ラプラス①


「なるほどですじゃ。つまり、シオン様は故意に人類を誘き寄せ、配下とシオン様自身の成長に繋げていたと……。儂には思い付かない思考ですじゃ。創造出来る配下と、錬成出来るアイテムも理解出来ました」


 ヤタロウは何度も頷き、感心する。


「ヤタロウ、防衛に必要なCPはいくつだ?」

「そうじゃのぉ……。配下創造もアイテム錬成も不要となると、1000もあれば十分ですじゃ」


 ヤタロウは暫し思考した後答える。


「分かった。後は必要な配下の種類と数を教えてくれ。補充に関しては、実際の運用後に随時メールで報告してくれればいい」

「了解じゃ。ただ、儂はシオン様の考案された『稼ぎ場』と言う支配領域の運用には慣れておらぬ。最初はシオン様の構造を引き継いで、運用する予定じゃ」

「最後に、南方面と北方面を防衛する主力の配下を紹介する」


 俺は念話でイザヨイとサブロウを呼び寄せる。


「参りました」

「シオン様。お呼びで……! カノンたん……ハァハァ……」


 イザヨイとサブロウが姿を現わし、カノンが即座に俺の後ろへと避難する。


 カノン……俺の後ろに行くなよ。変態サブロウの視線が俺に向くだろ……。


「ヤタロウ。こいつはイザヨイ。屋内であれば、強さは俺とさほど変わらぬ」

「お戯れを。私などシオン様の足下にも及びませぬ」


 俺の紹介を受けて、イザヨイは微笑を浮かべながら深く頭を下げる。


「イザヨイ。こちらはヤタロウ。元魔王だ。明日から支配領域の防衛統括を任せる」

「――! 新参者にいきなり統括を任せると!?」

「そうだ。俺の考えだが、問題あるか?」

「……ございませぬ」


 声を荒げるイザヨイに、冷たい視線を送ると、イザヨイは即座に態度を改める。最近気付いたが、イザヨイ、クロエ、レイラ――狂信者トリオには、理論立てて説明するよりも、俺の考えと伝える方がスムーズに事が運ぶ。


「新参者じゃが、宜しく頼むのぉ」


 ヤタロウは、流石は年の功と言うべきだろう。柔和な笑みを浮かべてイザヨイに手を差し出す。イザヨイは俺の顔をチラッと見た後に、差し出されたヤタロウの手を握り返す。


「こっちは……」

「我が輩の名前はダークネ――」


 ――黙れ!


「サブロウだ。知能、センス、性癖、趣味……全てが残念な仕上がりだが、実力は保障する。ちなみに、元魔王だ」

「う、うむ……。よ、宜しく頼むのぉ……」


 ヤタロウは引き攣った笑みを浮かべる。


「シオン様! 一つよろしいでしょうか!」

「よろしくない! が、何だ?」


 サブロウが声を大にする。


「ヤタロウ殿を防衛統括に任命するとの話ですが……その理由は?」

「ヤタロウは元魔王で支配領域の運用に慣れている。俺も今後は侵略に加わることが増える予定だ。作業の分担化だな」

「――! な、ならば! シオン様にはもう一人優秀な元魔王の――」

「カノンは俺の検索ツールだ」

「カ、カノンたんは天使です! じゃなく、もう一人! 目の前に! この――」


 ――《ファイヤーランス》!


「すまん。魔法が暴発した。で、俺の考えに文句があるのか?」

「……ございませぬ」


 プスプスとウェルダンな匂いを醸し出しながら、サブロウは震えた声で答える。


「さてと、配下については以上だ。他に懸念事項はあるか?」

「恐れながら……カエデは?」

「影鬼――カエデは防衛ではなく、別の用途に使うつもりだ」

「調査……ですかな?」

「そうだな。ついでに、侵略部隊にも組み込んで積極的にレベル上げにも励んでもらう」

「……畏まりましたじゃ」


 ヤタロウとカエデの間には想像以上の絆があるのだろうか。ヤタロウの顔はどこか寂し気だった。


「他に何かあるか?」

「一つ……一つだけ我が儘をよろしいでしょうか?」

「何だ?」


 カエデの身の安全を……とか言うのだろうか?


「ガ……《乱数創造》を! 2日に一回でいいので《乱数創造》を!」

「は?」

「ですから、《乱数創造》をお願いしたいのですじゃ」

「ヤタロウは《乱数創造》出来ないだろ?」

「そうですじゃ。だから……自分で回すのではなく女神様にお願いするタイプと割り切って、2日に一度の《乱数創造》をシオン様にして欲しいのですじゃ」


 目の前のジジイが何を言っているのか理解出来ない。回す? 女神? お願い?


「えっと、なんだ……俺に2日に一度乱数創造をしろと?」

「如何にも!」

「理由は?」

「儂の防衛には《乱数創造》が占める要素は非常に大きいのですじゃ」

「確かにヤタロウの支配領域には多種多様な魔物がいたが……必要な魔物がいるなら、言ってくれれば、全ては無理だが侵略部隊に調達を依頼するぞ?」

「そうではなく、自分で! 乱数の神に身を委ね!?」

「乱数の神に身を委ねるって……防衛と関係ないだろ?」


 《乱数創造》には多大なCPを消費する。明確な理由もなく乱発出来る代物ではない。


「つまり……何と言えば……儂は、儂は――ガチャが好きなんじゃぁぁあああ!」


 ――?


 本気で目の前のジジイが何を言っているのか理解出来ない。防衛統括の人事を考え直した方がいいかも知れない……。


 俺が呆然としている間にも「生き甲斐なんじゃ……」「老い先短い……」「すぅぱぁレアを……」と戯言をほざいている。


「えっと、つまり……ヤタロウはガチャが好きだから、俺に《乱数創造》をしろと?」

「そうじゃ!」

「――却下!!」

「そ、そんな……後生じゃぁぁあああ」


 その後ヤタロウと論議を重ね、最終的に根負けした俺は月に1回だけ《乱数創造》を行うことを約束した。正直言えば、すでに俺は月に1回以上のペースで《乱数創造》は実施していた。ただ、乱数の女神に微笑まれなかっただけだ……。だから、約束はしたものの、特に大きな損失と言う訳でもなかった。


 その後、ヤタロウ、カノンと共に支配領域の再構築を話し合いながら実行。配下も配置して、俺の支配領域は新たにリニューアルされたのであった。



 ◆



 《擬似的平和》残り13時間。


 誰かと話し合いながら支配領域を再構築する作業は、想像以上に楽しかった。主に知識面の補佐と言う観点から相談していたカノンとは違い、経験談に基づく話し合いは非常に有意義な時間であった。


 次にするべき事はヤタロウからの情報の収集だ。


 聞くべき事は二つあった。


 一つ、カエデの正体――しかし、この答えはすでに掴んでいた。


「ヤタロウ。カエデの正体だが……《乱数創造》で創造した配下か?」

「左様ですじゃ。SSR(すぺしゃるすぅぱぁレア)なのですじゃ」

「なるほどな。ちなみに、カエデ以外にSSRは?」

「SSRはカエデのみじゃ」


 ヤタロウは乱数の神に取り憑かれている。そのヤタロウが一度しか引けぬSSRか。排出率は相当悪そうだ。


 ともあれ、カエデの正体と多種多様な魔物がヤタロウの支配領域に生息していた理由は判明した。


 次に聞くべきことは――


「ヤタロウ。『ラプラス』とは何だ……?」


 俺はヤタロウが何度口にしていた謎の言葉について質問をした。


 すると……


「あ!? 『ラプラス』なら私もわかりますよぉ」


 なぜかヤタロウが答えるよりも早く、カノンが満面の笑みを浮かべて声を上げるのであった。


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