Episode7
北伐スタート! ……のはずが
ヤタロウを配下に加えてから2週間が経過した頃。
俺は経験値稼ぎを目的に、本日はリナの部隊に参加し支配領域の侵略を満喫していた。
「日光には慣れたか?」
「慣れたと言えば、慣れたな。相変わらず、怠いけどな」
憎き紫外線をまき散らす太陽光の下、隣を歩くリナが俺へと声を掛ける。
当初は屋内型――所謂ダンジョンタイプの支配領域の侵略のみに参戦する予定だったが、如何せんダンジョンタイプの支配領域は少なかった。日光の下であっても肉体はCランクだ。格下であれば十分に通用すると気付いた俺は、入念に調査をした支配領域に限り屋外でも参戦することにしていた。
気持ちの問題となるが、今までは夜が普通で昼は絶望といった精神状態であったが、今では夜は調子が最高潮で昼は絶不調程度までに気分を捉えられるようになっていた。
現在侵略している支配領域は、獣種の魔王が支配しており、一面が荒廃した市街地をモチーフとした支配領域であった。
「ここの魔王には勧告を促すのか?」
「最初に一言だけ、促す予定だ」
魔王は創造出来る配下と違い臨機応変且つ能力は高いが……配下に加えるのは非常に困難であった。《降伏》の仕様を知らなければ、【真核】を差し出せと伝えても、首を横に振る魔王がほとんだ。仮に知っていたとしても、生殺与奪権を奪われ、絶対服従となる立場は奴隷と変わらないと断る魔王がほとんどであった。
「そういえば、ドワーフの魔王が仲間になれば武器の改良が可能になると言うのは、本当か?」
「例のサイトで調べた情報によると、ある程度の改造は可能らしいな」
「フフッ。羽咋市の魔王を仲間に加える日が楽しみだな」
「リナは武器を改造したいのか?」
「柄の長さと厚み……後は切れ味を損ねない程度にもう少し軽量化が出来れば最高だな」
「そこまで細かい注文が出来るのかは不明だが、早く配下には加えたいな」
「シオンも色んな槍を触って自分に合う槍の形を模索してみるといい」
「今度、やってみるわ」
武器について語るリナの口調は少し興奮しており、珍しく雄弁であった。
「その為にも、羽咋市までの道を切り拓くとしよう!」
「そうだな」
熱く語るリナに相槌を打っていると……。
――~♪
俺のズボンのポケットから軽快な音楽が流れ出す。
電話? 俺に電話をしてくる可能性があるのは、隣を歩くリナ、クロエの部隊に所属するブルー、先の拠点を偵察しているカエデ、支配領域で留守番をしているカノンとヤタロウの5人だけだ。
サブロウにはメッセージのみがやり取り出来るSNSのアカウントのみを教えているが、送られてくる内容が余りに幼稚なので、ブロックしてある状態だ。
誰だ? 緊急時以外は電話を掛けてくるな伝えていたはずだが……。
俺はポケットからスマートフォンを取り出して、画面に映し出された名前を確認する。
ヤタロウ……?
ヤタロウと同じ空間で《乱数創造》をする日は毎月7日と決めてある。今日は24日。《乱数創造》以外に用事があるとすれば……。
俺は慌ててスマートフォンを操作して、着信に応じる。
「シオンだ! 緊急事態か!?」
『侵略中に申し訳ない。ヤタロウじゃ。緊急と言えば、緊急事態じゃな』
「何があった?」
『強大な敵――魔王が小矢部市の方面から侵略してきたのじゃよ』
――!?
魔王が攻めてきた? 支配領域を攻め入れる魔王、言い換えれば支配領域の外に出られる魔王となる。それが可能となるのはレベルが10以上に成長した魔王のみだ。
「状況は?」
『現在2階層を攻略中じゃ。イザヨイ、サブロウ……そして儂と、全戦力を投入すれば防衛することは可能と思うのじゃが……シオン様の意向を聞こうと思ってのぉ』
ヤタロウに防衛を任せたのは正解だった。ヤタロウが聞きたい俺の意向とは……配下に加えるか否かだ。
ヤタロウは防衛をするだけでなく、戦力の拡大にまで気を配っていた。
「眷属とサブロウを投入しない場合、どれくらいもつ?」
『眷属もサブロウも投入しないのであれば、十日じゃな。但し、多くの配下を失うことにはなるかも知れん』
「俺が創造出来る配下のみで防衛した場合は?」
『リビングメイルとダンピール、それに大量のグール、ジャイアントバット、ゴブリンを投入しても八日じゃな』
「予備は十分か?」
『他の支配領域も守るのを前提にした日数じゃ』
「流石だ」
俺は現状とヤタロウから聞いた情報を頭の中で整理する。
現在俺がいるのは7階層で構造された支配領域の3階層。強行軍で進めば四日もあれば、支配領域を支配することが出来るだろう。仮に引き返したとしたら二日で支配領域から脱出することが出来る。
侵略してからでも間に合うな。
いや、待てよ……。仮に侵略を成功させたとして、現在侵略中の支配領域の魔王は他にも支配領域を1つ支配している。つまり、《擬似的平和》は発生しない。そこは問題ないが……小矢部市から攻めて来ている魔王はレベル10以上――強敵と推測出来る。
万全の準備を整えるべきか?
眷属化を迫るにしても、圧倒的な優位性を示す必要はある。となれば……。
「ヤタロウ。五日間死守せよ。犠牲となる配下の数は最小限に抑えて、五日目に12階層に到着するように調整してくれ」
『ふぉっふぉ。また、難しいご注文を……とは言え、命令とあらば果たすとするかのぉ』
「任せたぞ」
『成功した暁には《乱数――》
ヤタロウとの通話を切断し、リナたちに命令を下す。
「この支配領域を4日以内に支配する! 敵を無理に殲滅する必要は無い、侵略速度重視で攻めるぞ!」
「「「ハッ!」」」
経験値稼ぎの観点から全ての敵を排除する方針で侵略していたが、方針を切り替え速度重視で侵略を開始するのであった。
◆
四日後の夜間。
――《偃月斬》!
【真核】を守護していた敵の眷属を斬り捨て、【真核】を確保。支配領域の支配をすぐさま完了させた俺はリナたちと共にヤタロウの待つ第一支配領域の最奥へと《転移》した。
「お!? 戻られたか」
「思ったよりも時間を食った。それで、首尾は?」
「ターゲットは現在21名で第四十二支配領域の十一階層を侵略中ですじゃ」
俺はスマートフォンを操作し、四十二支配領域のライブ映像を確認する。
「敵の首領はダークエルフ……?」
「見た限りはそうじゃのぉ……但し、クロエ氏と比べると魔法の扱いに長けておるのぉ」
魔力特化のダークエルフ? レベル10になったエルフが進化出来る種族を全て知っている訳ではないが……魔力特化ならダークエルフ以外の選択肢は無かったのか?
「リナ、連戦はいけそうか?」
「今すぐか?」
「いや、12時間ほど経ってからだ」
「ならば、問題はない」
支配領域の侵略を終えたばかりのリナに確認すると、リナは力強い言葉で返事をする。
「第四十二支配領域の行き方は……」
「第四支配領域経由で《転移》は可能じゃな」
現状、第一支配領域からは全ての支配領域へと《転移》が出来るように【転移装置】を設置してある。但し、直通では第一支配領域の安全性が損なわれるので、安全領域の支配領域を経由して繋げてある。通常時であれば、最奥まで敵に侵略されたら第四支配領域から【支配領域創造】を行い【転移装置】を削除。これにより、安全性と利便性を確保していた。
このノウハウは『ラプラス』の掲示板から得たモノであった。
「イザヨイ、サブロウ……敵を迎え撃つぞ」
「お任せ下さいませ」
「我が深淵の恐怖をシオン様とカノンたんにお見せしよう」
同じ部屋に控えていた2人の吸血鬼は自信に満ち溢れた表情で答える。
「ヤタロウ。主力部隊を第四十二支配領域へと転移させてくれ」
「了解ですじゃ」
ヤタロウは恭しく頭を下げる。
「目的は侵略者の首領――魔王の確保! 他にも目につく魔物がいたら、可能な限り生け捕りにしろ! それでは……行くとするか」
「「「ハッ!」」」
高い士気を有した配下を引き連れて、第四十二支配領域へと移動するのであった。
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