適性調査
風呂上がりに何気なくテレビを付けると、全てのチャンネルが同じ内容を放送していた。
テレビのスピーカーから繰り返される同じ台詞。
絶えず流れる、言葉を文字に変えたテロップ。
『全ての国民に告げます。至急、適性調査を実施してください』
その後、放送を見ていない家族、知り合いがいれば、適性調査を受けるように伝えてほしいと繰り返す。
この数時間で何が起きた? 先程は、適性検査を受けるなと勧告していたはずだが?
実はこれは素人参加型のドッキリ番組で、どこかで俺の様子をカメラで撮影している?
テレビ局がスマートフォンに迷惑メールを送る仕込みまでするか?
大学で一斉に鳴り響いた迷惑メール。受信していたのは、エキストラではなく、確かに見知った顔の同じ大学の学生であった。
あれだけの人数を動員して、素人の、挙げ句にぼっちの俺を騙す?
あり得ない。
何より、俺が先程見ていたニュースサイトやまとめサイトまでもを巻き込むのは不可能だ。
俺は一抹の不安を抱きながら、スマートフォンを手に取った。
スマートフォンを操作して、迷惑メール――『世界救済プロジェクト』を表示する。
そして、勇気を出して【スタート】の文字をクリックした。
『以下の質問にお答え下さい。虚偽の解答をしても構いません。その場合は、虚偽の解答を選んだと、認識します』
現代のスマートフォンは、健康管理関連のアプリが豊富だ。脈拍や血圧。その日に歩いた距離、速度までもを勝手に測定する機能が備わっている。
恐らく、その機能を使えば簡易的な嘘発見器にもなりえるだろう。実際にその類いのアプリは溢れていた。
Q1 貴方はこの世界に守りたい人はいますか?
1.10人以上いる 2.5人以上いる 3.3人以上いる 4.1人以上いる 5.1人もいない
ん? 仮に12人いるとしたら、1.2.3.4全部当てはまらないか? まぁ、そういう場合は1を選べばいいんだろうが……そういう細かいツッコみたい気分も適性調査されるのだろうか?
ちなみに、俺には両親と妹がいる。家族は大切な存在だ。しかし、守りたい人と言われると、少し違う気がする。まだ、学生の身分である俺は、どちらかと言えば守られている存在じゃないか? 妹も高校生だ。兄である俺が守ると言うのは、少し違和感だ。
となると、彼女? いない。 子供? いる訳がない。
あれ? 俺の場合答えは5になるのか?
何となく、それを選ぶのは嫌だな。
とは言え……結局俺は5――1人もいないを選択した。
その後も、漠然とした質問が続く。
「今の人生に満足していますか?」「この世界は好きですか?」「夢と希望に溢れていますか?」「殺したいほど憎い人はいますか?」……等など。
中には、「嘘は必要ですか?」「嘘は許せないと思いますか?」等、同じ意味じゃないか? と思われる似た質問も多々出て来た。ちなみに、答えは全て5つからの選択だった。
500の質問に答えると、心理テストのような質問へと傾向は変化した。
A.B.C.D.Eという5人の人物の様々なシチュエーションで、どの人物に共感するのか? どの人物を一番許せないか? などの質問が続いた。
そして、告知されていた3時間を大幅に超える5時間を経過した頃、ようやく全ての質問――1000の質問を答え終えた。
『ご苦労様でした。黒崎 紫苑 様。貴方の適性は【カオス】となります。自由と混沌を望む黒崎様を今から【覚醒の間】へご案内させて頂きます』
……え?
そして、俺は意識を失った。
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