vs魔王サラ②


 ――《一閃突き》!


 褐色のエルフ――魔王サラへとゲイボルクを素早く突き出す。


「やばばばぁ!?」

「させるかっ! ――《パリング》!」


 しかし、ゲイボルクは魔王サラに届く前に、近くにいたエルフが繰り出した短剣に弾かれる。


「しょーちゃん、あざまし!」


 魔王サラは短剣を繰り出したエルフに軽い口調で礼を告げると、華麗なステップで後方へと姿をくらます。


 チッ! 距離を取られるのは厄介だ。


「サブロウ! ウェアウルフと共に周囲のエルフを倒せ!」

「ぐへへへ……承知! エルフの相手は任されました!」


 サブロウは下卑た笑みを浮かべて、エルフたちに嘗め回すような視線を送る。


「うわっ……最高にキモいんですけどぉ」

「不審者め! 姫には一歩も近づかせんぞ!」

「触れると危険だわ! 炎魔法で消毒するわよ!」


 魔王サラがサブロウの笑みを見てドン引きすると、周囲のエルフたちが魔王サラを守るように武器を構える。


「こ、こやつ等……我輩をバカにしおって……。シオン様!」

「何だ?」

「こやつらを生け捕った暁には、是非とも我輩の配下に!」


 サブロウが怒りで震えながら、私利私欲に塗れた要求を俺へと提案する。


「ヒッ……!?」

「仮に負ける時があれば、自害せよ!」

「これは死んでも負けられないわね」

「ちょ!? あのDTプルプル震えてるんですけどぉ」


 サブロウの言葉に、侵略者たちは反撃の意思を一層強める。


 肯定したら敵の反抗する意思は高まり、否定したらサブロウのモチベーションは低下する。何て厄介な提案を投げかけるのだ。


「実力で俺にお前の価値を示せ」

「承知! 我、疾風となりて愚かなる者を滅さん!――《ファストスラスト》!」


 サブロウは刹那の速度で抵抗の意思を示すエルフへと迫り、神速の刺突を繰り出す。


「――な!? こ、こいつ……変態なのに……強い、だと!?」


 サブロウの刺突剣に肩を貫かれたエルフが苦悶の表情を浮かべる。ウェアウルフの群れもサブロウの攻撃にリンクするかのようにエルフたちへと襲い掛かる。


 乱戦と化した前線の中、俺は魔王サラのみに意識を集中。ウェアウルフと戦闘しているエルフを掻き分け、魔王サラへと差し迫る。


「接近戦とかノーサンキューだし。――《ウィンドステップ》!」


 魔王サラに差し迫るも、魔王サラは脚部に風を纏って、流れるように後方へと避難。一定の距離を取ると、振るった杖から紫電を帯びた槍――《サンダーランス》を放出してくる。俺は放たれたサンダーランスをサイドステップで回避。その隙に、魔王サラは更に距離を離す。


 クソッ! 厄介だな! ――《ダークランス》!


 俺は苦し紛れに闇の槍を魔王サラへと放つ。


「あーしと魔法勝負するの? あげぽよぉ。――《アースシールド》!」


 闇の槍は地面から突出した土の壁に阻まれる。俺は土の壁に視界を遮られた隙を狙い、地を蹴って魔王サラへと駆け出す。


 ――うぉ!?


 しかし、無数の降り注ぐ炎の矢に接近を拒まれる。


 ――ダクエル! 矢を放て!


 業を煮やした俺は、後方に控えたリナの配下――ダークハイエルフのダクエルに援護射撃の命令を下す。


「え!? ちょ!? タイマンを邪魔するとかマジ卍!」


 ダクエルの放った矢は魔王サラの頬を掠め、魔王サラは怒りに満ちた視線をダクエルへと向ける。


 視線が逸れた! 俺は一瞬の隙を見逃さず、魔王サラへと差し迫る。


 ――《一閃突き》!


「痛いし! マジピンチ! やばたにえんなんですけどぉ」


 放たれたゲイボルクの一撃は、魔王サラが纏っていた魔法の障壁に軌道を逸らされ薄皮一枚を切り裂くに留まる。


 ようやく捉えた距離だ。この好機逃がさぬ! ――《五月雨突き》!


 俺は神速の刺突の嵐を魔王サラへと見舞うが……


「吹き飛べぇぇぇえええ!」


 刺突の嵐に晒されながらも、魔王サラは上空へと上げた両手を地面へと叩きつける。


 ――ファイヤーブラストだと!?


 周囲に響く爆発音が俺の耳を劈き、巻き上がる爆風が俺の身を焦がす。


 俺は転がりながら爆風から身を逃し、用意してあった【ハイポーション】を叩き割って全身に浴びる。


「無茶苦茶するな……」

「へへっ。あーしを嘗めるなし」


 爆風が収まると、魔王サラが笑みを浮かべながら佇んでいた。


「思ったよりも強いな。レベルはいくつだ?」

「は? 女子にいきなりレベルを聞くとか、マジありえんてぃ!」

「ハッ! そんな常識は聞いたことねーな!」


 軽い雑談を交わした後に、俺は再び魔王サラへと飛びかかる。


「お兄さん、肉食系? ちょっと無理ぽよぉ」


 飛び出す俺に魔王サラは嘲るように笑うと、無数の風の刃を解き放つ。


 ――《ダークストーム》!


 風の刃に対抗して闇の風を発生させるも、魔王サラには魔力で劣るのか……一部の風の刃が闇の風をすり抜ける。俺は風の刃による痛みに耐え抜きながら、魔王サラへと肉薄する。


「接近はノーサンキュー! ――《ウィンドステップ》!」


 軽やかな足取で後方へと下がる魔王サラ目掛けて俺は全力でゲイボルクを振り下ろす。


 ――《偃月斬》!


「ちょ!? 槍から衝撃波とかマジ勘弁なんですけど!?」


 ゲイボルクの刃先から発生した衝撃波が後方へと下がる魔王サラを追従する。


「キャー!?」

「姫っ!!」


 衝撃波に巻き込まれ悲鳴と共に吹き飛ぶ魔王サラに、悲鳴を聞いて動揺するカイン。


「殺し合いの最中よそ見ですか? 感心できませんね」


 カインが視線を外した隙をイザヨイは見逃すはずもなく、イザヨイは《ダークナイトテンペスト》をカインへと見舞う。


「ひ、姫……うわぁぁああ!?」

「か、かっつぅぅぅん!?」

「「「ひ、姫様! カイン様!」」」


 動揺は連鎖反応を起こし、今度はカインの悲鳴に魔王サラが動揺。その姿に動揺したエルフの集団にサブロウが《ダークナイトテンペスト》を放つと、ヤタロウもサブロウの攻撃に追従するように《ファイヤーブラスト》を解き放つ。


 ――今だ! 包囲しろ!


 後方に控えたリビングメイルたちに一斉に命令を下し、倒れこむ魔王サラの一団を取り囲む。


 魔王サラにまだ余力はあるだろう。しかし、魔王サラの配下となると……。


「さて、お前の配下の生殺与奪権は俺の手中となった」

「……」


 魔王サラは倒れこみながらも、無言で俺に憎悪の視線を送り続けるのであった。


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