トレンド


「リナさんは順調ですかぁ?」

「順調だな」

「ほぉ……どれどれ」


 カノンは俺の答えを聞くと、「よっこいしょ」と俺の肩に座りスマートフォンに映し出されたリナたちのライブ映像を視聴する。


「ったく、飛びながらでも見れるだろ? ん? 重くなったか?」

「な!? し、失礼な! 成長期なんですぅ」


 主である俺の肩に乗る方が失礼だと思うが……。まぁ、いいか。俺は一旦リナたちのライブ映像を中断し、ネットニュースを検索する。


「えっ!? 何で消しちゃうんですかぁ!」


 憤慨するカノンをスルーして、気になることを調べ始める。


 検索ワードは『支配領域 拡大』、『支配領域 変化』など……。他にも匿名掲示板を巡回して、全国各地に存在する魔王の動向調査だ。


 おぉ……やっぱり増えてるな。


 103 名無しの冒険者 ID:masefse

 地元の支配領域が消失したかと思えば、合併したんだが?


 107 名無しの冒険者 ID:sdeyhgt

 市町村だけでなく、支配領域も合併する時代になったのか


 108 名無しの冒険者 ID:lkseuhj

 魔王も高齢化対策や財政強化に励むのかw

 胸が熱くなるなwww


 112 名無しの冒険者 ID:zsedfgk

 全国各地の勇者様による支配領域に解放も日々進んでるからな。あ!? 勇者様日々の活躍お疲れ様ですw


 114 名無しの冒険者 ID:fjdtxvc

 合併した支配領域は合併前よりもハザードランクが高くなるから魔王も生き残るのに必死なのかもな



 全国各地で相次ぐ支配領域拡大の報告。金沢市は幸いにも、支配領域拡大の報告はないが、石川県内では小松市で1件だけ報告があがっていた。


 注目すべき記事は、東京と京都で拡大を続ける支配領域について記載された記事だ。


 東京で拡大を続ける支配領域の総面積は推定50k㎡。恐らく7つか8つの支配領域を支配している。京都の支配領域の総面積は推定40k㎡。こちらは6つの支配領域を支配していると推測される。


 いずれ、この兆候は全国各地に飛び火するだろう。


 弱者たる魔王が駆逐され、強者たる魔王は勢力を拡大する。


 俺も生き残る為に、後者である強者たる魔王にならないとな。


「支配領域を支配する魔王が増えてきましたねぇ。シオンさんは、ライバルが気になる感じですかぁ?」

「ライバルって……相手の名前も顔も知らねーよ。気になっているのは、今後の動向だ」

「今後の動向ですかぁ?」

「カノンはリナたちの様子を見てどう思った?」

「順調ですねぇ」


 俺の問いかけにカノンは首を捻りながら答える。


「そう、順調だ。ハッキリと言ってしまえば、戦力に差がありすぎる」

「ですねぇ。こちらは、リナさんは別としても、ランクBとCの配下で構成されているのに対して、相手はランクEのゴブリンですからねぇ」

「そうだな。A地区の魔王には悪いが、抗う術はないだろうな」


 リナたちの支配領域の侵略を見て感じたこと――それは、楽勝。


 俺とA地区の魔王の力の差が、ここまで開いた要因はなんだ? 多くの運も絡むと思うが、答えは常に最先端を意識した準備だと思っている。


 例えばオンラインゲームでは、廃人と呼ばれるコンテンツの最先端にいる人種は、常に周囲の仲間と競い、数々の検証と面倒な準備を重ね、常にトップに君臨し続ける。


 現状の俺は世界規模で見れば、最先端とは言い難い。しかし、最先端を目指して常に努力しよう。最先端から乗り遅れたら弱者へと転落し、強者に喰われてしまう……。


 スマートフォンの画面に映し出される、ゴブリンの群れを駆逐する配下たち。その様子は戦闘とすら呼べない――言うなれば虐殺だ。


 努力を怠れば、或いは運の巡り合わせが悪ければ……俺がA地区の魔王と同じ立場になっていても、何ら不思議ではない。圧倒する配下たちを見て、俺は逆に危機感を覚えるのであった。



 最初は楽しくウォッチングしていたリナたちの侵略状況も、今では興味を無くしていた。個別に指示を与える必要はなく、ゴブリンを虐殺するシーンを観察していても得るものは特にない。魔王に出くわすまで、もう少し時間は必要だろう。


 俺は今後の行動予定を立案することにした。


「あれ? もうリナさんの様子は確認しないのですかぁ?」

「見る必要はないだろう」

「えっ!? それは少し冷たすぎませんかぁ?」


 検索ツールカノンが俺の思考の時間を邪魔立てる。こいつって電源とかないのか? コミカルに動くカノンを見て、俺は本気で電源のオンオフ機能の実装を望む。


 遠ざけたいが、カノンは考察に必要不可欠な知識を有している。これがジレンマってやつなのか?


「今後のプランを考えたい」

「はぁい」


 俺の感情を読み取ったのか、カノンは静かに俺の肩へと止まる。


「今後の魔王が大きく変化を迎える刻――分岐点はどこだと思う?」

「分岐点ですかぁ? 大きく変化をするのはレベルが10になった時じゃないですかぁ?」


 レベルが10へと成長すると、魔王は支配領域の外へ出ることが出来る。そして、人類の土地を支配領域にすることが出来るようになるらしい。確かに、大きな変化だ。


 しかし、レベル10までの道のりは長く険しい。


 そう、長く険しいのだ……。そこまで生き延びる為には、何をすればいい?


「カノン、俺より強い魔王はどれくらい存在すると思う?」

「強さの基準にもよりますが……ネットで調べる限り、シオンさんは国内でも上位10%には入っていると思いますよぉ。市内だと一番なのかなぁ? 県内だと10番内は確実?」


 俺の曖昧な質問に、カノンは曖昧な答えを返す。


「ならば、レベルではどうだ?」

「レベルだと……3以上の魔王は沢山いますねぇ。5以上だとどうなんでしょうかぁ?」


 レベル3以上――進化を遂げた魔王の存在は各地で確認されている。楽観的に、多くの魔王がレベル3だとしても、俺がレベル6に成長する前にレベル4へと成長するだろう。現実的に考えると、すでにレベル5以上の魔王は何人も存在しているだろう。


 弱者の魔王が駆逐され始めた昨今を考えれば、生き残った魔王のレベルは近しいものになっていくことになる。


 そうなると、魔王同士の強さに差が生じない。


 種族という個性の差は生まれる。肉体特化、創造特化などのステータスの個性の差も生まれるかも知れない。


 ん? ステータスによる個性の差は生まれるのか?


 現状、特化型でもBが最高値だ。BからAへと成長させる為には50ものBPが必要となる。仮に、全部同じ項目にBPを振っていても、Aへと成長する為にはレベルが13。仮に俺やカノンと同じくボーナスを得ていたとしても、レベルを11まで成長させる必要がある。


 そもそも、レベル11まで同じ項目にBPを振り続ける魔王はいるのか? 仮に試みる魔王がいたとして、生き残れるか? 【創造】特化なら可能性はあるが……、それでもAに至るには、レベルを11まで成長させる必要がある。


 序盤で有利だったのは、【肉体】、【魔力】特化の魔王だった。共にBまで成長してしまえば、倒すのは容易ではない。しかし、今のトレンドは……?


「カノン、今のトレンドは何だと思う?」

「えっ!? いきなり、何の質問ですかぁ!? え、えっとぉ……水の羽衣!」

「何のトレンドだよ……」

「逆に、何のトレンドを聞いたのですかぁ!」

「特化型魔王のステータス」


 突然質問を振られ、見当違いの答えをするカノン。俺は、面倒だがカノンに先程考察した内容を説明することにした。


 面倒だと思いながらも、どこかカノンとの会話を楽しんでいる俺がいるのであった。


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