vs魔王ヤタロウ⑧
俺は、魔王ヤタロウとの一騎打ちで勝利を収めた。
「それでは、約定に従い――《降伏》してもらうぞ」
俺はゲイボルグの先端を魔王ヤタロウの喉元に突きつけたまま、勧告を促す。
「わかっておる……。【真核】はすでに用意済みじゃ」
魔王ヤタロウは達観した声で答えると、1体のデーモンジェネラルが【真核】を俺へと差し出す。
周到だな。魔王ヤタロウは、最初からこの結末を予測していたのか?
「私――魔王ヤタロウは、魔王である生を捨て、汝――魔王シオンに『降伏』します」
魔王ヤタロウは真摯な目で俺の目を見つめ、淀みない声で《降伏》の言葉を紡ぎ出す。
「――了承する」
俺は魔王ヤタロウの《降伏》を受け入れる言葉を宣言。
俺の宣言に呼応するように、手中の【真核】は光り輝き、俺の手の中から消失。同時に、足下が、空間が、支配領域が激しく振動した。
『>>魔王ヤタロウの支配領域を支配しました。
>>支配領域統合の為、異分子を排出します。
>>異分子の排出に成功しました。支配領域の統合を行います。
>>支配領域の統合に成功しました。これより24時間【擬似的平和】が付与されます』
俺はスマートフォンを操作して、ヤタロウの降伏が成功したことを確認。
「人類に攻められていたのか……」
「左様。後3時間遅ければ、支配領域を一つ失っておった」
魔王ヤタロウは淡々と事実を告げる。
魔王ヤタロウは俺たちとの争いの最中、人類にも襲撃されていることはおくびにも出さなかった。生き残る為に、取捨選択をした結果……全戦力を俺との争いに投入したのだろう。
その選択は、悪くない判断だった。
こうして、俺は三人目となる頼りになりそうな元魔王の配下を迎え入れたのであった。
◆
侵略者から邪魔がされずに、体制を整える時間は24時間。
俺は《擬似的平和》が付与されている24時間のタイムスケジュールを組み立てる。
魔王ヤタロウを配下として迎え入れた。ヤタロウに期待している働きは……支配領域の防衛だ。ならば、支配領域の構築もヤタロウに託すのが効率的だろう。その為に必要な事は――情報の共有化だ。
ヤタロウには、俺の考え方を伝えた上で防衛に必要となる戦力を組み立てさせる必要がある。
情報の共有化に必要な時間は、1時間だな。
現在支配している支配領域の数は51。その内ヤタロウに任せたい支配領域は攻められる可能性のある27の支配領域。27の支配領域の内、22はベースが出来ている。0から構築するのは、新たに支配した5つの支配領域のみだ。
「ヤタロウ。5つの支配領域を再構築するのに、必要な時間は?」
「5つ……。つまり、今ほどシオン様が儂から奪い取った支配領域じゃな」
「そうなるな」
「ふむ。そうじゃのぉ……儂なら5時間じゃな。どうしてそのような質問をするのじゃ?」
「支配領域の権限をヤタロウに《分割》する予定だ。今後のスケジュール調整の為だな」
「ふむ……。《分割》? 何じゃそれは?」
「――は? 《降伏》を知っているのに、《分割》を知らないのか?」
カノンから聞いた話になるが、《降伏》の知識を得るのに必要なランクはB。《分割》を知るのに必要なランクはCのはずだ。
「うむ。『ラプラス』に《分割》なんて情報は上がっていたかのぉ? ひょっとして、シオン様は儂よりもランクが高いのか?」
俺の質問に、ヤタロウは訳の分からない返答をする。
『ラプラス』? ランク? そういえば、争いの最中も『ラプラス』と口にしていたが……。まぁ、いい。その事を聞くのは後回しだ。まずは、優先順位を付けて行動しよう。
「ヤタロウは今魔王ではない」
「そうじゃな」
「支配領域創造も、配下創造もできない」
「……そうじゃな」
俺の言葉を受けて、ヤタロウは魔王の立場を奪われたことを再認識したのか、沈んだ口調で返答する。
「《分割》をすれば、ヤタロウに支配領域を支配する権限が委託出来る。ヤタロウには、俺の支配領域の防衛を――」
「な、な、何と!? 権限を委託じゃと!? すると……儂は《支配領域創造》や《配下創造》を実行することが出来るのか!?」
俺の言葉を聞いて、ヤタロウは興奮しながら捲し立てる。
「出来るのは支配領域の創造と、委託された支配領域の状況を知ることだ」
「――!? は、《配下創造》は!? 《乱数創造》は!?」
「無理だな。ちなみに、《錬成》も無理だ」
「そ、そうか……」
ヤタロウは俺の返答を聞いて、再び沈んだ声音へと戻る。
俺は落ち込んだヤタロウを尻目に、タイムスケジュールの組み立てを再開する。
5つの支配領域を再構築するのに必要な時間は5時間か。他の《分割》する支配領域の再構築もするとなると……10時間もあれば平気か?
これで、残る時間は13時間。
後はするべき事として……ヤタロウからの情報収集だな。影鬼の正体、謎の言葉――『ラプラス』の情報。後は、元ヤタロウの配下の能力確認。それが終われば、今後の行動方針の話し合い。余った時間で、ヤタロウたちの居住を創造すればいいか。
頭の中で24時間……正確には23時間20分となってしまった《擬似的平和》が付与された時間のタイムスケジュールは組み上がった。
まずは、自称参謀のカノンと合流して情報の共有から始めるか。
俺は、近くに《転移装置》を創造。ヤタロウや眷属と共にカノンの元へと帰還するのであった。
◆
「おかえりなさいですぅ」
《転移装置》を用いて第一支配領域――俺に与えられた最初の支配領域の最奥へと転移すると、カノンが笑顔を浮かべながら飛んできた。
「ただいま。こっちが噂の二人の魔王――ヤタロウとカエデだ」
「初めましてぇ。シオンさんの参謀を務めるカノンですぅ」
カノンにヤタロウとカエデを紹介すると、カノンはさらっと立場を偽証しながら自己紹介をする。
「参謀じゃと? つまり、シオン様のあの作戦も――」
「そこの虫は参謀じゃない。良くて参謀見習い、現状は検索ツールだ」
「――な!?」
俺は感心するヤタロウの言葉を遮り、真実を伝えた。カノンはなぜか驚愕しているが、俺としてはさらっと立場を偽証したカノンの口調に驚愕だ。
「参謀見習い……? 見た感じハイピクシーじゃが、ひょっとしてこの妖精もSSR配下か!?」
俺の言葉を受けて、ヤタロウは驚愕する。
「……SSR配下? すまん、その言葉は意味不明だが、カノンはヤタロウと同じく元魔王だ」
「元魔王……なるほどのぉ」
「っと、時間は有限だ。そろそろ本題に入っていいか?」
「はぁい」
「うむ」
このまま雑談を続けていると、貴重な時間が無駄に消費されてしまう。
「まずは、決定事項から伝える。ヤタロウには支配領域の防衛を任せる。《分割》する支配領域は敵から攻められる可能性がある27の支配領域だ」
「――な!? わ、私は……」
カノンが大口を開けながら固まる。
「いつもの定位置だな」
「つまり、参ぼ――」
「検索ツール」
「せめて、正式に参謀としての役職を――」
「それが嫌なら、サブロウとパーティーを組んで――」
「検索ツールですね! 何でもお聞き下さい!」
カノンは、あれ程嫌がっていた検索ツールの立場を受け入れる。サブロウすげーな……嫌われっぷりが。
「ったく、どこまで話した?」
「儂に27の支配領域を《分割》すると言うところじゃな」
「話を続けると、それを成すためにヤタロウには俺の考え方を伝える」
「ふむ。教育理念……いや、経営理念か? ――魔王理念じゃな!」
「まぁ、それでいいか。その後、俺の創造出来る配下、保有する配下、錬成出来るアイテムを伝える。その上でヤタロウは必要なCPと配下、アイテムを申請してくれ」
「了解じゃ」
その後、俺はカノンと共に俺の考え方、支配領域の地域別コンセプトなどを説明。続いて、創造出来る配下と配下の特色を説明。最後に、錬成出来るアイテムは種類が多いのでカノンに説明を丸投げしたのであった。
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