vs魔王ヤタロウ①
2人の魔王が存在すると言われる支配領域のすぐ側にある海岸にて、侵略メンバーを集めて作戦会議を実施することにした。
「これより、2人の魔王が存在すると言われる内灘町の支配領域の侵攻を開始する。対象となる支配領域は、人類が設定したハザードランクによるとB。但し、2人の魔王の脅威度はAランクとなる」
ちなみに、俺の南方面の支配領域はハザードランクがS――通称『勇者の墓場』。西方面の支配領域はハザードランクがD――通称『稼ぎ場』。東方面の支配領域はハザードランクがB。北方面の支配領域はハザードランクがAとランク付けられていた。俺自身の脅威度はSランク。このランクは俺の自称ではなく、リナを捨てて逃げた元勇者様が格付けしていた。
人類の下馬評によれば全てにおいて俺が優勢となる。但し、あくまで選定したのは人類だ。油断は出来ない。
「今回の支配領域侵攻は今までの侵略とは違い、皆に一つのミッションを課す。そのミッションとは――2人の魔王の生け捕りだ。但し、このミッションの優先順位は眷属の命よりも低いものとする。ここまでで、何か質問がある者は?」
俺は立ち並ぶ配下の顔を見渡す。
「お頭……一ついいっすか?」
「――!? ブルー! この愚弄者がっ! 我らは黙ってマスターの恩命に――」
「クロエ!」
「ハッ!? 出過ぎた真似を……」
手を上げて意気揚々と質問をしようとするブルーをクロエが諫め、そのクロエを俺が諫める。
「で、ブルー。質問とは?」
「生け捕りって、具体的にどうすればいいんすか?」
「そうだな。今回俺は、リナの部隊を指揮する。ブルー――クロエたちの部隊は、2人の魔王のいずれかと遭遇したら、周囲の雑魚を掃討し、追い詰めろ。ベストは別の支配領域へと逃亡させろ」
「簡単に言うっすけど……相手は魔王っすよ? 魔王アリサと同格なら――」
「ブルー! 魔王アリサと同格であろうと、私が必ず仕留める! 貴様もその命を――」
「クロエ! 仕留めるな。目的は生け捕りだ。そして、眷属の命は最優先だ」
「し、失礼しました……」
クロエは俺の話を聞いていたのだろうか? 一抹の不安が残る。
「まぁいい。クロエたちの部隊は魔王と遭遇したら、最悪逃げろ。逃亡を成功させる為に、配下を犠牲にすることは許す」
「マスターの慈悲深き心遣い、感謝します」
「それと、少女の魔王が現れたら……これを使え。使用するタイミングは姿を消した瞬間だ」
俺はこの日の為に錬成した『閃光弾』50個をクロエへと手渡す。『閃光弾』は100個錬成したので、俺たちも同様の数の『閃光弾』を使用することが出来る。
「御下賜、感謝致します」
クロエは深々と頭を下げる。
「それと、ブルー。スマホの使い方は覚えたか?」
「大丈夫っす! コレを押したらお頭と話せるんすよね?」
ブルーは腰蓑の中から取りだしたスマホを自信満々に掲げる。ちなみに、ブルーの言うコレとは俺のスマートフォンへと繋がる短縮ダイヤルのアイコンだ。今までは常時スマートフォンのライブ映像で確認していたが、今回はそう言う訳にはいかない。着信の方法も教えようかと思ったが、それは念話で事足りるので省略した。
「魔王と遭遇したら、即電話しろ」
「了解っす!」
意気揚々と返事をするブルーと、ブルーに嫉妬の視線を送るクロエ。本来は後列で戦闘をするクロエにスマートフォンを渡したかったが、使いこなせなかったので仕方ない。ブルーは何気に現代機器への適応が一番高いのかも知れない。
「それでは、これより支配領域の侵攻を開始する!」
「「「ハッ!」」」
簡単ではあったが作戦会議は終了。俺は支配領域侵攻を宣言したのであった。
◆
クロエたちの部隊と別れ、俺はリナの部隊と共に支配領域への侵攻を開始した。
今回侵攻した支配領域は、所謂ダンジョンタイプの構造だった。周囲を覆う壁は無骨な岩肌が剥き出しになっており、所々に苔が生えていた。土と岩の混じった地面には、陥没した箇所に水溜まりが出来ていた。
ジメジメとした暗いダンジョン……何て居心地がいいのだろう。月の光に照らされる澄み渡った夜空も好きだが、こういうジメジメとしたダンジョンはなぜか心が落ち着いた。
アイアンと4体のリビングメイルを先頭に支配領域の中を進んでいると――
突如、『カンッ』と乾いた音が鳴り響いき、アイアンの足下に1本の矢が落ちる。
「敵襲! 展開せよ!」
即座にリナが声を張り、配下たちはその声に合わせて戦闘態勢へと移行する。
「フローラとリリムは《マジックシールド》を展開!」
「「は~い」」
「レイラとダクエルはダンピールと共に遠距離攻撃を!」
「「言われなくとも」」
「アイアンたちはレイラとフローラたちを守れ」
((是))
「ガイ! レッド! 私と共に敵を叩くぞ!」
「フッ! 承知」
「おうよ!」
リナの素早い号令に連動して配下たちが動き出す。
……俺は?
最初の一歩が遅れた俺は、ゲイボルグによる近接攻撃を諦め、魔法による攻撃の準備を始める。
――《ダーク……って、おい!
「――な!?」
「フッ……不覚」
「だぁぁああ! めんどくせー!」
駆け出したリナたちはぬかるんだ地面に足を取られ、スピードを殺される。
そして、動きを止めたリナたちへ無数の矢と炎の球が降り注ぐ。
「しょうがないわね~。――《マジックシールド》!」
(――《カースヘイトレッド》)
フローラとアイアンは不測の事態にも動じることなかった。フローラは耐久性に乏しいガイの前方に魔法の障壁を張り、アイアンは盾を打ち鳴らして矢の的を自身へと誘う。リナたちも、果敢に武器を振るい飛来する矢を打ち落とし、泥の地面であろうと転倒しながら飛来してくる魔法から難を逃れる。
「あ……!」
ぬかるんだ地面の上で、豪快に鈍器を振り回していたレッドの表情が固まる。この時、耳を澄ましていれば「カチッ」っという罠を踏む音が聞こえていただろう。
――ゴゴゴゴゴゴゴッ!!
揺れ動く震動と共に、巨岩がレッドの側面から転がってくる。
遠距離攻撃をする魔物の前には、ぬかるんだ地面。ぬかるんだ地面の中には転がる岩の起動スイッチ。……序盤から殺意全開だな! ――《ダークランス》!
俺は転がる巨岩目掛けて、闇の槍を放つ。放たれた闇の槍は巨岩に命中。巨岩は四散し、石つぶてとなり、レッドは難を逃れた。
「だ、旦那……。すまねぇ」
レッドは締まらない表情で、俺へと視線を送る。
「謝辞は不要。こいつらを一掃する! リナ、レッド、ガイ、散開せよ!」
「了解」
「承知」
「おうよ!」
――《ダークナイトテンペスト》!
吹き荒れる闇の暴風が、弓を放っていたゴブリンを、魔法を放っていた
闇の暴風から逃れられた幸運な敵も、レイラの無慈悲な氷の弾丸とぬかるみから抜け出したリナとガイに斬り伏せられた。
「ふぅ。序盤から歯ごたえのある連中だったな」
「えぇ。そうね」
俺はリナと視線を合わせて苦笑する。
「シオン様! こちらを……!」
レイラの元へと近付くと、レイラは地面に落ちていた矢を指し示した。
――!
地面に落ちていた矢は全て銀色に輝いていた。
思い起こせば、先程リナたちに降り注いだ魔法は全て炎属性であった。そして、放たれた矢は全て銀製品。
これら二つに共通するのは――俺の弱点属性という点だった。
これは偶然なのか……? あり得ない。
ならば、答えは一つ。この支配領域の主は攻めて来る敵が――俺と知っていた。
そして、敵である俺に対して十分な対策を練ってきた。
「この支配領域を支配するのは一筋縄じゃいかないみたいだな」
俺はこの支配領域を支配する魔王の評価を一段階上げるのであった。
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