vs魔王アリサ②


(リナ視点)


 ――侵入を開始しろ。


 シオンの命令に従い、私は仲間と共に魔王アリサの支配領域の中へと侵入。クロエ率いる部隊もシオンの命令に従い、同時刻で私たちとは別の支配領域から侵入を開始する。


 木々が生い茂る深い森の中を私たちは慎重な足取りで、奥へと進む。


 ふぅ……。大丈夫。やれるはず……。


 私は半年以上の付き合いとなった愛剣――ダーインスレイブの柄を強く握り締める。


 この支配領域の中には、多種多様な妖精種の魔物。そして――人類が存在している。


 人類の目的は――魔王アリサの配下の掃討。ターゲットは私たちではない。とは言え、敵の敵は味方、と単純にはならない。人類は私たちと遭遇をしたら、間違いなく敵対してくる。


 私達――【カオス】は、すべからく【ロウ】(人類)の敵なのだから。


 果たして私は人類と敵対出来るのだろうか? ――人類を殺せるのだろうか?


 ダーインスレイブを握る手には、知らずに汗が滲む。


「リナ、大丈夫か?」

「あ、あぁ……大丈夫だ」


 レイラが私の異変を察知して声を掛けてくる。


「ふふっ。リナちゃんは元人類だからね~。人類との戦闘は私たちに任せてもいいのよ~?」

「私もシオンの眷属。心配は無用だ」


 茶化すように声を掛けてきたフローラに私は、虚勢を張る。


 ――リナ、基本的には人類との戦闘は避けろ。わざわざ魔王アリサを喜ばせる必要はない。


 シオンはいつでも私たちの様子を確認している。声も聞こえているらしい。


「大丈夫だ!」


 私は姿の見えぬ主――シオンに対して大声を上げる。


「姉御! 声を張り上げるのはまずいぜ」

「フッ。リナ孃。人類は我らに任せよ」

「下等な人類が無理をするな」


 レッド、ガイ、ダクエルも私に声を掛ける。


 私は仲間に恵まれているな。


 シオンの配下になってから――レイラたちと共に支配領域侵略を始めたから半年以上が経過していた。僅か半年、然れど半年。私は仲間との確かな絆を感じた。


「私の名前はリナ=シオン! 心配は無用だ!」


 私は仲間達に自分の名前を宣言し、己を鼓舞した。


「フッ。リナ孃の声に、下等な生物が招かれたようだ」


 ガイが森の奥へと視線を送りながら嘆息する。ガイの視線の先――森の奥から無数のゴブリンと妖精が姿を現した。


 ゴブリンと一纏めにしているが、弓を手にしたゴブリン、斧を手にしたゴブリン、中には重装備のゴブリンまでも存在する。妖精も、カノンと同じ種類であるピクシー以外にも炎の魔法に長けたカボチャ頭のジャック・オ・ランタン、雪ダルマにしか見えないジャックフロスト、小さな杖を手にしたコロボックルなど、多種多様な妖精が混在していた。


「魔王カンタの支配領域とは違い、敵も華やかだな」

「ハッ! 所詮は虫ケラ! 鬼種より劣る種族共よ!」


 妖精の集団を目にした私の言葉に、レッドが過剰に反応。


「戯れ言は終わりにしろ。あのデカブツは私が殺る」


 レイラが漆黒の鞭をしならせながら、重装備のゴブリン――ゴブリンジェネラルへ殺意の籠もった視線を送る。


「1人で大丈夫か?」

「舐めるな」


 私がレイラに視線を送り問い掛けるが、レイラは視線を返さずに答える。


 ――アイアン! リビングメイルたちと壁を作れ!


 シオンの命令が下され、アイアンたちは私たちを守るように前進し、構えた盾を打ち鳴らす。盾を構えたアイアンたちに妖精たちの放った魔法が放たれた。


 激しく巻き起こる風の刃に炎による爆発音が――魔王アリサの配下との戦闘の合図になったのであった。



 ◆



 ――ヒュッ!


 ダクエルたちダークエルフたちの放った弓矢が風を切り裂く音を奏でながら、魔法を放った妖精たちに吸い込まれる。リリムたちが放った魔法がこちらに突進してくるゴブリンたちを激しく吹き飛ばす。


「フッ。今宵も我が爪は血に飢えている!」


 疾風の如く駆けたガイが魔法で吹き飛ばされたゴブリンを爪で切り裂き、続いて飛び出した私はダーインスレイブを振るい、ゴブリンたちを斬り裂いていく。


「カッカッカ! 虫ケラ共が!」


 続けてレッドが鈍器を振り回し、ゴブリンを纏めて吹き飛ばす。


 まさしく乱戦。

 互いの背後から弓矢と魔法が飛び交い、前線では互いが武器を振るい合う。魔法が引き起こした爆発音、弓矢が奏でる風切り音、そして金属同士が衝突する音が響き合う戦場で、私はダーインスレイブを振るってゴブリンたちを駆逐する。


 ――リナ、ガイ。背後の妖精共を駆逐しろ。レッドとその他の配下は、そのまま前線でゴブリンたちを駆逐せよ。


 シオンが下した命令は私たち配下全員に共有され、そのまま連携した行動へと繋がる。


 レッドやアイアンたちは私とガイの目の前に立ち塞がるゴブリンを引き受け、私とガイはその隙に後方から好き勝手に魔法を放つ妖精たちへと一気に迫る。


 妖精の弱点は耐久性。私は慌てて距離を取ろうと後退する妖精を、背後から容易く斬り捨てる。ガイもその素早さを活かして、妖精の背に生えた脆弱な羽根を無情に切り裂く。


 なるほど。確かに戦闘経験が不足しているな。


 目の前の妖精やゴブリンたちは明らかに戦闘経験が不足していた。機械の様に規則正しい間隔で放たれる魔法。位置取りを誤り、攻撃が阻害されるゴブリンたち。


 敵の数は脅威であったが、頼れる仲間と培った連携力を武器に私たちは敵を1体ずつ駆逐していくのであった。



 ◆



 一時間後。


 度重なる増援も止み、周囲にはおびただしい数の敵の亡骸が地に倒れていた。


 残った敵はゴブリンジェネラル1体。ミスリル製の装備に身を固めた強敵であったが、その姿は無数の鞭で切り裂かれ、瀕死の状態であった。


「チッ。しぶとい」


 レイラは舌打ちをすると、私たちに助太刀は無用とばかりにゴブリンジェネラルに攻撃を続ける。


 ――リナ、背後からゴブリンジェネラルを攻撃しろ。


 しかし、無情にもシオンから命令が下される。シオンの命令は個別にも伝えることが出来るが、私たちには敢えて全員に伝わるように命令を下す。そして、シオンの命令には誰も逆らえないし、異を唱えることは出来ない。


 私はシオンの命令に従い、背後からゴブリンジェネラルを斬り付ける。


「#&$%」


 背後から攻撃されたゴブリンジェネラルが振り向き、私へ視線を向けるが……。


 ――レッド、叩き潰せ。


「あいよ!」


 相手を叩き潰すことに特化した鈍器――ヴァジュラを全力でゴブリンジェネラルに叩き込む。


 激しい衝突音が周囲に響き渡り、ゴブリンジェネラルは頭部に装備したミスリル製の兜ごと、頭を陥没させる。


 ――レイラ、トドメだ。


「はっ!」


 最後はレイラの放った漆黒の鞭――冥府の鞭が痙攣するゴブリンジェネラルの首に絡みつき、その命を奪い去った。


「レイラ……」

「シオン様の命令だ。そのお言葉は何よりも尊い」


 レイラにフォローを入れようと思ったが、必要はなかったようだ。


 私はホッと胸を撫で下ろし、森の奥へと進むのであった。


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