vs魔王アリサ11


 魔王アリサに《宣戦布告》をされてから10日目。


 侵略してくる敵の数は目に見えて減少していき、そろそろ敵の兵力が底を尽きたように思えた。


「今日も来ると思うか?」

「うーん、どうでしょうかぁ? 昨日は確か百体ほどで打ち止めでしたよねぇ?」

「そうだな」


 確認出来ているだけで、魔王アリサの生き残っている眷属の数は12体。LPのキャパシティーを限界まで使用すれば百体以上の魔物を配下として引き連れて来れるだろう。この期に及んで、戦力を出し惜しみするとも思えない。


「そろそろ反撃開始ですかぁ?」

「そうだな。でも、可能ならもう一度侵略されたいが……」


 ――ビィィィィィ!


 俺の祈りが通じたのか、スマートフォンが敵の侵入を告げる電子音を響かせた。


 スマートフォンのライブ映像で侵入された第二十六支配領域の入口の様子を確認すると、見慣れた眷属たちと共に、50体ほどの魔物が姿を現わした。


「お? 今回はいつもと構成が違うな」


 いつもは、数に物を言わせたゴブリンを中心とした軍勢であったが、今回はゴブリンジェネラルや、ハイピクシーと言った高ランクの魔物が多く混ざっている。CPは底を尽きたのか、対俺用の銀製品を装備した魔物の姿は1体もいない。


「各支配領域を守護する魔物を集結させたのでしょうかぁ?」

「どうだろな。どちらにせよ、魔王アリサは切羽詰まっているってことだ」


 配下たちは慣れたもので、スマートフォンの侵入警報の音が響いたと同時に、それぞれの獲物を手にして第二十六支配領域の入口へと向かおうとする。


「クロエ」

「ハッ!」


 俺は愛用の弓――イチイバルを抱えたクロエを呼び止める。


「クロエの部隊はここで待機せよ」

「畏まりました!」

「休息っすか!?」


 クロエの部隊に待機を命じると、ブルーが一人喜びの声を上げる。


「今回は侵略してきた敵を全て殲滅する!」

「「「ハッ!」」」


 そろそろ生かし続けた眷属にも退場願おうか。


 俺は、士気が高まった配下と共に【転移装置】を経て、第二十六支配領域の入口へと向かうのであった。



 ◆



 第二十六支配領域の入口付近では、すでに24時間防衛を続けているリビングメイルたちと侵略者が激しい戦闘を始めていた。


 敵は数を捨てて、質で勝負を仕掛けて来たか。


 ならば、こちらは数の力で圧倒しようではないか。


 今回は、最初から全兵力を総動員した。第一陣、第二陣など、小賢しい真似などしない。集結させた全兵力を、魔王アリサ支配下の眷属合わせておよそ60体の敵にけしかけた。


 空中ではジャイアントバットが宙を舞いながら超音波を鳴らし、後方からは無数の弓矢と魔法が侵略者に降り注ぐ。地上ではウルフの大群が集団で敵を翻弄し、無数のグールが敵へと押し寄せる。


 そして、動きが阻害されグールやウルフに気を取られた敵をリナたちが1体ずつトドメを刺していった。


 個の力で勝り、数でも勝る。更には地の利すら有利なこの状況で、敵は為す術も無く1体、また1体と数を減らしていくのであった。


 レベル上がらないかなぁ……。俺はリビングメイルの後ろに隠れながら、ゲイボルグで目の前の敵を刺突する。


 こんなにも大量に、且つ安全に経験値を稼げる機会など滅多に無い。


 俺は減りゆく敵の軍勢を見て、ホッとしたような、寂しいような、複雑な感情を抱きながらゲイボルグを振るい続けるのであった。


 敵の数も眷属を含めて20体未満になると……。


「退け! 退け! 撤退だ!」


 敵はお決まりの台詞を叫んで、敗走を始める。


 いつもは、この敗走を許していたが――。


 ――クロエ! 【帰還装置】を使用して入口へ回り込め! 1体も敵を逃すな!


 ――1体も敵を逃すな!


 待機を命じていたクロエの部隊に、追撃の命令を下すと同時に、敏捷性に優れるウルフの集団に敵の足止めを命じる。


「――!? 目障りな犬っころが!」


 今までと異なり、敗走を許さないこちらの布陣に敵は焦りの声を上げる。


 一度経験するとわかるが敗走する敵を倒すと言うのは、中々に困難であった。せめて、回り込んで、囲めればよいが……単純に後ろから追いかけて攻撃を仕掛けるのは難易度が高かった。


 その為、俺は追いかけるのを諦めて魔法による追撃を選択した。


 ――《ダークアロー》!


 無数の闇の矢が敗走する敵の背に降り注ぐ。逃げ惑う敵に命中させるのは難しかったが、数本の矢は敵の背に突き刺さった。俺は配下への誤射のみを気を付けて、《ダークアロー》を放ち続けた。


「ハァハァ……もう少しだ……生き延びてアリサ様の元に――」

「それは無理っす」


 俺たちの追撃から逃れて、入口に辿り着いたゴブリンブレイバーの顔面をブルーの振り下ろした斧が両断する。


「――な!? な……なぜ!?」

「イヤァァァアア!?」


 入口まで辿り着き、ホッと安堵の表情を浮かべた敵たちを入口で待ち伏せたクロエたちが絶望へと叩き落とす。


「マスターの恩命だ! 1体も逃すことは許さん!」


 クロエたちは敗走する敵の行く手を阻むように、横へと広がり武器を構える。


「ウ、ウ、ウワァァア――」

「フッ!」


 自棄を起こして武器を振り上げたゴブリンファイターを、背後から追いついたガイが鋭い爪で切り裂く。その後も、後方から迫るリナたちと行く手を塞ぐクロエたちに囲まれた敵は、決死の覚悟で攻撃を仕掛けるが……多勢に無勢。


 10分と満たない僅かな時間で、全ての侵略者は地に倒れたのであった。



 ◆



 全ての侵略者を駆逐した後、配下たちには1時間の休息を与えた。


「リナ」

「何だ?」

「今回は侵略する人数に制限は無いが……何人必要だ?」

「そうだな……。敵の残っている戦力にもよるが、いつものメンバーで問題ない」


 リナは少し悩むが、結局はいつものメンバーで良いと答える。


「別に百体以上引き連れて侵略してもいいんだぞ?」

「シオンがそれを望むならば従うが……侵略が遅れるかもしれないぞ?」

「やっぱり?」

「百体で足並みを揃えるのは容易ではない。そもそも、経験が無い」

「わかった。とりあえず、支配領域の入口までは百体の配下と共に侵略しろ。そこから先はいつものメンバーで侵略だ。猶予は20日間。その期間でクロエの部隊と共に9つの支配領域を支配出来るか?」

「善処する」


 今回は、リナたち稀少な配下の安全性もさることながら侵略スピードも重要となる。


 侵略するのは俺ではない。俺は支配領域侵略の経験が豊富なリナの意見を尊重することにした。


「リナ、クロエ、任せたぞ」

「任された」

「ハッ! マスターの恩命果たして参ります!」


 俺はカノンと共に、リナとクロエの部隊、それに万が一に備えての三百体の配下たちの出発を見送るのであった。



 ◆



 リナとクロエの部隊が魔王アリサの支配領域侵略を始めてから10日後。


 支配領域の侵略は順調であった。9つあった魔王アリサの支配領域も、今では3つまで減少していた。


 魔王アリサは《宣戦布告》してからの最初の10日間――俺の支配領域への侵略に全てを賭けていたのであろう。こちらから侵略を仕掛けた魔王アリサの支配領域には、護るべき魔物はほとんど存在していなかった。迷路のような複雑な構造には辟易としたが、それ以外は障害と呼べる障害もなく、順調に支配領域を支配していった。


 現在、リナたちは8階層を攻略しており、クロエたちは9階層を攻略していた。


 このままのペースで行けば、今日中に2つの支配領域が新たに俺の支配領域となり、3~4日後には、金沢市内で俺に敵対する魔王は一人も存在しなくなるだろう。


 気になるのは魔王アリサの所在地だ。転移を繰り返して逃走しているのだろうか? もしもそうならば、願ったり叶ったりだ。最後の支配領域に閉じこもるならば、リナとクロエが合流して、戦闘を仕掛けることが出来る。


 最大の懸念材料であった、魔王アリサの討伐のリスクが軽減するのは、実に喜ばしい。


 最良へと向かっている未来に、ほくそ笑むと……。


 ――ビィィィィィ!


 スマートフォンから激しい電子音が鳴り響いたのであった。


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