侵略開始!②


「なるほどぉ。その説明を省いて、よく先程の質問が――」


 なぜか上から目線のカノンに、俺は苛立ちを覚える。


 ――スカートを捲し上げろ!


「えっ!? キャッ!? り、理不尽ですぅ」


「理不尽? これはカノンが俺に望んだ関係性じゃないのか?」

「た、確かに私から降伏を申し出ましたけどぉ……こういうのはちょっと……」

「まぁ、いいや。んで、カノンは今のトレンドは何だと思う?」 

「えっとですね……今のトレンドは【創造】かなぁ?」

「チッ……俺も同じだ」

「えっ!? 正解なのに舌打ちされた!?」


 今のトレンド――現在成長株の魔王が特化しているステータスは【創造】だと思う。理由は、最近急激に成長している魔王は眷属を駆使して出稼ぎに出ている魔王だからだ。【創造】特化の魔王の配下はランクが高い。逆に【肉体】や【魔力】特化の魔王は、支配領域の外に眷属を派遣しても、配下が弱ければすぐに殺されてしまう。


【創造】特化型の魔王の時代が到来していると、言っても過言ではないだろう。


 しかし、ここで一つの問題が生じる。【特化型】と言っても、ステータスは現状Bで頭打ちだ。正直、特化型じゃなくても【創造】をBまで成長させるのは難しくない。


 次なるランクAに至るまでは、まだまだ時間が必要だ。成長するのは魔王だけじゃない。人類も、もの凄いスピードで成長している。停滞していては敗者に転落するのを待つだけとなってしまう。


「周囲の魔王全員が【創造】Bへ成長した時、抜きん出るためには何が必要になる?」


「レベル10になるまでは、魔王は支配領域の外には出られないので……――!?」

「お? 気付いたか」


 カノンがパッと表情を輝かせて、何かに気付いたようだ。


「はい! 優秀な参謀――」

「違う」


 カノンは何も気付いてなかった。カノンの存在は確かに大きい。【知識】B。言い換えればBP17。レベルにして4相当の価値がある。しかし、それは口に出さない。


「俺が考えるポイントは3つある」

「出たぁ! シオンさん得意の指を三本立て――」


 ――スカートを捲し上げろ!


「キャー!? な、なぜ……」


 1人で考えるよりも良い意見が出ると思い、カノンを巻き込んだが、選択を誤ったか?


「1つは錬成だ。配下が同じランクであっても武器のランクで上回れば勝ちを拾える」

「でも、【創造】と【錬成】を共にBにする魔王は……この先増えませんかぁ?」

「増えるだろうな」


 これから先、積極的に支配領域の拡大を目指す魔王であれば、戦力の強化を図るのは必然だ。支配領域を侵略する為の戦力――つまり眷属の強化を図るのであれば、成長させる項目は2つ【創造】と【錬成】のみ。【創造】が頭打ちになったら【錬成】を成長させるだろう。


「そこで2つ目だ。支配領域の拡大。つまりは、最大CPの強化だな。【錬成】Bになると、最上級でCPを1500も消費するアイテムが存在する」

「『ゲイボルグ』ですかぁ?」

「槍だと、それだな」


 最大CPはレベルが1成長すると100上がる。単純に【創造】をBに成長させても、レベルが15までお預けだ。しかし、支配領域を拡大しても最大CPが100増える。つまり、支配領域の拡大は、そのまま戦力の強化に繋がる。


「それ以外にも大きなメリットがある。最大CPが増えると、CPの回復も早くなる。つまり、物量作戦も有利となる」

「いいことずくめですねぇ。でも、他の魔王から抜きん出るって、つまりは、支配領域の拡大ですよねぇ? 本末転倒じゃないですかぁ?」


 検索ツールカノンが、この矛盾に気付いただと!? 俺は驚きを隠しつつ、三つ目のポイントを話す。


「三つ目のポイントは、眷属の強化だ」

「もったいぶった割には、普通の――」


 ――スカートを捲し上げろ!


 配下も成長する。例えば、同じダークエルフであっても、創造したばかりのダークエルフとクロエが戦闘すれば100%クロエが勝利する。僅かではあるがステータスは成長するし、一部の特殊能力は目に見えて成長する。


「まとめると、眷属たちには今まで以上に戦闘経験を重ねさせ、周囲の魔王よりも先んじて支配領域の支配を進めさせる必要があるということだな」

「うわぁ……絵に描いたようなブラックな職場環境ですねぇ」

「何とでも言え。俺は生き残る為なら何でもするさ」

「その意見は同感ですねぇ」


 最終的にカノンは俺の意見に同意を示すのであった。


「ところで、新たに眷属を創ったら、支配領域の侵略って同時進行出来ると思うか?」

「うーん、どうでしょうねぇ? 可能かも知れませんが……成功率は下がって、生存率も著しく下がると思いますよぉ」

「だよな……」


 今の快進撃を続けられている要因はリナだ。魔物の眷属は良くも悪くも素直だった。侵略しろと命じれば、寝食を忘れて侵略を続ける。当然パフォーマンスは低下して、いずれ力尽きる。死ぬなと命令すれば、少しでも危険を感じたら戦闘を避けてしまう。それでは、一向に前へ進まない。挙げ句、罠に掛かりやすい。見え透いた罠であっても、リナが注意しなかったら罠を踏み抜いたと思われる場面は多々あった。


 ある程度勝利を想定すると、どうしても高ランクの配下を眷属にして、高ランクのアイテムを渡す必要が生じる。つまり、ハイコストだ。しかも、殺されようものなら高ランクのアイテムはそのまま敵の手に渡る。


 結局、柔軟性があり、元勇者の経験を持つリナの存在が不可欠となる。


「人類を眷属に出来たのってレアだよな?」

「そうですねぇ。ネットで調べれば、0という訳ではありませんが」

「人類の仲間抜きに、どうやって支配領域を攻めるんだ?」


 俺は他の魔王がどうやって支配領域を侵略しているのか、ふと気になった。


「私が見たのは『三重県で魔物が支配領域を侵略している!』というネット記事ですが、物量作戦みたいですよぉ? 『次々と魔物が支配領域に侵入しています!』みたいな内容が書いてありましたぁ」

「なるほど。使い捨てか……」

「私は反対ですけどねぇ。常に使い捨てだと、札束の殴り合いじゃないですけど……どこかでつまずくと思いますよぉ」

「珍しく、参謀っぽい意見だな」


 口が滑った。カノンは嬉しそうにクルクルと旋回する。


「えっ? 本当ですかぁ?」

「……ウソだ」

「なっ!?」


 上機嫌に旋回していたカノンは空中で固まるのであった。



 ◇



(リナ)


 A地区の支配領域の侵略を開始してから5日目。


 私たちを襲ってくるゴブリンの数は、日を追う毎に減少。5日目になると、アイテムを装備したゴブリンは0となり、A地区の魔王の切羽詰まった状況が見て取れた。


 そして、遂に目の前にA地区の支配領域の魔王が姿を現わした。


 A地区の魔王はどこかヒステリックさを感じさせる三十代半ばの女性だった。


「何なの? あなた達は誰なの!? 何で魔物が攻めて来るのよ!? 私の配下は外に出られないのに……ズルくない? ズルいわ! ってか、何で人類までいるのよ! はぁ? マジで意味わからないんだけど! もぉぉおおおお!? 何なのよ!」


 A地区の魔王は早口で愚痴を捲し立てる。


 身に付けているのは不釣り合いな鉄の鎧に、鉄の兜。女性用のスーツの上から着込んだその姿がどこか滑稽で、鉄製の杖を両手で握り締めている姿は及び腰であった。


 杖を持っているという事は……【魔力】特化の魔王? そして、及び腰でヒステリックに叫ぶ姿は、戦闘が未経験であることを物語っていた。


 私は今まで4人の魔王を討ち倒した経験がある。この魔王は、3人目の魔王と同じタイプだった。


「各自、魔法の攻撃に注意せよ!」


 仲間たちに号令をかけると返事はないが、全員が魔法による攻撃を警戒して散開する。


 ――指示は必要か?


 頭に突如、シオンの声が響く。


 私は、指示は不要であると伝えるために、大きく首を横に振る。


「ダクエル、フローラ! 攻撃せよ!」

「……了解」

「はぁい」


 A地区の魔王は未だ、ヒステリックに叫び声をあげている。私は先制攻撃の指示を仲間に告げる。


 無数の炎の矢と、鋭い鉄の矢がA地区の魔王へと降り注ぐ。


「何よ! 何よ! ――ア、ア、《アイスシールド》!」


 A地区の魔王は氷の壁を展開し、降り注ぐ炎の矢と鉄の矢を受け止める。


 1本も通らぬとは……腐っても魔王か。常人離れした魔力だ。


「死んじゃいなさいよ!」


 A地区の魔王が鉄の杖を振り下ろすと、巨大な氷の塊が私たち目掛けて飛来する。


「アイアン!」

(承知)


 アイアンは素早く前進し、盾を構えて氷の塊を受け止める。その隙に、ガイがA地区の魔王へと疾走し、鋭い爪の一撃を素早く振るう。


「キャー!? イタイ……イタイ……痛いわね!」


 A地区の魔王はヒステリックな悲鳴を上げながらガイへと鉄の杖を振り下ろすが――レイラの放った氷の弾丸により軌道をずらされる。


 ――《スラッシュ》!


 私は態勢が崩された隙を突いて、ダーインスレイブによる鋭い一振りでA地区の魔王を斬り裂く。


「キャー!? な、何……えっ……――」

「っしゃ!」


 A地区の魔王が斬り裂かれた脇腹へと視線を落としている隙に、接近したレッドが金棒を思いっきりスイングして、A地区の魔王を後方へと吹き飛ばす。


「……な……な、ん……で……こ、んな……酷い……こと……を……」


 A地区の魔王は息も絶え絶えに、擦れるような声を漏らす。


 周囲の仲間を見回せば、私にトドメを刺せと言わんばかりに、私へと視線を送り、動きを止めている。


 シオンの指示か。


 私はゆっくりとA地区の魔王に近付いた。


「すまない」


 そして、絶望に覆われた表情を浮かべるA地区の魔王の首を一振りで跳ね飛ばしたのであった。

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