不審なメール②
「この文章の意味は恐らく――魔王に対してのメッセージです」
カノンがシリアスな表情で告げる。
「魔王に対してのメッセージ?」
俺はカノンの言葉にオウム返しで問い掛ける。
「同族にして、仇敵なるM諸君――この『M』と言うのは魔王を指しているものと思われます」
カノンは覚醒したのだろうか、いつもの舌足らずな口調が鳴りを潜めている。
「M=魔王ね。その根拠は?」
「はい。根拠はその後に続く暗号文です。『文章を理解し、私を同族と認識』と前書きがあり、暗号文には『H:S1、R2、B3、W3、G5 R:W1、K2』と、英数値の羅列があります」
「確かに、書いてあるな」
「Hは何を指すのか? 私はこのHが『配下』を推測しました。すると、S=スライム。R=ラット。B=バットとなります」
俺はカノンの言葉を聞いてから、再度暗号文に視線を落とす。
――!
すると、暗号文が先程とは違った意味で見えてくる。
「正確には『配下創造』かも知れないな」
「はい! つまり、アルファベット――配下の種族の後ろに付けられた数値は創造に必要なCPとなります。同じ要領で、残りの英数値を読み解くと……」
「R=『錬成』。Wは……WoodSword、つまりは木刀か。Kは、Knifeか」
「ですです! 流石はシオンさんです!」
俺が正解を言い当てると、カノンは跳ね回り喜びを表現する。
「つまり、この文章はどこぞの魔王が書いた、数多の魔王に宛てた文章?」
「ですねぇ。ネット上で創造を暴露するアホな魔王は多いですが、創造CPまで暴露している魔王は、私がネットで探した限り皆無でしたぁ。と言うことは、配下を創造するのに必要なCPを知っている、この文章を書き込んだ主は……魔王で間違いないと言うことになりますぅ」
「そして、これを書いた者を魔王と理解し、協力し合えると感じた魔王は、ここに記載されたメールアドレスにメールをしろと?」
「そうなりますね。どうしますかぁ?」
カノンが俺へと尋ねる。
「回りくどいことするな……」
「恐らくですが……この程度が読み解けない魔王は不要ということじゃないでしょうかぁ?」
この程度が読み解けないと言った瞬間に、鼻がプクッと膨れたカノンを見て多少苛つく。
「そういえば、話は変わるがサブロウからカノンを《吸収》したいとの申し出を受けたが、受理してもいいか?」
「えっ……!? 話変わりすぎていませんかぁ? ……ごめんなさい。何をしたら許して貰えるでしょうか……。土下座でしょうかぁ……。あ!? でも、シオンさんなら別に吸しゅ――」
「んで、話を戻すが……こいつの目的は何だと思う?」
カノンは顔面を蒼白にし、小刻みに震える。その後、アホな提案をする予感がしたので、話を戻すことにした。
「――な!? 今の会話に意味はあったのですかぁ!?」
「ない」
強いて言えば、ドヤ顔のカノンに苛ついただけだった。溜飲の下がった俺は、掲示板に書き込んだ主の目的を推測する。
「可能性その1。友好関係を築きたい……もしくは、互いの不干渉を目的とした条約? もしくは、それ以上の同盟関係? 但し、この文章は不特定多数の魔王に宛てられている。ならば、魔王の所在地も不明だ。仮に文章を書いた主が北海道の魔王なら……金沢にいる俺と同盟を結ぶ必要性はあるのか? ……ないな」
俺は考えを纏める為、そしてカノンに伝えるために、敢えて声に出して呟く。
「う……シオンさんの独り言が始まったぁ。そして、1人で完結してるぅ」
「う……って、お前。一応、自称参謀にも相談する可能性もあるから、聞き逃すなよ?」
「あ!? はぁい!」
賢いのか、賢くないのか……恐らく賢くない自称参謀に呆れながら、考察を続ける。
「可能性その2。情報の共有。人類はインターネットを駆使して情報を共有している。支配領域のハザードランク。クラスの特性。クラスアップ先の情報……さながら対魔王の攻略サイトだな。対して、魔王はその性質上情報の共有化は図りづらい。顔も、名前も、場所も、連絡先も知らないのであれば……情報を共有する手段はインターネットに限られる。しかし……ここで問題。カノン、インターネットによる情報共有のデメリットは?」
「えっ!? いきなりクイズ形式!? えっと、えっと……」
「残念時間切れ。正解は、人類にも情報が露呈し対策を練られてしまう。しかし、この問題を打開する方法は……?」
「特定の者……魔王だけが閲覧出来るサイトの構築でしょうかぁ?」
「チッ! 正解」
「――な!? な、なぜに舌打ちなのですぅ……」
オーディエンスを飽きさせないために、クイズ形式を用いたが、あっさりと答えられると、それはそれで面白くなかった。
「例えば……この文章を書き込んだ魔王は、魔王であることが露呈しないように工夫をした。つまり、人類にバレないように情報を共有出来る魔王を集めている? 魔王しか閲覧出来ない情報サイトを閲覧出来るメリットは大きい。但し……カノンから得られる以上の有意義な知識があるのかが問題だな」
「えっ? 何て言いましたぁ? 最後の台詞をもう――」
「可能性その3。罠。他の魔王の情報を得ようとしている魔王の罠。魔王から聞き出した情報を元に人類が仕掛けた罠」
「基本的に人間……あ!? 元人間の魔王も含めて、全員救いがたい生き物ですからねぇ」
カノンから闇が溢れる。
「俺の推測はこんな感じだな。可能性1は除外して、カノンはどう思う?」
「うーん……そう言われると難しいですねぇ」
カノンは首を捻って、答えに悩む。
「ちなみに、メールを送るだろ。そして招待されたとするだろ? その時点で、こちらがデメリットを被る可能性ってあるか?」
「こちらから情報を提示しなければ……強いて言えば、ウィルスに感染するとかじゃないですかぁ?」
「カノン。人類から奪ったスマホで、使えるスマホ何台かあったよな?」
「初期化して使えるようにしたスマホは10台以上ありますよぉ」
「フリーメールを取得して、適当なスマホでメールを送ってみるか」
「了解ですぅ」
方針の決まった俺とカノンは早速準備に取りかかる。
「メールアドレス出来ましたぁ!」
「どれどれ……――!?」
カノンが取得したメールアドレスは『saburoushine114514@free.com』となっていた。
「カノン……このメルアドは……」
「え? 何ですかぁ?」
「いや、何でもない……空メール送ればいいのか?」
「送ってみますねぇ」
ドン引きする俺に対し、カノンは満面の笑みを浮かべながらスマートフォンを操作する。
――~♪
空メールを送ると、返信は即座に返ってきた。
『汝が同族Mたる証拠を提示せよ』
「どう返信しますかぁ?」
「そうだな……『H:K=10。D=50』って返信すればいいんじゃね?」
「コボルトとダークエルフですね! 了解ですぅ」
すると、今度は返信がなかなか返ってこなかった。
「この文章って色んな掲示板に書き込まれていたんだよな?」
「ですぅ」
「イタズラメールや迷惑メールも多くて、精査するのに時間が掛かっているのかもな」
「その可能性はありますねぇ」
結局3日待っても返信が来ることはなく、リナとクロエは2人の魔王が存在する支配領域へと到着。俺も侵略に加わるべく、支配領域を後にするのであった。
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