第14話 武器を買おう

 金貨三枚の褒賞を得、俺がその大金を前に目を丸くしていると。


「──そうだレイ。何に使うか決めたか?」


 エディがそう尋ねてきた。


「うーん……いや、特には」

「おっ、じゃあ武器でも買いにいかねえか? 支給されてる剣じゃ流石に頼りねえだろ。まとまった金が入った良い機会だしよ、どうだ?」

「そうだな…………行くか! また折れられても困るし」


 俺たちは翌日、武器屋に行くことにした。


 金貨三枚は俺が持っている銀塊と大体同じ価値がある。突然舞い込んできたそれに、どうするかと頭を悩ましていたところだった。

 俺自身、「武器にこれ褒賞を使っても、毎月の給金があるし、軍で働ける限りは生活に困らないだろうしなぁ……」と考えていた──のだけど。



「……、な」

「あぁ……たしかに、



 そんなこんなで訪れた武器屋で。

 俺たちは値段を確認して、声を震わしていた。


 横で俺の言葉に頷くエディが、素早く顔を寄せてくる。


「おい、どうする? やっぱやめとくか?」


 他にも客がいる店内で、隅に固まって小声で会話をする俺たち。


「オレ、これ買って孤児院に仕送りしたら……ほとんど手元に残らないぜ?」

「でも逆に、ここで買わなかったら次の機会なんてあると思うか? だって──」


 俺はもう一度値札を確認し、こっそりと指を差す。


「これだぞ?」


 階級が上がって支給される剣も少しは良いものになったが、やはり支給品はどこまで行っても支給品。自分で買う逸品とは天と地ほどの差がある。

 旅団長だと言う敵が使ってた赤い両手剣を貰えたら良かったけど、普通に軍に回収されちゃったし……。


 これから先、どんな場面でも命を預ける相棒ぶきが、今にも壊れそうなボロ剣じゃさすがにマズイだろう。この際ドカンと自分専用の業物を買って……うん、悪くない考えだ。

 そんなことを考えていた自分を殴りたい。


 店内を見渡せば、手を伸ばしやすい値段のものがないことはない。

 けれど……良さげなは全て、最低で金貨一枚はする。


「高いってわかってたけど……ここまでか」


 脱力しながらも、憧れを持って眺めてしまう美しい両手剣の数々。

 さきほどゴツい店主にことわり、既に手に取ってみても良いか確認をとっているので、次々と気になるものを握ってみる。大丈夫、持つだけなら無料タダだ。


 ずっしりとした重み。

 安定したバランス。

 今まで使ってきた物とこんなにも違うのか……。


「やっぱ凄──」

「どうだ、いいのあったかい?」


 感嘆の声を漏らそうとしていると、他の客と話を終えた店主に声をかけられた。


 エディと相談している雰囲気を出していたので、話しかけられないと思ってたのに……ってあれ?

 見るとあいつは、少し離れたところで「へぇーこんなのあるのか」とわざとらしく独り言を呟いていた。くそっ裏切り者め! そこは何もないだろ……。


「い、いやぁー……実はよくわからなくて」

「おっ、そうだったのか。んじゃあ何か拘りがあるんだったら言ってくれ。予算と相談してお勧めするからよ」

「ありがとうございます。じゃあ……丈夫さ優先で。予算は──」


 丁寧な対応の店主に、要望を伝える。


 優良店だと聞いて来たのだが、正解だったみたいだ。やっぱり思い切ってこの際、金貨が三枚もあるうちに買ってしまうか。

 そんな気持ちになって予算を考える。


 これくらいの値段の物になってくると、買うなら手の届く範囲で最良の品にしたほうが良いだろう。『また次の機会』は滅多にやってこない。


 剣が折れてしまった経験から、とにかく丈夫なもの。次に使いこなせる重量を念頭に置き、俺は決めた。


「金貨、三枚で」

「…………んえぇ〜え?」


 思い切った予算設定に、少し離れたところでエディが声を裏返す。

 いや、聞き耳立ててたのかよ……。


「金貨三枚で丈夫なやつな。ちょっと待って──っと、そういやがぴったしだな! よし、すぐに持ってくるからな」


 何やら思い当たりがあるようで、店主はそう言って店の奥へと下がって行った。


 そういえば、足もとを見られたりしないかな? と今になって不安になる。だがしかし、そこは兵士たちに評判が良い、『優良店』の名を信じるしかないだろう。

 下手に金貨二枚とか、微妙な予算を伝える必要はなかったはずだ。


「お前、正気か?」


 近くに戻ってきたエディが心の底から心配するような声をかけてくる。


「まあ、やりすぎかもしれないけど……ほら、武器の大切さを学んだばかりだからな。良くなかったらやめればいいだけだし」

「あっ、そういや……そういうものだわな。普通」


 高価な物に目が回り、当然のことを忘れていた俺たちだったが、本来合ったら買う、合わなかったら買わない。それだけのことだったのだ。

 少し待っていると、『黒い両手剣』を持って店主が戻って来た。


「ちょうど今日仕入れたばかりなんだが、これなんかどうだ? 名剣だぜ」


 手渡してもらい、握ってみる。

 鞘も柄も、頭身も。が真っ黒なその剣は、ずっしりと重たく、たしかにこれは『丈夫』だと思わされる。


 だったら振れなかっただろう。でも《力》が上がった今なら、これくらいが丁度いいのかもしれない。


「これ、値段は?」


 不思議と手に馴染み、「これだ!」と直感が働いた。


「儲けを考えたら金貨三枚と、本当は銀貨二枚は欲しいんだけどな……。でも兄ちゃんに似合ってるし、ここは『出会い』を大切にして、金貨三枚ぴったしだ!」

「──あっ、じゃあこれで」


「……んえぇ〜え!?」


 隣でエディが再び声を裏返す。

 てか、どこから出てるんだよその声……。



 満足のいく出会いを経て、俺は新たな武器を手に入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る