vs魔王アリサ①


 祝勝会の翌々日。


 魔王アリサの支配領域へと侵攻する配下を一同に集めた。


 侵攻メンバーは48名。24名×2部隊にて構成。


 第一部隊は元勇者のリナを筆頭に、ダンピールのレイラ、リリムのフローラ。ウェアウルフのガイ、オーガウォリアーのレッド、リビングメイルのアイアン、ダークエルフのダクエルが主力メンバーの眷属として参加。眷属の配下として、ダンピール3体、リリム3体、ダークエルフ3体、リビングメイル5体、ウェアウルフ3体が参加。


 第二部隊はダークハイエルフのクロエを筆頭に、ゴブリンチェイサーのブルー、コボルトジェネラルのシルバー、ウェアウルフのホープ、オーガジェネラル(♂)のノワール、オーガブレイバー(♀)のルージュが主力メンバーの眷属として参加。眷属の配下として、ダークハイエルフ1体、ゴブリンスナイパー1体、コボルトランサー1体、ウェアタイガー1体、オーガソルジャー6体、リビングメイル8体が参加。


 第二部隊には戦力のバランスを考えて、新たに眷属にした2人の鬼種を加えた。ノワールは端的に説明をすれば黒鬼(♂)。対してルージュは赤鬼(♀)だった。それぞれが2体しかいない稀少な配下の為、防具にはかなり気を遣った。


 第一部隊、第二部隊共に参加メンバーには最低でもCランクのアイテムを授与しており、第一部隊には全ての配下を、第二部隊にはリビングメイルとオーガソルジャーを犠牲にしても構わないと伝えてあった。


「魔王アリサの支配領域侵攻を開始する前に、伝えることがある」


 俺は集まった配下の顔を見回して、昨日の調査で知り得た情報を伝達する。


「魔王アリサの支配領域は――それぞれが【転移装置】で繋がっている」

「えっ? いつの間にそんな情報を?」

「お前が二日酔いで死んでいるときに」

「――!? お、お前!? いつものようにカノンと――」

「黙れ」


 小うるさい検索ツールカノンに絶対零度の視線を浴びせ、黙らせる。


 昨日のあり得ない現象と、ゴブリンが命と引き換えに与えてくれた情報から推測した結果が――魔王アリサの支配する12の支配領域は【転移装置】で繋がっているという情報であった。


 本来であれば防衛する地点が集約出来なくなるので、有象無象にそれぞれの支配領域を【転移装置】で繋げるのは愚策であった。


 ならば、魔王アリサはなぜそのような施策に出たのか――


「恐らく、侵略してきた人類と俺たちを争わせるのが目的だ」


 魔王アリサの支配領域が人類の掃討大作戦に選ばれた理由は、俺が仕掛けた工作活動が原因だ。人類は気付かなくても、仕掛けられた魔王アリサは今回の黒幕――俺の存在と狙いに気付いているだろう。


 俺の予定通り――魔王アリサの予想通りに、俺は魔王カンタの支配領域を支配した。ならば、次なる俺の行動となる――魔王アリサの支配領域侵攻を予想するのは容易いだろう。


「つまり、私たちは人類とも争うことになると?」

「そうなるな」


 苦悶の表情を浮かべるリナの質問に答える。


「いけるか?」


 無理と言われても困るが、リナに尋ねる。


「無論……。今の私は魔王シオンの配下『リナ=シオン』だ」

「助かる」


 苦悶の表情を打ち払い、胸を張って答えるリナに俺は軽く頭を下げる。後ろからはクロエやレイラが「当然だ」と、誇らしげに微笑していた。


「暗闇(ダーク)ゾーンには十分注意してくれ。具体的には、手を繋いで先に進め。先頭が【転移装置】を踏んだら、落ち着いて転移先でもう一度【転移装置】を踏んで戻れ。暗闇ゾーンを抜けた先には、二階層に続く階段があるはずだ」


 俺は注意事項を続ける。不安が表情に表れないように、早口で伝える。


 入口から二階層へと至る道は必ず存在する。《支配領域創造》の仕様上、道は繋げる必要があるからだ。俺の予想では、暗闇(ダーク)ゾーン内の【転移装置】を超えた向こう側に二階層へと続く階段があると踏んでいる。


「あとは……そうだな……じっくりとマッピングをしながら侵略を進めてくれ。眷属たちに関しては、くれぐれも自分の命を最優先に考えて行動しろよ」


 今回、俺が優位に立っているのは配下――リナを筆頭とした眷属の個の力だ。出来れば、1人も失いたくはない。


「シオン……作戦は以上か?」

「……そうだな」

「では、行ってくる!」


 俺は期待と不安を抱きながら、【帰還装置】で消えゆく配下たちを見送るのであった。



  ◇



 (クロエ視点)


 創造主(マスター)に見送られ、私たちは怨敵なる魔王アリサの支配領域への侵攻を開始した。


 私は見送るマスターのお姿を思い出し、全身を震わせる。


「クロエどうしたっすか? トイレなら――ギャ!?」

「愚か者!」


 低脳なゴブリン――ブルーへ裏拳を見舞う。


「貴様は気付かないのか! マスターの……お気持ちに!」

「えっ?」

「あの……不安そうな目……愚かな私たちを労る優しきお言葉……」

「いつもの病気トリップっすね」

「私は悔しい! 怒りでこの身が張り裂けそうだ!」

「今回は重篤っす……」

「これも全て私たちが弱いのが原因だ!」

「えっ!?」

「私は脆弱たる我が身が憎い! そして、何より……マスターを不安にさせた魔王アリサが憎い!! 行くぞ! お前たち! 下等なゴブリン共を駆逐するぞ!!」

「いや、ゴブリン以外の敵もいるっすよ……」


 マスター! 見ていて下さい! このクロエ=シオン! 必ずや、マスターの恩命を成し遂げて見せます!


 私はマスターの不安を払拭すべく、怨敵――魔王アリサの支配領域へと攻め込むのであった。    

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