支配領域創造④


 リナたちが侵略に出掛けた翌日。


「リナさんたちはどんな感じですかぁ?」

「今はC地区の支配領域で連携の確認中だな」


 リナの進言もあり、侵略メンバーは本来攻めるA地区の支配領域ではなく、近場のC地区の支配領域で連携の確認をしていた。C地区を選んだ理由は、本来攻めるべきA地区を支配する魔王を警戒させたくないのが理由だ。


「いい感じですかぁ?」

「そうだな。敵はコボルトのみだが、危なげなく勝利しているな」

「A地区への侵略は明日開始でしたかぁ?」

「順調にいけばそうなるな」


 スマートフォンを操作して眷属の様子を見る限り、多少連携は拙いが……順調と言えるだろう。明日には予定通りA地区の侵略を開始するだろう。


「さてと……今日はお待ちかねの支配領域の再構築だな」

「おー。いいですねぇ」


 俺の言葉にカノンが拍手で応える。


 つい先程、第二支配領域に侵入してきた人類を殲滅して、転移で戻ったばかりだ。第一支配領域は勇者様御一行を撃退して以降、侵入者の数は0だ。数時間は平穏な時間を過ごせるだろう。


「まずは……面白い設備が増えたんだよな」

「何ですかぁ?」

「中級宝箱と上級宝箱。知ってるか?」

「見たことはないですけど、知識としてなら知ってますよぉ」


 中級宝箱――設置すると最大DPが5も増える宝箱。但し、中身はランクC以上のアイテムを収める必要がある。創造CP5。


 上級宝箱――設置すると最大DPが10も増える宝箱。但し、中身はBランク以上のアイテムを収める必要がある。創造CP10。


 今まで設置していた宝箱は最大DPが1しか増えないので、恩恵は格段に向上する。


「とりあえず、【中級宝箱】から創造するか」


 俺はスマートフォンを操作し【創造】の項目から【中級宝箱】を選択する。


 ――?


 しかし、どれだけタップしても創造が出来ない。


「ん? CPも足りてるよな? 何で創造出来ないんだ?」

「あ!? 宝箱は設置出来る数が決まっているので、既存の宝箱を撤去しないと無理ですよぉ」


 宝箱設置の上限数って共有なのか……。現状の支配領域は5階層。第一支配領域、第二支配領域共に設置出来る宝箱の上限数は22個。仮に全ての宝箱を【上級宝箱】にすれば、最大DPは一気に+440になる。とは言え……流石にそんなアホな選択は許されない。


 【上級宝箱】を侵入者に奪われることは、Bランクのアイテムを贈呈することに繋がる。流石にリナ級の侵入者がゴロゴロしているとは思わないが、あのレベルの侵入者が12人で、しかも全員ランクBのアイテムを装備していたら、配下はおろか俺も殺される可能性が生じる。


 Bランクどころか、Cランクのアイテムも贈呈したくはないのにな……。


「割合でお悩みですかぁ? それなら、【宝物庫】を創造するのはいかがですか?」

「【宝物庫】?」


 まぁ、悩んでいたのはある意味割合だけど、若干的を外したカノンの助言に俺は耳を傾ける。


「はい。【宝物庫】を創造すれば、宝箱の設置出来る上限数が増えますよぉ」


 宝物庫――宝箱を10個収めることが出来る部屋。支配領域の最奥には設置出来ない。創造CP30。


「この【宝物庫】に収められる10個の宝箱って、別枠で設置出来るのか?」

「はい。でも、【宝物庫】は第一支配領域、第二支配領域、共に一カ所ずつしか設置できませんよぉ」


 と言うことは合計で64個の宝箱を支配領域に設置出来るのか……。全部【上級宝箱】にしたら、人数制限の強化も出来るし、全てを犠牲にすれば支配領域内に【火山】の設置も出来るな。しないけど。


「他にもDPが増える設備が増えてたよな?」

「創造Bなら、【回復の泉】とか【転移装置】とか【帰還装置】も創造可能ですよぉ」


 回復の泉――疲れを癒やす不思議な水が湧き出る泉。但し【カオス】は使用不可。最大DP+60。創造CP30。


 転移装置――異なる階層への移動することが出来る装置。次の階層へ繋がる階段から2km離れた場所にしか設置出来ない。最大DP+30。創造CP60。


 帰還装置――支配領域の外へと移動することが出来る装置。3階層以上の階層のみ設置可能。最大DP+30。創造CP60。


 【回復の泉】の設置上限数は2。【転移装置】の設置上限数は1セット。【帰還装置】の設置上限数は1。この上限数は第一支配領域、第二支配領域共に共通となる。


「ん? 【転移装置】と【帰還装置】って【カオス】でも使用出来るのか?」

「多分、出来ますよぉ」


 【転移装置】を上手く使えば、俺や配下がスムーズに侵略者の元へと移動出来るが……逆に考えれば、侵入者もスムーズにこちらに来ることが出来るのか……。


 移動手段確保の為に居住区に設置したいが、侵入者が容易に居住区へ侵入出来るのは困る。


 面倒な設備だな。


「魔王上級者パックとかないのかよ……」

「えっ? まだレベル5で、支配領域の拡大もままならないのに……上級者ですかぁ!?」


 俺の呟きにカノンはどこかズレた驚きの声を上げた。


「驚くポイントは違うが、あるのか?」

「ないですよぉ」

「そうか」


 一瞬の期待を込めて質問したが、無慈悲な答えが返ってきた。


 さて、どうしようか? 逆転の発想? DPを消費する必要な設備を先に羅列して、それに合わせて最大DPが増える設備を決めればいいのか? 宝箱で微調整も可能だよな。


「カノン、居住区に必要なCPを算出してくれ」

「はい!」


 カノンは上機嫌に返事をする。


「カノン?」

「はい?」

「絶対に無駄なモノはリストアップするなよ?」

「と、当然じゃないですかぁ……」

「リストアップされた設備で違和感を覚えたら、徹底的に追求するからな?」

「……はい」


 カノンへの釘刺しは終了した。


 俺は支配領域を防衛するために、必要な設備を考えるのであった。



 まずは、第一支配領域のみで考えるか。


 絶対に必要なのは【特殊制限】だよな。現状の12人制限で必要なDPは80。これを8人にすると消費するDPは500になり、4人すると1000になり、1人にすると2000になる。消費するDPの上がり幅が異常すぎる。他にも、侵略される機会が無かったので気に止めなかったが、そろそろ魔物の制限も考慮した方がいいのか? こちらは24体で120。16体で750。8体で1500。1体で5000。と中々にハイコストだった。


 これって、人類は12人、魔物は24体以外選ばせる気ねーだろ……。


 最低限の二つの制限を選択するだけで、消費するDPは200かよ。


 制限はこれでいいとして、次は設備か。


 スマートフォンに表示された、多大な設備――建物やオブジェ、フィールドに罠といった多岐にわたる一覧を確認する。


 モデルハウスとかないのかよ……。


 えっと、まずはテーマを決めよう。テーマに沿った設備を選択するっていう方法が一番楽なのか?


 第二支配領域のテーマが、『求む! 低レベル侵入者! ここは稼ぎ場ですよ?』だから……第一支配領域のテーマは――『ウェルカム! 高レベル侵入者! 更なる高みを目指しませんか?』にしようかな。


 リスクは跳ね上がるが、最終的に生き残ることを考えたら……ある程度強い連中との戦闘経験は重要だよな? 金沢市内で最強の侵入者も撃退出来たから……この方針で大丈夫だよな?


 俺は自問自答を繰り返す。


 殲滅率は75%で設定しようか。高レベルの侵入者が少ないから、出来るだけ倒して経験値の糧にしたい。その代わり、生き残った侵入者には抽選確率10%でCランクのアイテムを贈呈しようじゃないか。


 ネットでリサーチした結果、人類は罠の多い支配領域を嫌う傾向が強い。特に嫌われる罠は……毒関連と酸関連の罠か。


 酸関連の罠には、【酸噴射】と【酸の沼】があり、共に侵入者の金属製の装備品を劣化、もしくは破損される罠だ。


 メジャーな罠である【落とし穴】は、あっさりと見破られるので、無意味と言うのもリサーチした結果知ることが出来た。


 地面の色が露骨に違うからな……。【落とし穴】は絶対に設計ミスだろ。


 他にも【暗闇】や【回転床】も不人気であることがわかった。しかし、【暗闇】の中では配下の視界もゼロになり、【回転床】は配下も同様に罠にかかるので、魔王である俺の立場から見ても不人気な罠であった。


 罠って配下も引っかかるのが、難点だよな……。何度、【トラバサミ】に挟まったグールを目撃したことか。【回転床】の上で遊んでいるグールを見たときは殺意が湧いたものだ。


 罠って難しいよな……。


 とりあえず、1階層は罠はなしで……配下のみで対応だな。得意のグール+ジャイアントバットのコストパフォーマンスに優れる組み合わせで、2~3人倒せれば御の字だ。1人も倒せない状態が続いたら、ウェアウルフを投入するか。宝箱の中身はDランク以下までだな。


 2階層からは、毒関連の罠を増やすか。グール+ジャイアントバットの組み合わせに、ゴブリンアーチャーとコボルトナイトも投入だな。毒の沼と弓矢による遠距離攻撃って相性いいよな。弓矢の攻撃を活かすためのオブジェクトも必要になるな。宝箱の中身は抽選率5%(但し、俺が操作)でCランクのアイテムを仕込むか。


 3階層からは全力で撃退だな。酸の罠+装備不要のグールとウェアウルフの組み合わせ。乗り越えた先に、ダンピール、リリム、リビングメイル、ダークエルフを投入。1階層と3階層を【転移装置】で繋ぐのもありだな。転移した先は生存率0%の3階層。楽しそうだ。万が一にも生き残れたら、漏れなくCランクのアイテムを贈呈するか。


 4階層は罠地獄にするか。罠地獄を乗り越えた先に、俺を含めた全ての配下が死ぬ気で撃退だな。正直、4階層までは来て欲しくない。


 5階層は居住区だな。仮にここまで人類が辿り着いたのなら……俺は第一支配領域を放棄して、第二支配領域に撤退だな。ちなみに、眷属の移動用に【帰還装置】も設置だな。


 よし、何となく構想は纏まった。


 構想を元に必要な設備を書き出して、確保すべきDPを算出。後ほどカノンから居住区に必要なDPを追加して、【休憩所】、【宝箱】、【中級宝箱】、【上級宝箱】、【宝物庫】、【回復の泉】の設置数を決めれば、新たな支配領域が完成する予定だ。



 ◆



 6時間後。


 カノンとの口論の末、支配領域のリニューアルが完了したのであった。


『魔王シオン支配領域


 DP:1110/1119


 支配面積 12k㎡


 人口   0人


 タイプ  ダンジョン


 階層   5


 真核   2


 設置施設 入口*2

 階段*8

 転移装置*2

 帰還装置*2

 休憩所*12

 回復の泉*2

 宝物庫*2

 宝箱*59

 中級宝箱*4

 上級宝箱*1

 草原(階層)*1

 森林(部分)*1

 川*1

 湖*1

 洞窟(小)*4

 畑:50

 家屋*1

 小屋*100

 小部屋*80

 墓*20

 岩*20

 廃墟*4


 設置兵器 鉄の矢*50

 毒の矢*10

 毒沼*3

 酸噴射*10

 酸の沼*5

 肥溜め*2

 アラーム*1


 特殊制限 12人*2

 魔物制限24*2


 特殊効果 闇属性強化(階層)*1         』

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