検証(配下)②


「お待たせしましたぁ」

「待たせた」


 説明を終えたカノンとリナが俺の元へと駆け寄って来た。


「配下の検証から始めるぞ」


 俺はスマートフォンを操作して、新たに創造が可能となった配下を創造する。


 地面が五芒星に光輝き、眩き光の中に人影が姿を現した。


「――!? 魔物はこうやって生まれるのか」


 俺とカノンからすると見慣れた光景。然れど、初めて《配下創造》を目にしたリナからは驚愕の声が漏れる。


 俺は驚愕の表情を浮かべるリナの様子に微笑み、続けざまに残った3種族の新たな配下を創造した。


 目の前に並ぶ4人の配下を確認する。


 1体目はリリム。ボディーラインがハッキリとわかる密着した服を纏った、ダークブルーの髪をストレートに伸ばした魅惑的な女性だ。よく見れば、背中に小さな羽根が生えている。魅惑的に微笑むその表情は、属性:孤高の俺には少し刺激が強かった。


 2体目はリビングメイル。一言で表すなら鎧だ。よく見ると、鉄の鎧か? 一応カタカタと震えているので、鎧じゃなくて生物だと判断出来る。


 3体目はウェアウルフ。体格のいいコボルト? コボルトよりも顔が獰猛なのは、犬じゃなくて狼だからだろうか。体長は2m近くあり、中々の威圧感を放っていた。


 4体目はダンピール。漆黒に染まった髪を短く切り揃えた女性の姿をしている。漆黒に染まった髪の影響もあり、その透き通った白い肌が余計に際立つ顔立ちは、美人と評していいほどに整っているが、リリムと比べるとどこか冷たい印象を受けた。ぱっと見、普通の人間の女性に見えなくもないが……ライカンスロープと同じじゃないよな?


 恒例の模擬戦を開始しようか。知識だけでは分からないことが多い。百聞は一見にしかず。やはり、配下の性能を確認するのは、模擬戦が一番だ。


 今回は人型の配下が多いな。


 俺は新たに創造された4人の配下の前に、多種に渡る鉄製の武器を並べる。


「得意な得物を取れ」


 リリムは鉄の杖を、リビングメイルは鉄の槍を手に取った。ウェアウルフは武器には一瞥もせずに、その場で仁王立ち。ダンピールは並べられた武器を通り越し、俺の前で膝を突く。


「許されるならば、私は鞭を希望します」


 鞭? またマニアックな武器だな。俺は「少し待て」と伝えて、『鉄棘鞭』を錬成し、ダンピールに手渡す。


 鉄棘鞭は、鉄製ワイヤーの先端に小さな刃物が付けられた鞭だ。


「御下賜、心より感謝いたします」


 ダンピールは片膝を付いた状態のまま、深く頭を下げる。


 それじゃ、模擬戦を開始するか。対戦相手はコスパ最強のグールでいいかな。


 俺は控えていたグールを呼び寄せる。


「え? 何をするのですかぁ?」


 今までの流れを黙ってみていたカノンが、俺へと尋ねる。


「模擬戦」

「えっ?」


 俺の答えを聞いたカノンが驚きの声を上げる。


 そういえば、カノンは模擬戦に立ち会うのは初めてか。


 戸惑うカノンをスルーして、模擬戦の合図を出す。


「リリム、グール。互いに戦え。但し、相手を殺すことは許可しない」


 ――特にグール! 絶対に殺すなよ!


 グールには念入りに命令を下す。


「は~い」

「ヴォェェェ!」


 リリムが甘い声で、グールはいつも通りの唸り声で返事を……!?


 は? 何でリリムは俺と同じ言葉使えるんだよ? よく考えたらダンピールもさっき会話が成立していたぞ。


 困惑する俺をよそに、リリムとグールが模擬戦を開始した。


「ヴォェェェ!」


 最初に動いたのはグール。雄叫びを上げながら、リリムに突進する。端から見れば女性を襲う変質者にしか見えない。


「ふふっ。――《スリープ》」


 リリムは迫り来る変質者(グール)に微笑みを浮かべると、手にした鉄の杖を軽く一振りする。すると、青いもやがグールの頭を覆い、グールの動きが緩慢とする。


「あなたは美味しそうじゃないわね。燃えなさい――《ファイヤーボール》!」


 微睡みに墜ちたグールは、燃えさかる炎に塊を受けて炎上する。


「ご主人様ぁ? もう一回焼いちゃったら、彼は死ぬかも~? どうします~?」


 リリムは、俺に流し目を送りながら、勝利を宣言する。


「いいだろう。そこまで」


 俺は模擬戦を終了させる。


 圧勝かよ……。とは言え、1つ気になることがある。


「リリム、まだ元気か?」

「は~い。全然平気よ~」

「なら、次はグール2匹と戦ってくれ」

「ご主人様のご命令とあらば~」


 俺の要望にリリムは軽い口調で答える。


「っと、戦闘を始める前に……リリムは俺の言葉がわかるのか?」

「当然わかりますよ~。ふふっ。変なご主人様」


 信じられないが、リリムは俺の言葉――日本語を扱えるようだ。


「何でだ……?」


 俺が吸収しているのはダークエルフの能力だ。目の前の配下が、エルフ種とはとても思えない。俺は、湧き上がった疑問を思わず呟いてしまう。


「愛の力みたいな~?」

「違います! リリムさんもダンピールさんも特殊能力言語(人種)を習得しているのが原因です」


 おちゃらけるリリムの言葉を遮り、カノンが真実を教えてくれた。


「なるほどな。スッキリしたところで模擬戦を再開しようか」


 グール2匹とリリムの模擬戦が始まった。


 結果としては、グールの勝利で終わった。リリムが1匹のグールに《スリープ》を唱えた隙に、接近したもう1匹のグールに攻撃され、その後接近された状態で魔法を封じられたリリムは敗北した。


 リリムは後衛だな。接近を許してしまえば、驚くほどに弱かった。今後の運用にあたって留意する点が把握出来た。



 次いで、リビングメイルとグールの模擬戦が行われた。


 頑丈さにものを言わせて攻撃をし続けるリビングメイルと、知能が足りなくてひたすら攻撃をし続けるグール。模擬戦を制したのはリビングメイルであった。


 頑丈だけど、攻撃が単調だな。リリムと組ませると面白いかもな。



 次いで、ウェアウルフとグールの模擬戦が行われた。


 結果はウェアウルフの圧勝。力と素早さで大きくグールを上回っているウェアウルフが終始戦いを有利に進めた。


 強いな。惜しむべきは、ウェアウルフが武器を扱えないことだろう。錬成したアイテムで強さをドーピング出来ないのが、惜しまれた。



 次いで、ダンピールとグールに模擬戦が行われた。


「ダンピール、グール。互いに戦え。但し、相手を殺すことは許可しない」


 俺が一番注目している模擬戦が始まった。


 ダンピールは親指を立て、人差し指を突き出し――手を銃に模して、銃口をグールへと向ける。


「――《アイスバレット》!」


 放たれた氷の弾丸は、グールの左足に命中し、地面ごと凍結させる。


「――《ダークアロー》!」


 ダンピールが振り下ろした手から放たれた複数の闇の矢が、グールに突き刺さる。


「ハァァァァ!」


 最後は、瀕死となったグールへと疾駆し、鉄棘鞭を振るった。


 張り付けていた足下の氷が溶けると、グールは糸の切れたマリオネットのように地に倒れた。


「「「……」」」


 誰一人、言葉を発さない――周囲は静寂に支配された。


「――!?」


 ダンピールは、呆然とした表情でグールの亡骸を見つめる。


「うわぁぁぁぁああ!?」


 ――!?


 突如、周囲に響き渡るダンピールの悲鳴。


「私は……私は……何を……何をしているのだ!? 創造主であるシオン様のご命令を……」


 ダンピールは壊れた機械のように呟く。


「マスター。よろしければ、私にかのダンピールの願いを果たす役割をお与え下さい」

「ん?」


 後ろを振り返ると、クロエが俺の前で深く頭を下げている。


「願い……?」

「はい。かの者の願いは分かっております。お任せ頂けますか?」

「あ、あぁ……」


 俺は状況が理解出来ずに、クロエの提案にただ頷く。


「ありがたき幸せ」


 クロエは再び俺に深く頭を下げると、壊れたダンピールへと駆け寄る。


「名もなきダンピールよ。貴様の願い……分かっているぞ」

「誰……?」

「我が名はクロエ=シオン。偉大なる創造主シオン様の眷属だ」

「――!?」


 クロエが名前を名乗ると、ダンピールは目を見開きクロエを凝視する。


「創造主様の眷属……。分かりました。お願いします」

「うむ。次なる生を受けたときは、共にシオン様の礎になろう」

「……はい」


 互いを理解し合うクロエとダンピール。俺は何一つ状況が理解出来ない。


「然らば! その汚れし命貰い受け――」

「ストーップ!」


 目を瞑り、覚悟を済ませたダンピールと、そのダンピールに短剣を振り下ろそうとしているクロエを慌てて制止する。


「どうされましたか?」

「どうされましたか? じゃねーよ!」


 俺は、涼しい顔で答えるクロエを大声で怒鳴りつける。


「ハッ!? わ、私としたことが……出過ぎた真似を……やはりマスター御自らの手で――」

「違う!」


 尚も勘違いするクロエへ、俺は大声を上げる。


「何をしようとしている!」

「何を……? このダンピールの願いを果たそうかと」

「その願いって何よ?」

「偉大なる創造主たるマスターのご命令に反した。私なら死して汚名を雪ぎます。ならば、このダンピールも同じかと」

「はい……。眷属クロエ様の仰る通りです」


 クロエの答えに当たり前のように追従するダンピール。


「何でそうなるんだよ!」


 今はCPが1でも惜しい。《乱数創造》で新たな眷属を追加。更には、アイテムの錬成に、リナやこいつらの居住も創造しなくてはいけないのだ。何が悲しくてCP120のダンピールを無駄に失わなくてはいけないのだ。


 俺は間違った忠誠心を見せる、目の前の二人に頭を抱える。


「シオンの配下とは、あそこまで忠義を示す必要があるのか……」

「いえ、あの二人は特別だと思いますよぉ……」


 一連の流れを見て、ドン引きするリナと、冷ややかな目で傍観するカノン。


 俺はその後、暴走する二人の説得に明け暮れるのであった。 

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