vs魔王アリサ③
先程の大規模な襲撃以降は敵の襲撃もなく、私たちは順調に1階層の侵略を進めていた。
――!
先頭を歩いていた1体のリビングメイルの姿が、突然消失。
消失の理由は――【落とし穴】だ。
私たちはリビングメイルが消失した場所に近付き、深さ3メートル程の【落とし穴】の中を覗き込む。中には、リビングメイルが尻餅のような形でカタカタと震えていた。
幸いにも、支配領域の中に設置された罠――【落とし穴】の中には殺意を剥き出しにした、剣山などの仕掛けは施されていない。中に仕掛けがあったとしても、シオンがなぜか支配領域に設置している肥溜め(糞尿入り)くらいだ。
シオンの支配領域の様なダンジョンタイプであれば、【落とし穴】は床の色が違うので発見は容易なのだが……森の中では土に隠れており発見は困難であった。
私たちは【落とし穴】に落ちたリビングメイルを救出。【落とし穴】の位置を地図に記入してから、先へと進んだ。
その後も【落とし穴】に3回ハマり、数回の小規模な敵の襲撃を撃退。仲間からの脱落者は出ないままで森の中を奥へと進むと――
「これがシオンの言っていた……」
私たちの目の前に、全ての視界を遮る闇の空間――暗闇(ダーク)ゾーンが現れた。
シオン曰く、暗闇(ダーク)ゾーンの中には【転移装置】が設置されており、他の支配領域へと転移させられるらしい。対策として、『手を繋いで先に進め。先頭が【転移装置】を踏んだら、落ち着いて転移先でもう一度【転移装置】を踏んで戻れ』だったか? シオンが私たちに送った言葉を思い返した。
私は仲間の顔を見回し視線を交わすと、互いに手を繋ぎ暗闇(ダーク)ゾーンの中へと足を踏み入れた。
暗闇(ダーク)ゾーンの中は、視界ゼロの空間であった。夜の暗さとも全く異なる、一切の視界が闇に覆われた空間であった。私は両手に感じる仲間の感触を頼りに、暗闇の中を一歩ずつ、慎重に歩みを進める。
――止まれ!
突然、頭の中に響く主――シオンの命令に身体が軽く震える。
恐らく先頭を歩いていたリビングメイルが【転移装置】を踏んだのであろう。私はシオンの命令に従い、暗闇の中で待機を続ける。
暫くすると仲間と繋いだ手に微かな震動を感じた。
戻ったのか?
しかし、シオンからは何も命令が来ない。
私は待機を続ける。視界ゼロの暗闇の先からは、何度も金属が擦れる音――リビングメイルが何らかの行動を起こしている音が響いてくる。
何をしている? シオンはリビングメイルに何をさせている?
――引き返せ。
苛立つ声のシオン命令が頭に響く。
私は、後方の仲間に手を引かれながら、慎重に暗闇(ダーク)ゾーンから抜け出すのであった。
◇
(シオン視点)
「だぁぁああ!? どうすればいい!」
俺は苛立っていた。苛立ちの原因は、先程の暗闇(ダーク)ゾーンの中での出来事だ。
俺は先頭のリビングメイルの視界をスマートフォンに映して観察していたのだが、暗闇(ダーク)ゾーンの中に入ってしまえば、何も映らない。
【転移装置】を踏んだことは把握出来るが……転移した先も暗闇(ダーク)ゾーンだ。
【支配領域創造】は原則として、入口から次の階層に繋がる階段に至る道を閉ざすことは出来ない。つまり、【転移装置】を踏まずに先に進めば、必ず2階層へと至る道へと続くはずなのだ。その為、俺は先頭を歩いていたリビングメイルに【転移装置】を避けて先に進めないかと、様々な指示を出し続けた。
回り込むのも無理、飛び越えるのも無理……。どうしろと?
暗闇(ダーク)ゾーンの先に道はない?
――リナ、暗闇(ダーク)ゾーンは無視して周辺のマッピングを進めてくれ。
俺はリナに新たに指示を下した。
その後周囲を索敵するリナたちの様子を観察した。
◆
6時間後。
結果として、2階層へと続く階段は発見出来なかった。代わりに宝箱を1つ発見したが、中身は木刀だった。今なら、木刀を投げ捨てた故うぇーいwww氏の気持ちが少し分かる。
別部隊であるクロエたちも、リナたちと同様に暗闇(ダーク)ゾーン+【転移装置】の罠を超えられずに停滞していた。
俺は地面にゲイボルグを用いて描いた簡易的な地図に視線を落とす。
○○○ ??
入口○○○●◎●??階段
○○○ ??
※○=踏破地帯 ●=暗闇ゾーン ◎=【転移装置】 ?=未踏破地帯
全員を転移させて、転移先の支配領域を侵略させるのがベストなのか?
しかし、場所によっては支配してもすぐに奪い返される可能性もある。可能であれば、俺の支配領域と地続きで支配を広めていきたい。
――!?
ん? 待てよ……。イケるな。
地図を眺めていたら、攻略法が思い浮かんだ。
――リナ、暗闇(ダーク)ゾーンの元へ移動しろ。
――クロエ、暗闇(ダーク)ゾーンの元へ移動しろ。
侵攻中の2つの部隊へと、同時に命令を下す。
距離的に近かったクロエたちが、先に暗闇(ダーク)ゾーンの前へと辿り着く。
先程と同様の手順で、リビングメイルを先頭に配下たちが暗闇(ダーク)ゾーンの中へと侵入する。慎重に歩みを進めていると、先頭を歩くリビングメイルが転移する。
――一歩だけ前へ進め。
転移したリビングメイルは俺の指示に従い、一歩だけ前へと進む。
――一歩だけ前へ進んで、転移しろ。
続いて、先程とは別の二番目に並んでいたリビングメイルへ指示を出す。指示をだされたリビングメイルは一歩踏み出し転移する。
――手を伸ばせ。
続いて出した指示に従い、リビングメイルが手を伸ばすと金属同士が触れ合う音が響き合う。先に転移していたリビングメイルとの接触への成功を示す音だった。
――手を繋いで、一歩前へ進め。
転移した2体のリビングメイルが互いに手を繋ぎ、一歩前へと踏み出す。
同様の手順を21回繰り返す。これで、オーガソルジャー1体を残し、全員が転移したことになった。転移した先では、クロエたち23体の配下が手を繋いで待機している。
俺は続いて、最後に転移したノワールに命令を下す。
――ノワール、一歩下がって転移しろ。
「承知」
重厚な声がスマートフォンに響き、ノワールは一歩後退して再び転移する。
――叫べ!
俺は、残ったオーガソルジャーに命令を下す。
「#&%$!!」
言葉は理解出来ないが、野太い叫び声がスマートフォンから聞こえてくる。
――ノワール、叫び声と反対方向へ一歩進め。
「承知」
これで、ノワールは暗闇(ダーク)ゾーンの中に設置された【転移装置】の向こう側へと移動した。後は、この作業を23回繰り返すだけだった。
30分後。
手間を要したが、クロエたち一行は暗闇(ダーク)ゾーンの向こう側へと無事に移動することに成功したのであった。
続けて、リナたちに同様の指示を出そうとしたその時――
向かう先であった暗闇(ダーク)ゾーンの中から、人類が姿を現わしたのであった。
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