魔王様は不眠不休
「そういえば、シオンさんのレベルは5に成長したんですよねぇ?」
クロエとダンピールの暴走が収束すると、カノンが笑みを浮かべて近付いてきた。
「そうだな」
「と言うことは……《分割》を習得しましたぁ?」
カノンは期待に満ちた視線を向けながら、俺に尋ねる。
《分割》――違う言葉で表すなら委任。【真核】を所有している数だけ支配領域が分割することが出来、分割した支配領域に仮の主を配下から指名出来る特殊能力だ。
《分割》は一見便利そうな特殊能力に見えるが、幾つかの縛りがあった。まずは、仮の支配領域の主は設備の創造は出来るが、配下の創造は出来ない。生命を生み出す行為は魔王の特権と言ったところだろう。更に、分割されるのは支配領域だけではなくCPも分割する必要があった。
分割出来るCPは100単位で設定が出来る。逆に言えば、最低でも最大CPが100下がることを意味していた。
「習得はしたが行使する予定はないな」
「えっ!?」
俺の答えを聞いたカノンが、驚愕の表情を浮かべる。
「理由は二つある」
「出たぁ……シオンさんお得意の先に結論の数を言う――ブハッ!?」
調子に乗ったカノンに手刀を見舞う。
「1つ目の理由は、仮の支配領域を任せられる人材がいない」
「え? ここにいますよぉ! 元魔王の経験者が、ここにいますよぉ」
俺の答えにカノンが激しく自己PRを仕掛けてくる。
「ん? どこにいる? 目の前には、元勇者で創造に慣れていないリナと……人類に攻められて、僅か6日で解放されかけた元魔王しか見えないが?」
「う゛!? そ、それを言われるとぉ……」
「で、どこにいる?」
「更に追い打ちをかけるスタイルですかぁ……流石は魔王ですぅ」
カノンのテンションがみるみると下がっていく。
「まぁ、本音を言えばカノンは常に側に置きたいからな(検索ツールとして)」
「――!? そ、そこまで言われるのでしたら……諦めるしかないですぅ」
一部の真実は心の中にしまい込み伝えると、カノンはもじもじとし始める。
「2つ目の理由だが、CPの減少がキツいな」
最大CPが100下がるというのは、1時間当たりに回復するCPが10下がることを意味していた。1時間で10。10時間で100。1日で240。《分割》すれば、仮の支配領域の主がCP100を獲得し、1時間に10ずつ回復するかも知れないが、その用途は設備の創造だけだ。かなり勿体ない。
「まぁ、現状は支配領域も第一と第二の二つだ。いずれ、支配領域が拡大してキャパシティーオーバーになったら、その時考える」
「わかりましたぁ」
俺の説明にカノンが納得したことで、《分割》の話は終了した。
俺は、スマートフォンを操作してCPを確認する。
現在のCPは240。完全に回復するまで、残り6時間か。
俺は、スマートフォンのメモアプリに入力したやることリストを確認する。
1.新たな配下の創造と検証
2.《乱数創造》の検証。
3.他の魔王が支配する支配領域への侵略会議。
4.眷属の選出。
5.新たな設備の創造と検証。
6.《ミストセパレーション》の実地検証。
7.リナの居住創造。
1は完了している。2はCPが全回復するまで待つ必要があるので、後回し。3と4はセットだな。3の会議を元に投入する戦力を計算して、4を実行。これも、CPが不足している。そうなると、5、6、7から選択か。7は正直、転移のクールタイム中に余りにヒマで入力しただけなので、優先順位は低い。
順当に5から消化するか。次いで、3の会議が終わる頃にはCPは全回復してるだろ。そうしたら、4を消化して……そうなると、楽しみにしている《乱数創造》が後回しになるな……。これは難しい選択だ。
これからの予定に頭を悩ませていると、リナから声をかけられた。
「シオン。すまない」
「どうした?」
「実は……体力が限界だ」
リナが申し訳なさそうに、申告する。
体力が限界? 戦闘もしてないのに?
――!
魔王の生活に慣れ過ぎてしまい忘れていたが、リナ――人類は睡眠が必要だったな。
「ひょっとして、眠いのか?」
「すまない……」
リナは申し訳なさそうに下を向く。話し合いの最中に寝られるよりも、こうして申告してくれたほうがマシなのか。
「寝る場所は必要か?」
「……出来れば」
リナは力ない声で答える。今俺たちがいる場所は4階層の最奥にある洞窟の中だ。洞窟は十分な広さがある。そこら辺で雑魚寝でもしてくれても構わないが……印象が悪いか? そういえば、カノンがリナを説得する時に家をあげるとか言ってたかも知れない。
俺が約束した訳ではないが……しょうがないな。
「少し、待ってろ」
俺はCPを12も消費して、洞窟のすぐ近くに家屋を創造した。ゴブリンなんて、消費CP3の小屋に10匹以上で生活している。それを考えれば、どれほどの好待遇か理解出来るだろう。
創造されたリナの家となる建物は、二階建て構造となったスクエア型の西洋風家屋であった。
「少し豪華過ぎたか?」
俺は敷地面積30㎡程の家屋を見て、本音を漏らす。
「素敵なお家ですねぇ」
「本当にいいのか……?」
カノンは素直に目を輝かせ、リナは遠慮気味な態度を見せる。
「将来的にはルームシェアにする予定だから、今のうちに自分の部屋を決めておくんだな。カノンもついでに、この家に引越してもいいぞ?」
「わかった」
「リナさん、ご同居よろしいですかぁ?」
「構わない」
「それでは、お言葉に甘えますぅ」
リナも元人間で会話も出来るカノンが近くにいたほうが、精神的に落ち着くだろう。
「それじゃ、リナはゆっくり休んでくれ」
「すまない」
「あ!? 私もそろそろ眠たいのですがぁ……」
「そうか。わかった」
リナに続いて、カノンが自分の限界を申告する。俺は、了承する言葉を残してその場から立ち去ろうとすると。
「シオンは寝ないのか?」
リナが俺に声を掛けてくる。
「ん? 俺には睡眠も食事も必要がないからな」
「魔王の特権ですねぇ」
「そ、そうなのか。すまない」
リナは、気まずい表情を浮かべて謝罪の言葉を呟く。
あの目は……同情か? 食事も睡眠も必要がないのだぞ? 羨望されこそすれ、同情される意味がわからない。
俺は静かに、その場を後にするのであった。
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