侵略成功!
――~♪
スマートフォンから軽快な通知音が流れる。
『配下が魔王を討伐しました。即座に支配領域を《統合》しますか?』
ふむ。
「カノン。これはどういう意味だ?」
俺は肩に近くにいるカノンを呼び寄せ、スマートフォンに映し出された文章を見せる。
「えっとですね、《統合》を選ぶと、私の時と同じようにA地区の支配領域はシオンさんの支配領域と統合されます。今の状態を維持したままA地区の支配領域を確保したいのであれば、【真核】を見つける必要がありますねぇ」
なるほど。A地区の支配領域は俺の支配領域と同じくダンジョンタイプであった。取り立て、特別な仕掛けもなかった。《統合》でもいいが……折角だし、【真核】を取ったバージョンを確認してみるか。
「あ!? 《分割》するとメリットとデメリットがありますよぉ。メリットは、そのままの形でシオンさんの支配領域になるので、人類にシオンさんの支配領域ってバレません。後、魔物が残っていればシオンさんの配下になりますねぇ」
「デメリットは?」
「通路を繋げないと、私を含めた配下の皆さんが行き来出来ません。なので、近くに侵略者がいたら、あっさりと【真核】を奪われる可能性があるかもですぅ。後、仮の主を決める必要があるのでシオンさんの最大CPは増えませんし、最大DPも増えないですねぇ」
「デメリットでかくね?」
「まぁ、《分割》してから、すぐに《統合》しちゃえば、CPとDPは回収出来るんですけどねぇ。ちなみに、《統合》にはCPを全て捧げる必要がありますよぉ」
《分割》の最大のメリットは配下が無償で増えること。それに、再構築の手間が省けることか。どうせ再構築予定だし、増えてもゴブリン数匹だろ?
俺はノータイムで、スマートフォンの「はい」をタップした。
――ッ!?
周囲の景色が激しく揺れ動き、足下から全身へと振動が伝わる。
二度目だけど、慣れないな……。
揺れが収まるのを待ってからスマートフォンの画面を確認する。
『>>魔王アサミの支配領域を支配しました。
>>支配領域統合の為、異分子を排出します。
>>異分子の排出に成功しました。支配領域の統合を行います。
>>支配領域の統合に成功しました。これより24時間【擬似的平和】が付与されます』
A地区の魔王の名前はアサミって言うのか。知ったところで、どうでもいい情報なので、即座に記憶から消去し、【支配領域】の状態を確認する。
『魔王シオン支配領域
DP:1110/1219
支配面積 19k㎡
人口 0人
タイプ ダンジョン
階層 5
真核 3
設置施設 入口*3
階段*12
転移装置*2
帰還装置*2
休憩所*12
回復の泉*2
宝物庫*2
宝箱*59
中級宝箱*4
上級宝箱*1
草原(階層)*1
森林(部分)*1
川*1
湖*1
洞窟(小)*4
畑:50
家屋*1
小屋*100
小部屋*80
墓*20
岩*20
廃墟*4
設置兵器 鉄の矢*50
毒の矢*10
毒沼*3
酸噴射*10
酸の沼*5
肥溜め*2
アラーム*1
特殊制限 12人*2
魔物制限24*2
特殊効果 闇属性強化(階層)*1
擬似的平和(残り24H) 』
ふむ。支配領域を支配する度に【擬似的平和】が付与されて、異分子は排出されるのか。考え方次第では、最強の切り札になり得るな。
とりあえず、リナたちを呼ぶか。
普段であれば禁断となる――支配領域間による【転移装置】の設置を行う。
禁断の理由は、リスクが高すぎるから。仮に第二支配領域と第一支配領域を【転移装置】で結びつけると、第二支配領域を侵略中の侵入者に第一支配領域への近道を示してしまうことに繋がる。配下の移動が楽になるのは喜ばしいが、侵入者の移動が楽になるのは危険でしかなかった。
しかし、今は侵入者は支配領域に立ち入ることが出来ない。
今だけ限定のお得なショートカットと言う訳だ。
――【転移装置】を設置した。帰還せよ。
俺はA地区の支配領域の支配に成功した配下たちに命令を下す。
暫くすると、目の前に設置した【転移装置】が光り輝き、リナたちが姿を現わした。
「お疲れさん」
「お疲れ様でしたぁ!」
現れた配下たちに労いの言葉をかける。
「こんな設備があったのか……!? ただいま」
「マスターのお言葉……ありがたき幸せ!」
「不肖ダクエル帰参致しました! 侵攻が遅れ、申し訳ございませんでした!」
「旦那! 次はもう少し歯ごたえのある支配領域を頼むぜ!」
「フッ。只今、帰参致しました」
「ただいま~。大したことない相手だったわよ~」
(帰参完了)
リナは【転移装置】の存在に驚き、配下たちは俺の軽い労いの言葉に、それぞれが応える。
「今日はゆっくりと休養してくれ。明日からまた支配領域の侵略を頼む」
「「「はっ!」」」
「明日!? ん、了解した」
レイラ、ダクエルを筆頭に配下たちは最敬礼の形で俺の言葉に応えたが、リナだけが少し戸惑いを見せるのであった。
「自分の住処に戻って、ゆっくりと休養しろ。リナ……君は少し残ってくれ」
「「「はっ!」」」
「……? わかった」
俺の言葉を受けて、リナを除いた配下たちが洞窟から立ち去っていく。俺は残されたリナに近付き声を掛ける。
「リナ。お疲れ」
「ありがとう。でも、フローラも言っていたけど、大したことは無かった。金沢市の選抜メンバーで支配領域を解放していた時よりも、楽だったくらい」
「それは良かった」
「それで、私だけ残して何の用?」
「リナには、俺の考えと今後の予定を伝えようかと」
リナは元人間だけあって、思考回路が創造された配下たちとは異なる。今後は連日連夜、支配領域を支配する遠征を率いることになる。明確な理由付けがないと、俺への不信感が募ってしまうだろう。
理由も無く、行動を強制されるのは本当に嫌いだった。教育する者、命令を下す者、指示を出す者、取り仕切る者……様々な人間と関わってきたが、やるのが当たり前! と押しつけられるのは本当に理不尽で、やる気が削がれた。
だから、俺は命令を出す前に明確に理由を伝えようと思った。
みんながやるからやる。声を大にした者に従う……そういう環境が大嫌いだった。だから、俺はそういう環境にならないように努力しようと思う。自分が嫌いだった人間になりたくない……これが本音なのかも知れないが、俺はリナには、納得して行動をして欲しいと思ったのであった。
その後、俺はリナに俺の置かれている状況、魔王の特性、全国各地の魔王の動向……そして、生き延びる為に早急な行動が必要であることを説明した。
「なるほど」
「納得してくれるか?」
「ふふっ。酷い職場環境とは思うけど、納得の意見だ」
リナは微笑しながら答える。
「シオンは魔王。そして、私は配下」
「そうだな」
「なら、黙って命令すればいい。何でそんな面倒な説明をする?」
「何でだろうな? ……嫌いな人間になりたくなかったから?」
「ははっ! 本当にシオンは変わった魔王だな」
リナは大声で笑うと、「それじゃ、明日に備えて家に帰る」と言い残して、洞窟から立ち去ったのであった。
◆
半年後。
俺のレベルは7へと成長。所有する【真核】の数は18となり、金沢市に生存する魔王は俺を含めて4名となった。
「そろそろ金沢市の統一が見えてきたな」
「支配領域の規模で見れば市内で一番ですねぇ」
「私たちはいつでもいけるわよ」
目の前に広げた金沢市の地図に書き込まれた勢力図を見て、未来を予測する。リナを筆頭とした眷属たちの表情も気力に満ち溢れている。
市内統一に向けて、討伐すべき魔王は2人。
金沢市の東部を支配する、圧倒的な物量で支配領域を拡大させた――妖精種の魔王アリサ。
金沢市の北部を支配する、個の力で支配領域を拡大させた――鬼種の魔王カンタ。
ここまで生き残った魔王である以上、相手も有象無象の魔王ではない。俺たちは互いの存在を強く意識していた。
調査した情報を精査した結果――妖精種の魔王アリサのステータスは肉体【?】 魔力【B】 知識【?】 創造【C】 錬成【C】 推定レベル7。鬼種の魔王カンタのステータスは肉体【B】 魔力【?】 知識【?】 創造【B】 錬成【C】 推定レベル7。
知り得た情報から整理すると、支配難易度が低いのは魔王アリサの支配領域だが――
「それでは、明後日より侵略を開始する支配領域は――」
俺は自分の考察に基づいた侵略先の支配領域を配下たちに伝えたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます