vs魔王アリサ12


 は?


 スマートフォンから鳴り響く、聞き慣れた激しい電子音。


 念の為、スマートフォンの画面を確認すると……。


 予想通りの文章――『侵入警報』の四文字が表示されている。


 今って《宣戦布告》中だろ? つまり、俺の支配領域に侵入出来る勢力は――魔王アリサの勢力のみ。


 は? 魔王アリサはまだ余力を残していた……?


 俺は大慌てでスマートフォンを操作して、魔王アリサの支配領域を隣接する支配領域の入口を次々と確認する。


 ――!


 発見! 第二十八支配領域の入口付近にて不穏な集団――魔王アリサの一団を発見した。


 侵入者の数は僅か8体。但し、全員がBランク。ゴブリンジェネラルが4体と、ハイピクシーが4体。その全てが高ランクのアイテムを装備している。


 特に目を引くのは……ユニークアイテムであるBランクの杖――『ヴァナルガンド』を装備した装備したハイピクシー。


 ……ん? って、ちょっと待って。アレは本当にハイピクシーか?


「カノン! ちょっと来い!」

「はぁい」


 俺はカノンを呼び寄せて、画面に映るハイピクシーらしき魔物の姿を確認させる。


「カノン、こいつはハイピクシーか?」

「えっとぉ……。――!? え? ウソ!? シ、シ、シオンさん! か、彼女はハイピクシーじゃありません! ランクAの魔物『ティターニア』もしくは――」


 画面に映ったハイピクシーらしき魔物の姿を見たカノンが、狼狽しながら答える。


「――魔王アリサですよぉ」


 追い詰められた魔王アリサは活路を見出し、俺の支配領域へと攻め入って来たのであった。



 ◆



 スマートフォンの画面には惨劇が映し出されていた。魔王アリサ率いる7体のBランクの魔物は、念の為に配置してあったグールやウルフを虐殺しながら、俺の支配領域の侵略をハイスピードで進めていた。


 完全に油断していた。後は魔王アリサを追い詰めるだけと慢心していた。攻められることなどないと、防衛の準備を疎かにしていた。数に物を言わせたグール、ウルフ、ゴブリンの集団は、無惨に倒され……時間稼ぎの為に投入したリビングメイルは短所である敏捷性が仇となり、相対することなく素通りされる。


 最大戦力である、リナとクロエの部隊は魔王アリサの支配領域の奥にいる。呼び戻すにしても、多大な時間が必要になる。魔王アリサの支配領域の入口付近に控えさせた予備戦力の配下たちを呼び戻したとしても……ハイスピードで侵略を続ける魔王アリサに追いつくのは厳しいだろう。


 ランクBの配下――ダンピールを量産して対抗すべきか?


 悩んでいる間にも、1体、また1体と配下たちが倒される。


 ダンピールたちで魔王アリサの一団を止められるのか……。失敗すれば、多大なCPを無駄にするだけではなく、今後の打てる策も狭まってしまう。


 小出しは無意味だ。やるなら、最大戦力を投入しないとダメだ。


 支配領域に残っているランクC以上の配下は……リビングメイル100体。ウェアウルフ30体。リリム30体。ダンピール10体。ランクD以下の配下は無数にいるが、投入しても無駄に命を散らす可能性が高い。


 俺のCPは現在4200。ダンピールを創造するのに必要なCPは120。普通に考えれば35体創造出来るが……装備させるアイテムを錬成するCPも考慮する必要がある。


 アイテム錬成のみにして、今いる配下を強化した方が得策か?


 悩んだ末に、4200のCPを全てアイテム錬成に費やし、10体のダンピールにCランクのアイテムを装備させ、50体のグールと50体のジャイアントバットと共に、魔王アリサへの迎撃命令を下した。


 迎撃メンバーは《転移B》にて第二十八支配領域の3階層へと転移。魔王アリサを待ち受けるのであった。



 ◆



「おいおい……ウソだろ?」


 迎撃メンバーと魔王アリサが相対してから1時間。


 スマートフォンに映し出されたのは――地に立つ一人の魔王と7体の魔物。


 俺の配下は一人残らず地に倒れていた。


「強すぎじゃね?」

「ですねぇ……とは言え、見たことのある光景ですぅ」


 俺の呟きにカノンが答える。魔王アリサの一団は確かに強かった。特に魔王アリサの範囲魔法は反則と言っても差し支えないレベルで凶悪だった。とは言え――カノンの言ったとおり、スマートフォンに映し出された光景は細部が異なるが見たことのある光景だった。


 どこで見た光景か? それは、リナやクロエたちが敵の支配領域を侵略しているときの光景だった。圧倒的な個の強さで無数の敵を葬り去り、無数の屍の中で唯一地に立つ頼もしき配下。


 リナたちに支配領域を侵略され、朽ち果てた魔王たちは、今の俺と同じ気持ちを抱きながらスマートフォンに映し出された画面を見ていたのだろうか。その光景はまさしく、悪夢の一言であった。


「どうするんですかぁ?」


 カノンが俺へと尋ねる。


「そうだな……。第二十六支配領域は放棄する」


 俺は考えた結果、ベターと感じた選択肢を答えた。


 何も焦る必要は無い。魔王アリサがほんの少し生き長らえるだけだ。第二十六支配領域を奪われたとしても、こちらはリナとクロエが魔王アリサの支配領域を二つ支配する。支配領域を一つ失って、二つ得る。単純にプラス1だ。結果として、俺の支配領域は44から45になり、魔王アリサの支配領域は4から3になる。


 最終的に戦力を集結させて魔王アリサを討ち取れば、俺の勝ちだ。


 俺は気持ちを切り替えて、勝利へと繋がる道を想像するのであった。



 ◆



 翌日。

 全ての配下を撤退させた第二十六支配領域を魔王アリサは我が物顔で侵略。結果として、リナとクロエが支配領域を支配するより先に第二十六支配領域を、俺から奪い取った。


 魔王アリサから遅れること1時間。リナたちの部隊が支配領域の支配に成功。クロエたちも現在は10階層を攻略中。最奥の【真核】まであと僅かだろう。


 第二十六支配領域を奪われるというアクシデントはあったものの、それ以外は計算通りに物事が進んでいると思った矢先――


 最悪の事態が発生したのであった。

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