Episode4

レベルアップ②


「えっと、やるべきことが多々ある訳だが……まずは、リナ」

「はい?」


 俺は頭の中で、やるべきことを整理しながら優先順位を付ける。


 まずは、勇者様御一行に構築した支配領域の再構築だろうか。


「先程、金沢市公認の勇者様御一行――リナたちが敗北した訳だが、俺の支配領域に対して今後人類はどう動くと思う?」


 人類のことは人類経験が一番豊富なリナに聞くのが得策だろう。俺は、リナに尋ねた。


「そうだな……。安藤先輩が無事に生き延びたなら、この支配領域のハザードランクを格上げするように上申するだろう」


 ハザードランク――人類が勝手に格付けした、支配領域の危険度である。ご丁寧にネットにアップされているので、俺もある程度は知っていた。


「ハザードランクって、Eから始まってD、C、B、Aと順に危険度が上がって……Sが侵入禁止でしたよね?」


「そうだな。シオンの支配領域のハザードランクはCだった。カノンの支配領域はEだ。まさか、その2つの支配領域を支配していた魔王が同じだったとは……」


 カノンの言葉に、リナが答える。


「え? 外観でわかるだろ?」


 俺の支配領域――第一支配領域と、カノンが支配していた支配領域――第二支配領域は、共に同一の巨大なエアーズロックのような外観で、入口だけが別れている状態だ。


「私たちから見れば、カノンの支配領域を構成していた森が突然消失し、シオンの支配領域と連なる形で再び姿を現した。連なってはいたが、中の構造が違い過ぎたので、別の支配領域であると結論付けられた」


「なるほどね」


 俺はリナの説明に納得する。


「今回、この支配領域へ侵入した金沢市の選抜メンバーが全滅した。そうなると、私たち以上の解放者は市内に存在しないので、ハザードランクはS――侵入禁止となる。しばらくは侵略してくる人間はいなくなると思う」


「そうなると……第二支配領域からの侵入者は変わらずって感じか?」

「そうなるな。と言うか……私から1つ質問をいいか?」


 リナが、俺の目を見て尋ねてくる。


「ん? 何だ?」


「2人は、なぜ、私たち――人類の情勢をそこまで熟知しているのだ?」


「と言うと?」


「例えば、私たちが金沢市の公認であること、他にもハザードランクの存在などだ」


「あぁ……それか。インターネットで検索したから」

「ですよぉ」


「は?」


 リナは間の抜けた声を漏らす。


「いや、だからインターネット。ここにスマホがあるだろ? 検索するだろ? すると、ハザードランクもリナたちが金沢市の公認であることも、更に言えば、うぇーいwww氏は、ご丁寧にレベルや構成まで教えてくれたぞ?」


「うぇーいwww氏? ……マサカドか?」

「『白銀の勇者』ですねぇ」

「マサカドか」


 リナは盛大に嘆息を漏らした。


 俺はリナの話を聞いて、念のため、第一領域の二階層にいるグールの群れに一階層へ移動するように指示を出した。第二領域は、別段問題はないのでそのままだ。


「ってか、やっぱり人類は、俺たちがインターネットを扱えるって知らなかったのか?」


「魔王の一部がインターネットの掲示板やブログに書き込みをしていると噂はあったが、誰がそんなゴシップを信じる? 魔物を支配する異形の王がインターネットを使って情報収集しているなど……」


「事実は小説よりも奇なり。現代の魔王はハイテクなんだよ」

「と言うか、元々人間ですしねぇ」


 気落ちするリナに、俺とカノンは軽い口調で答えるのであった。


「さてと、今後の予定を話し合う前に……幾つかの検証を始めるぞ」

「検証? と言うことは……おめでとうございますぅ!」


 俺の言葉から状況を理解したカノンが拍手する。


「検証? おめでとう? すまないが、説明を頼む」


 対して、配下になったばかりのリナは困惑するばかりだ。


「簡潔に言えば、レベルアップした」


「レベルが上がったと言うことは、出来ることが増えたのですよぉ。シオンさんは分析大好き魔王ですぅ。口癖は『消費するCPに対しての効果を――ぶはぁ!?」


 何となく、口調がムカついたので手刀でカノンを地面へと叩き落とす。


「えっと、つまり……シオンはレベルが上がったから、出来ることが増えた。その為に、それを検証する。と言うことか?」


 若干引いた目で俺とカノンを見ながら、リナが答える。


「そういうことだな。今回のレベルアップで【創造】のランクが上がったから、出来ることが大幅に増えた。実践投入の前に、色々と検証をしておきたい」


「【創造】……?」


 俺の言葉を聞いたリナが首を捻る。


 そうか。リナはカノンと違って元魔王じゃないから、知らないことが多いのか。一から説明するのは面倒だな……。と言うか、別にリナは立ち会う必要はないな。


「リナ。眷属になったばっかりで疲れているだろ? 何なら休んでいても――」

「心配無用。せっかくの機会だ。立ち会いを希望する」


 俺の見せた優しさは、あっさりと否定される。強引に(命令で)帰してもいいが、リナは俺の陣営で数少ない自由意見を言える人材だ。元勇者の意見を聞くのは、無駄にはならないだろうと判断した。


「カノン。リナに【創造】とか配下とか支配領域を簡単にレクチャーしてくれ」

「はい」


 面倒な説明は全てカノンに任せて、俺はスマートフォンを操作する。


 新たに創造出来る配下の一覧を確認する。


 リリム――ランクC。夢を司る夜の悪霊。誘惑にて敵を惑わせる。腕力は低いが、魔力に優れている。創造CP50。


 リビングメイル――ランクC。亡霊に取り憑かれた彷徨さまよう鎧。本体は亡霊であり、取り憑いた鎧によりその性質を大きく変貌させる。創造CP60


 ウェアウルフ――ランクC。人狼。本能を解き放ち、人間の姿に戻れなくなったライカンスロープ。その本能は人より獣に近い。創造CP80。


 ダンピール――ランクB。人と吸血鬼の間に生まれし存在。太陽の下でその力が衰えることはないが、闇の中でもその力は増幅しない。創造CP120。


 遂に登場! Bランク配下!


 吸血種――ある意味、吸血鬼である俺は、太陽の下では力を大きく落とし、闇の中では大きく力が増幅する。ダンピールにはその特性がないようだ。


 それって普通の人間じゃね?


 まぁ、Bランクで、創造するのに120もCPを消費するのだ。それ相応の強さと信じよう。まさか……ライカンスロープの二の舞ってことはないよな?


 ライカンスロープで思い出した! ウェアウルフってライカンスロープが進化した生物じゃないよな? もしも、そうなら多大に経験値を稼がせていたのが馬鹿らしくなる。


 他にも、『取り憑いた鎧によりその性質を大きく変貌させる』と説明があるリビングメイルには、大きな期待を寄せている。錬成した高ランクの鎧を与えたら強くなるのか?


 リリムはアレだ……。多分、イメージ通りの配下だろう。魔力が優れているらしいので、待望の魔法要員として期待しよう。


 更に、この他にも新たな配下として期待している能力がある。


 レベル5へと成長した時に新たに習得した特殊能力――《乱数創造》。


 《配下創造》とは別枠で習得した特殊能力だ。


 その効果は――『己の全てを捧げ配下を創造。全てのCPを消費する必要がある。創造される配下は乱数の女神に委ねられ、女神が微笑めばユニーク配下が創造される』


 これって、アレだろ? 乱暴な言い方をしたら、配下ガチャだろ?


 R(レア)とか、UR(ウルトラレア)とか存在するのか!? 流石に全CPを捧げてC(コモン)はないよな……? ないよね?


 配下関連以外にも検証したいことは盛り沢山だ。


 俺はカノンがリナにレクチャーし終えるのを、今か今かと待ち続けるのであった。


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