フルーツウォーター、唾液、イワナ
町田さんはイワナ釣りに分け入った山中で、アウトドア用のボトルが木からぶら下がっているのを見つけたことがある。
「最初、フルーツウォーターのボトルに見えたんだよね。イチゴとか、ピンクグレープフルーツとかの……」
ボトルには薄赤い液体と、何か固形のものが中に入っていた。近寄ってじっくり眺めると、細長い固形の表面に細かなブツブツが見えた。
根元から引き抜かれた舌、のように見えた。
まさかそんな、と思ってなおも観察していると、突然ボトルの中で舌がウネウネと動いた。後ずさった瞬間、人気のない山奥に、気の狂ったような女の高笑いが響いた。
「もうイワナ釣るどころじゃなくって」
急いで下山して、街まで逃げ帰った。
山から帰った翌日、町田さんの下唇の内側に、大きな水膨れのようなものができた。粘液嚢胞、つまり唾液腺が詰まったのだ。
噛み潰すと、中から唾液と共に、明らかに短髪の自分のものではない黒髪が、ずるずると出てきた。
以来、例の山には足が向かない。
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