乱数の女神は微笑まない
――侵略する支配領域が決まり、参加するメンバーの構想も終わった。
支配領域の外に出るためには眷属にする必要があるので、後はCPの回復を待つだけだ。そうと決まればCPの無駄遣いは厳禁だ。配下には質素な食事で俺と共に苦労を分かち合い、侵略してくる人類の相手も、経験値稼ぎを兼ねて俺の出番を増やした。
三日後。
「最近、シオンさんが侵略者を全滅させ過ぎたので、第二支配領域のハザードランクが上がりましたよぉ」
一応、4組に1組は繁殖力に優れたラットとウルフ、そしてゴブリンのみで相手をしたのだが……侵略してきた人類の75%を殲滅はやり過ぎたか?
「殲滅した侵略者の集団が無謀だったとか情報操作して、後は宝物にちょっとランクの高いアイテムを仕込んどけば、いずれ元に戻るだろ」
侵略してくる人類は重要な資源だ。疎かにも出来ない。
「情報操作に無理がありませんかぁ?」
「死人に口なしだ」
「世知辛い世の中ですねぇ」
「そうだな」
カノンとの世間話も切り上げ、俺は残ったオーガの眷属化を始める。ダンピール、リリム、リビングメイル、ウェアウルフの眷属化は、すでに終わらせている。
俺は目の前に控えていたオーガに【血の杯】を差し出す。オーガは、片膝を付いて【血の杯】を受け取り、一気に中身の液体を飲み干す。
――《
淡い輝きがオーガを包み込み、輝きはオーガの中に吸い込まれ、輝きの消失と共にオーガは俺の眷属となった。
「プハァ! 旦那との契りの杯、たしかに頂きやした!」
オーガは野太い声で言葉を発すると共に、両手を膝について頭を下げる。
「お、おう」
契約の杯じゃ無くて、血の杯だけどな……。ちょっとアレな雰囲気のオーガに若干引いてしまう。
「旦那! 契りの証に名前をお願いしやす!」
眷属となった配下は漏れなく名前を求めてくる。
この名付けって苦手なんだよな……。
他の眷属の名付けには一悶着あった。
当初はダンピールの名前をダン=シオン。リリムの名前をリリ=シオン。ウェアウルフの名前をポチ=シオン。と名付けたが、カノンとリナの猛反対を受けた。
分かりやすくていい名前と思ったんだが……。
ダンが女性っぽくない? ダン子ならどうよ? 却下? はぁ? などなど、一悶着があり、最終的には――ダンピールの名前はレイラ=シオン。リリムの名前はフローラ=シオン。リビングメイルの名前はアイアン=シオン。ウェアウルフの名前はガイ=シオン。となった。名前の由来? 知らん。
新しい名前には全く慣れていないので、覚えていないのは内緒だ。
っと、オーガの名付けだったな。
「レッド。レッド=シオンはどうだ?」
「旦那! ありがとうございます! 今日から俺はレッド=シオンとして旦那の前に立ち塞がる敵をぶっ潰します!」
「シオンさんって困ると色に逃げる傾向がありますよねぇ」
ぼやくカノンをスルーして、いよいよ支配領域侵略の話を進めることにしたのであった。
◆
目の前に並ぶのは、リナ=シオン。レイラ=シオン。フローラ=シオン。アイアン=シオン。ガイ=シオン。レッド=シオン。そしてクロエ=シオン。
「これより重大な使命を伝える」
俺は居並ぶ眷属一人ずつ、顔を見回した。眷属は全員片膝を付いて、伝えられる使命を待っている。
「リナ=シオン」
「はい」
リナに声を掛けると、リナは返事と共に立ち上がる。
「リナをリーダーとし、本日よりここにいる7人の眷属に5体の配下を加えた計12人で、A地区の支配領域侵略を開始する!」
「「「はっ!」」」
一人を除いた全員が肯定の返事を返す。
――?
「クロエ? どうした?」
俺は唯一返事をしなかった眷属――クロエに近づき、問い掛ける。
「マスター。……ふ、不敬を承知で、愚者なる私にお教え頂きたいことがございます」
「何だ?」
「他の眷属は……シルバー、ブルー、ホープには、今回の使命を下されないのですか?」
「そうなるな。今回の使命、あの3人は実力不足だ」
「――!? で、ですが……」
「何だ?」
「い、いえ、何もございません。不敬、失礼致しました」
俺がクロエに鋭い視線を送ると、クロエは押し黙り、その場で跪いた。
シルバー、ブルー、ホープか……。いないほうがマシ、という程に弱くはない。しかし、あの3人の生存率は著しく低くなるだろう。眷属は貴重な戦力だ、しかもあの3人は進化する可能性も秘めている。無駄に命を散らせたくはないが……。
まさか、狂信者代表みたいなクロエが、あの3人に同情して、俺の意見に反旗を翻すか。一緒に行動した時間が長すぎたのか?
俺はスマートフォンを操作して、現在のCPを確認する。
340か。全快まで4時間20分。
しゃーない。メンバーを組み直すか。
「クロエ」
「はっ!」
「先程の使命は撤回する」
「――!?」
クロエの目が大きく見開かれ、その表情は次第に絶望へと変化する。
「……マ、マスター」
クロエは擦れた声で俺を呼ぶ。
「クロエ、お前には別の使命を与える」
「畏まりました。来世でもマスターにお会い出来ると信じて――」
「待て! 最後まで俺の話を聞け!」
恐らく……いや、確実に良からぬ方へと思考がシフトしたクロエを一喝する。
「クロエ、お前はブルー、シルバー、ホープと共に、武者修行の遠征を命じる」
「武者修行でしょうか?」
「そうだ。全員が進化するまで、この支配領域へ帰還することは許さぬ。わかったか?」
「畏まりました。マスターの恩命のままに」
「クロエ、下がっていいぞ。3人にも俺の使命を伝えろ。配下は各一人連れ出すことを許可する」
クロエは俺に頭を下げ、立ち去った。
正直、あの3人の進化を楽しみにしている自分もいる。それにゴブリン、コボルト、ライカンスロープをまた最初から育てるのは、勘弁して欲しかった。
当初の予定とは変わったが、この選択も間違ってないと思うのであった。
◆
4時間20分後。
新たに眷属にしたダークエルフ(♂)――ダクエル=シオンを加えた7人の眷属に、秘蔵の高ランクアイテムを分配。バックアッパーとして、ダンピール(♂)、ダークエルフ(♀)、リリム、コボルトナイト、ゴブリンアーチャーを選任した。
CPも在庫もスッカスカだ。当分はラットとウルフとゴブリン、そして俺がハイローテションにて侵略者を撃退する羽目になりそうだ。
「それでは、行ってくる」
「頑張れよ。そして、絶対に死ぬなよ」
「任せておけ」
力強く宣言するリナに俺はエールを送った。
魔王になって110日目。
他の魔王が支配する支配領域への侵略を開始するのであった。
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