!」
「姫! お下がり下さい!」
先頭を歩いていた褐色のエルフが、陣を敷いて待ち構えていた俺たちの姿を見て、驚きの声をあげると、白銀の鎧を着込んだ美麗のエルフが褐色のエルフを守るように剣を構える。
「初めまして。俺の名はシオン。この支配領域の主だ」
「やばばばぁ!? 魔王? さげぽよ」
……。あいつ魔王だよな? 言葉の一部が不明確なのだが……クロエを《吸収》して言語能力を得るべきだったのか?
「無駄な争いは好まない。俺の配下に下るなら、相応の待遇を約束するが……どうする?」
「俺の配下……? あははっ! マジありえんてぃ。戦う前から無理言うなし」
褐色のエルフは楽しそうに笑い声をあげながら、明確な否定の言葉を口にする。
「そうか。ならば……」
――《ダークナイトテンペスト》!
荒れ狂う闇の暴風が、褐色のエルフ率いる軍勢との開戦を告げるのであった。
「いきなり攻撃とか……マジ卍!」
「お前たち! 姫を守れ――」
「「「――《マジックシールド》!」」」
周囲のエルフたちが展開した魔法の障壁が荒れ狂う闇の暴風を受け止める。
「わわわっ!? 多重防壁なのに……銀髪君の魔法、やばたにえん!?」
「姫!」
「かっつん! やっちゃって!」
「ハッ!」
「さぁやも、みっくんも、しょーちゃんも……みんな、やっちゃって~」
褐色のエルフが手に持つ杖から炎の爆風が吹き荒れると、背後エルフたちが輪唱するように唱えた炎の爆風が幾重にも重なり、荒れ狂う。
――ッ!?
念の為、炎対策のアイテムを装備して来たが……無効化まではほど遠く、リビングメイルの背後に隠れた俺の肌は焦がされる。
「――《ウィンドヒール》! 大丈夫ですかぁ?」
背後に隠れていたカノンが唱えた癒やしの風が、焦がされた俺の肌を癒やす。
遠距離での打ち合いは分が悪すぎる。俺はジャイアントバットを投入して敵の攪乱を図る。
「あいつ嫌い~。秒で殺すし」
投入されたジャイアントバットの姿を確認するや否や、放たれた風の刃がジャイアントバットの羽を切り裂く。
「イザヨイ! サブロウ! ウェアウルフと共に敵陣に切り込むぞ!」
「ハッ!」
「承知!」
「「「アォーン!」」」
「ヤタロウは魔法での援護を頼む!」
「任せておけ」
俺はヤタロウとサブロウ、ウェアウルフの群れと共に侵入者へと突撃する。
「我が名はカイン=サラ! 魔王サラ様の腹心也! 姫には指一本も触れさせん! ――《エンチャントファイヤ》!」
美麗のエルフの騎士が、剣に炎を纏わせ、俺たちの行く手を阻むように立ち塞がる。
「腹心ですか……。シオン様。彼奴の相手は私がしても?」
「可能なら生け捕りにしろ」
「畏まりました」
腹心と言う言葉に触発されたのか、イザヨイが好戦的な視線を美麗なエルフの騎士――カインへと送る。
「我が名はイザヨイ=シオン。この世の覇者――魔王シオン様の腹心也。闇の深淵を教えてくれよう」
イザヨイは突撃する速度のギアを一段上げ、カインに向かって突出する。
「むむ……。先を越されたか……」
サブロウがカインへと突出するイザヨイに恨めしい視線を送る。
荒れ狂う魔法の嵐の中、時に身を挺したウェアウルフに守られ、時にヤタロウの魔法防壁に守られながら、俺の槍は侵略者へと差し迫ったのであった。
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