ダンジョンバトルロワイヤル〜魔王になったので世界統一を目指します〜

ガチャ空

Episode0

プロローグ


 あの日――全世界を巻き込んだ『大変革』から一ヶ月が経過した。


 俺は今、自分の支配領域であるダンジョンの最奥にて、来たるべき侵攻に備えていた。


 俺の傍らに控えるのは、腰元に銀の剣を備えた半犬半人のモンスター――コボルト。


 目の前には邪悪なる妖精――ゴブリンの集団が、俺の号令を待っている。


 来るがいい――自称勇者の集団よ!


 俺はあの日、自由と混沌――そして創造を求めた。


 まずは、侵攻してくる勇者を撃退しよう。


 俺はこの世界を生き抜いてみせる。自由をこの手に掴む為に。


 その一歩として、俺はこの地――『金沢市』で最強の魔王を目指すのであった。



  ◇



 20XX年。


 世界は滅亡へと向かっていた。


 年々悪化する少子高齢化。超高齢化によるピークは過ぎ去り、全世界の総人口はピーク時の50%未満まで減少していた。


 発達した科学は、人々に安寧を与え、同時に怠惰をもたらした。科学は人々によりよい便利を提供したが、同時に人々から向上心を奪い去った。結果として、多くの人々が出世――成長を拒んだ。


 肥大する兵器は、たやすく人命を消し去り、この星の生命力を摩耗させた。


 テレビを付けると多くのコメンテーターが警鐘を鳴らす。しかし、その言葉はどこか他人事で、違う世界の話のように聞こえた。


 そんな世紀末のような時代。しかし、誰もが危機感を抱かない時代。


 俺――黒崎くろさき 紫苑しおんは大学へと進学した。


 選んだ大学の基準は学力だ。経済学部であるが、特に経済に興味がある訳でも、将来なりたい仕事に関連した学部という訳でもない。単純に俺の学力にマッチした。それだけが理由だった。


 ただ、一人暮らしはしたかったので、地元である東北の仙台市ではなく、北陸の金沢市にある大学を選択した。


 大学というのは不思議な学校だ。今まで通った、小学校、中学校、高等学校、全ての教育機関と異なっていた。


 義務教育は中学校までだったはず。なぜ、高校と大学はここまで違うのだろうか?


 まずは、制服が無い。これは喜ぶ学生も多いかもしれないが、お洒落に疎い俺には地獄だ。制服があれば毎日同じ格好でもよかったが、私服になると毎日同じ格好と言う訳にはいかなかった。しかも、私服のセンスはカースト制度を生み出す可能性までも秘めていた。


 次に授業だ。大学では自分で時間割を作成する必要がある。学校から時間割を提示されないのだ。要は、自分で受けたい授業を決めるのだ。必須科目はあるものの、選び方次第では、週休三日制にすることも可能となる。受けたい授業? ミクロ経済? マクロ経済? 本当にこんな授業を受けたいと願う学生はいるのだろうか?


 そして最後にクラスだ。大学にはクラスがない。うちの大学では二年生からゼミと呼ばれるクラスのような授業が始まるらしいが、一年生にはなかった。


 どうやって友人を作ればいいんだ?


 俺は仙台から来たんだぞ? 友人どころか知り合いすら、一人もいない。


 授業を受けても、座席は毎回自由席だ。固定となるお隣さんもいない。


 話しかけろ? 何て?


 サークルに入れ? あのキラキラ集団に?


 大学とは、ひょっとしてコミュニケーション能力を磨く教育機関なのか? ならば、チュートリアルを……もとい、レクレーションをしてくれ。


 そんな感じで、今日も一人寂しく大学生活を過ごしていた。



  ◆



 大学に入学してから三ヶ月の月日が経過した。


 今日も変わらずぼっちだ。大学の構内にあるコンビニで弁当を買って、ベンチで一人昼食を食していると――電子音が鳴り響いた。


 え?


 電子音を奏でている元凶は、俺のズボンのポケットで震えているスマートフォンだった。


 は? 何で音が鳴るんだよ?


 俺は常時マナーモードだ。


 ってか、久しぶりに着信音を聞いたせいか、電子音が重なって聞こえる。


 俺は恥ずかしさから、慌ててスマートフォンを取り出し、【OK】と映し出されたボタンを連打する。


 メール?


 と言うか、【OK】のボタンを押したにも関わらず、俺の耳には相変わらず不快な電子音が響き続ける。


 周囲を見渡せば、視界に入る全ての学生が慌ててスマートフォンを手に取っていた。


 現在、スマートフォンの普及率は180%。100%を超えている理由は二台以上持っている人がいるからだ。現代で、スマートフォンを持っていない人間は存在しない! といえるほどに、スマートフォンは普及していた。


 俺だけじゃなく、全員?


 Jアラート?


 俺はテレビで見たことがある、スマートフォンに強制的に組み込まれている機能を思い出す。


 何事だ?


 周囲に響き渡る電子音は、徐々にその数を減らし、周囲の学生たちはスマートフォンの画面を覗き込んでいる。


 俺も改めてスマートフォンに視線を落とした。


 なんだこれ?


 スマートフォンは怪しげなメールを受信していた。


『~世界救済プロジェクト開始のお知らせ~


 世界を救済するために、全人類の適性を調査します。


 下記の項目に従って、適性検査を実施して下さい。


 適性検査を受けない人間は【ニュートラル】となり今後不利益を被る可能性がございますので、実施することを推奨します。


 適性検査の実施期間は今から24時間以内。適性検査には3時間ほどの時間を要します。


 それでは、下記ボタンをクリックし、適性検査を始めて下さい。


 【スタート】』


 ――?


 ウィルス?


 俺はウィルスを疑った。


 【スタート】を押したら、金銭を要求される、もしくは個人情報が抜かれる。そういう類いのウイルスだろう。


 今時、こんなウィルスに引っかかる馬鹿はいるのか?


 俺はスマートフォンをポケットに戻し、中断していた昼食を再開したのであった。



  ◆



 その後、大学構内の学生は迷惑メールの話題で持ちきりだった。俺は語り合える友人もいなかったので、予定通りに午後の授業に出席。そして、帰宅した。


 自宅に帰ると、タブレットを立ち上げてネットサーフィンをした。


 ネットニュースもまとめサイトも、迷惑メールの話題で独占されていた。


 記事を読めば、信じられないが……あの迷惑メールは全ての日本人に留まらず、全世界の人間に届いたらしい。


 各通信会社は、一斉に会見を開き、安易に【スタート】をクリックしないことを呼び掛け、政府も被害の多さから異例の会見を開き、【スタート】をクリックしないことを呼び掛けた。


 某匿名掲示板を覗けば、すでに専用スレッドが乱立しており、一番勢いのあるスレッドを覗くと、クリックした人達が書き込みをしていた。


 228 名無しの冒険者 ID:tfdykgr

 俺の適性【ロウ】だったわwww


 231 名無しの冒険者 ID:aofhoqw

 >228 は? マジ? 俺も【ロウ】なんだが


 257 名無しの冒険者 ID:nsfoihf

 >228 俺も【ロウ】

 ちな、ウィルススキャンしたけど、ウィルスなし


 276 名無しの冒険者 ID:ihsfhoa

>257 ウ ィ ル ス ス キ ャ ン www

 個人情報抜かれたなw震えて眠れwww


 281 名無しの冒険者 ID:nsfoihf

 >276 は? ○ー○○先生ナメンナ! 


  282 名無しの冒険者 ID:nsfoihf

 ちな、体験版だけど、大丈夫だよな?


 285 名無しの冒険者 ID:ihsfhoa

>282 体www験www版www


 305 名無しの冒険者 ID:dhoehdb

 【ロウ】以外の勇者はいないのか?


 307 名無しの冒険者 ID:hsuebad

 >305 俺【セカンド】www


 314 名無しの冒険者 ID:wodnruu

 >307 【セカンド】ってギアかよwww


 320 名無しの冒険者 ID:qodkrun

 >んじゃ、俺【カオス】www


 323 名無しの冒険者 ID:oiohdpa

 >320 ○○転生かよ! ゲーム脳乙www


 その後、スレッドは【ニュートラル】【ロウ】から連想される、言葉の大喜利が続いた。


 他の掲示板や、まとめサイトを見る限り、適性【ロウ】は事実の気がする。


 しかし、それ以外の適性は全てネタ扱いされていた。


 適性検査を実施しなかったら【ニュートラル】。実施したら【ロウ】?


 俺はその後も興味本位でネットサーフィンを続けたのであった。



  ◆



 迷惑メールが送信されてから9時間が経過。


 事態は思わぬ方向へとシフトしたのであった。

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